第12話 茉由さんの香りが残るお風呂で、なにをしたかは秘密です。
「ただいまー」
なるべく茉由《まゆ》さんに声が届くように、帰宅を知らせる声を出す。
玄関の棚に鍵を置きながら靴を脱ぎ、家の中に上がる。
茉由《まゆ》さんはまだお風呂かな?結構走ってきたけど、女の人は長風呂って聞くし…。
汗をたくさんかいた状態で、茉由《まゆ》さんに近づきたくなかったから、茉由《まゆ》さんがお風呂から出ているなら、早急に俺も入りたいと思ってた。
洗面台の様子から、茉由《まゆ》さんのいる感じはなかったから、茉由《まゆ》さんの居場所確認をするために、リビングに向かう。
扉を開けてすぐのソファーの影に、茉由《まゆ》さんのロングのカール髪がこぼれていた。
(寝てる…?)
前から回り込んで顔を見ると、茉由《まゆ》さんはきれいな顔で寝ていた。
体制からして、寝るつもりはなかったけど、眠気に負けて丸くなった感じ?
お風呂上がりで、部屋の暖房がついているからといって、足が出ている可愛いパジャマ状態では湯冷めするだろう。
俺がランニング終わりじゃなかったら、茉由《まゆ》さんを抱きかかえて部屋のベットで寝かせてあげるけど、この状態の俺が触るのは衛生的に良くない。
急いで自分の部屋に戻って、ブランケットをとって戻ってくる。
「ごめんね。茉由《まゆ》さんのいないときに、部屋に出入りする男になりたくないから」
俺の匂いがするかもしれないけど、我慢して。
茉由《まゆ》さんにふわっとかけてあげると、安心したのか、ブランケットを抱きしめるようにくるまって、ほっとした寝顔を見せてくれた。
可愛い…、ずっと眺めていたいぐらい。
でも、汗をかいた自分の匂いが不安だし、先にお風呂浴びに行こう。
茉由《まゆ》さんが入った後のお風呂で、俺が正常でいられるかどうかは、わからないけどね。
とんとんとん…。
軽やかな音と、おいしそうな匂いが届く。
体を包むようにかぶさる布からは、碧斗《あおと》くんの匂いがして、自然を安心を感じた。
ゆっくりと目を開けると、まだ見慣れないけど、碧斗《あおと》くんのリビングだ、とすぐに認識できる風景。
ソファーから身を起すと、碧斗《あおと》くんの声が飛んでくる。
「茉由《まゆ》さん、おはよう。湯冷めしてない?大丈夫?」
「…ん、大丈夫。ちゃんとあったかかったよ」
まだ眠気が残る目をこすりながら、声のする後ろの方を振り返ると、碧斗《あおと》くんがキッチンで何かをしている様子が見えた。
「お腹空いてる?時間的に昼ご飯だけど、作ってみた」
碧斗《あおと》くんの優しい声と食欲を誘う匂いに誘われて、ダイニングテーブルまで行ってみると、クロワッサンを使ったBLTサンドに、かぼちゃスープ、エビとブロッコリーのサラダ、デザートのオレンジと、これから飲み物を準備することがわかるコップが2つ。
「おいしそう…すごい…」
「飲み物はなにがいい?コーヒー、紅茶、ココア、緑茶、ほうじ茶、炭酸水があるいけど」
「え、あ、じゃあ、紅茶で」
「暖かいのでいい?ミルク?レモン?ストレート?」
「ストレートで」
手際よく飲み物も準備してしまう。
碧斗《あおと》くんはドリップコーヒーだった。
わたしと同じでストレートで飲むみたい。
碧斗《あおと》くんが並び終えたところで、向かい合わせに座って、いただきますの合唱をする。
「碧斗《あおと》くんの手際の良さと、料理の腕前にびっくりだよ…」
「お姉ちゃんがうるさいからね。これも鍛えられた部分かも」
驚きながらも口に含むと、味もしっかり美味しい。
「めちゃくちゃ美味しい…」
「良かった。茉由《まゆ》さんが喜んでくれるのが嬉しいよ。寝起きだし、色々体が疲れてる中で、重たいものは食べずらいよね。夕ご飯は、一緒に何食べたいか決めよう。必要なものは、またあとで買いに行けばいいから。」
食べ進めながらも、私への配慮を忘れない。
細かいところまで気を配ってくれる碧斗《あおと》くんに強く思うこと。
「碧斗《あおと》くん、モテるでしょ…。聖人君主みたいに立派!中身もイケメンだよ!」
「……、そんなことないよ…」
私の言葉に、申し訳なさそうな顔で、しゅん…と、叱られた後の子犬のような表情をした。
(残り香でなにをしたかは、内緒です。)