……じゃあ。目そらさないでよ

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コラム
放課後の帰り道。

冬の空はまだ明るいのに、
胸の奥だけが妙に薄暗かった。

(悠真……今日、
 ずっとよそよそしかった)

数学の時間も。
昼休みも。
図書室に来たときも。

まるで、
私と目を合わせないように
しているみたいだった。

――それが苦しかった。

ほんの少し前まで、
視線が合うたびに
あたたかくなっていたのに。

(私、何かした……?)

勇気を出して口を開いた。

「ねえ、今日……
  なんか変じゃない?」

「変じゃないよ」

悠真は笑おうとした。

けれど、
その笑顔は目元に届いていない。

“嘘だ” とすぐにわかるくらいに。

「じゃあ、なんで目そらすの?」

凪が問い詰めるように言うと、
悠真は歩みを止めた。

風がふたりの間を抜ける。

夕陽が少し刺さる。

やがて――
悠真は小さな声で言った。

「……さっきの、谷口のこと」

「え?」

「……楽しそうに話してたろ」

(谷口くん……?)

今日、ノートを貸しただけの、
隣のクラスの男の子。

「別に……
 普通に話しただけだよ?」

「それは、わかってるけど」

悠真の言葉は途中で途切れ、
視線は地面に落ちた。

その横顔が、
想像以上に苦しそうだった。

胸がチクリと痛んだ。

(……嫉妬、してくれたんだ)

そう思った瞬間、
胸に広がるあたたかさと同時に――
怖さもこみ上げた。

もし、期待して、
もし、これが勘違いだったら。

息を整えて尋ねた。

「悠真は……
  どうしてイヤだったの?」

しばらく沈黙が続いた。

けれど。
悠真は逃げなかった。

凪の目をまっすぐ見て、
絞り出すように言った。

「……嫉妬したんだよ。
 自分でも、
  びっくりするくらい」

凪の呼吸が止まる。

悠真は続けた。

「谷口が凪を見てたの、
 わかったから。
 あいつの顔……
  見たことない顔してた」

凪の胸の奥で、
何か大きな波が静かに揺れた。

“見てた”
“気づいてた”
“イヤだった”

こんなふうに
本音を向けられるなんて。

凪は、
少しだけ顔を上げて言った。

「……悠真がそんなふうに
  思うなんて、知らなかった」

「俺も知らなかったよ。
 凪のこと、
 こんなに気にしてたの」

胸が熱くなる。

冬なのに、
息があたたかい。

ふたりの距離が、
もう一歩で
触れるほどに近づく。

凪は、
勇気を振り絞って言った。

「……じゃあ。
 目そらさないでよ」

悠真は驚いたように
目を瞬かせ、
ゆっくりと凪を見た。

「……今は、そらせない」

その言葉の重さに、
凪の心は静かに震えた。

そして――

悠真が、
凪の手をそっと掴んだ。

冷たい指先。

その奥にある、
確かな熱。

ふたりはしばらく、
言葉もなく手を繋いだまま
立ち尽くした。

冬の風が、
少しだけやわらかく吹き抜けた。
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