疑いと絶望の間・・・東野圭吾の恐ろしさ

記事
コラム
前回の続きです。
私が思う、最低最悪の女の話。

東野圭吾の大ヒット小説「容疑者Xの献身」
ネタばれになっちゃうので、気を付けて先を読んでね!

女を救うために、偽装工作し、殺人者になった男の話なんですがー。
その女はなんと!せっかく男が苦労して偽装工作してやったのに、その「親切」を受け取らず、自首するんです!!

男の努力、全部無駄!
ちゃぶ台ひっくり返し女ですよ。なんと残酷な・・・。

そもそもの発端は、彼女のDV夫。DV夫から逃れるために母娘は隠れ住んでいたが、DV夫に居所を突き止められてしまう。
思い余った彼女の娘がDV男を殴り殺してしまう。娘の罪を隠すため、隣の住人の力を借りることになる。

隣人の数学教師・・・彼女のことが好きだったわけです。自分を犠牲にしても彼女と彼女の娘の生活を守りたかった。

刑務所に入っても、彼女とその娘が幸せでいるなら、それを希望に心穏やかに服役することができたはずなのです。なんなら死刑でもすんなり受け入れたでしょうね。
数学教師であった彼は、計算します。緻密に計算し、自分の逮捕の可能性も、すべて計算に入れていたのです。

それをこの女は!!自首しやがるんです。空気読めないにもほどがあるでしょー!!
そらー、犯人の男、精神崩壊しますよ。
愛していた女が、血も涙も、情けも何もない女だったわけですからねぇ。

社会秩序のためにはこうすべき、などという常識を愛の世界に持ち込むなんて、野暮もいいとこです。

自分で決断できず、DV夫と対決することもできず。
娘に、そのDV男との対決の役を押し付けて・・・
娘を守るためにといいつつも、結局隣人に頼り、彼を殺人者にした上・・・最後の最後でこの女は「良心の呵責」で、自首をする。はぁ?!ですよねぇ。
散々周りの人間に面倒押し付けておきながら、なんです?この女は!!

選べない、決断できない、責任を負いたくない、行動しないというだけで、周りの人々をどんどん不幸に巻き込む女。
数学教師の愛に気づいていながら、自首するという最悪の形で彼の愛を拒絶する。だが、本人自覚なし!
これは、立派な魂の殺人と呼べるのではないでしょうか?

恋愛法廷では、このヒロインの罪はかなり重いですよ、きっと!!
良心というものがあるのなら、彼の魂の救済をすべきだったのです。

彼が身を挺して、踏み台になってくれたのに、今更拒否するという・・・血も涙もないのか、この女には?!
いや、拒否すらしてないんですよ。スルーです、完全スルー!!

男の命をかけた純粋な愛の告白を、平気で無視することのできる無神経で鈍感な女。

むしろ自首したことで「私は法を順守する市民です」という大義名分を手に入れる。
こうなると犯人の男が「法や秩序などどうでもいい」捨て身になって偽装工作したこと、「彼女とその娘が幸せに暮らせたらそれでいい」愛の下に誠実に行動した彼が・・・

ただの「外道」「非道」そのものに落ちてしまうんです。

自分だけ安全圏にいることができる。
捨て身の犯人が、「超えてはいけないラインを超えた」人でなしになるだけ。

ここまで、この残酷なことを、この女、無自覚でやってるんです!
自分は正しいことをしたと思ってるんです!!
この女の罪悪感、全部ピンボケなんです!!!

こんなことされて、それこそが「女」というものである、と達観してる男性がいるとしたら・・・
もはやマゾです、それ。

ガリレオ教授が絡んでくるということが、犯人の緻密な計画をほころびさせる悲劇の始まりだった・・・と、解釈することもできますがー。
そもそもでこの女の覚悟のなさを計算に入れてなかった犯人のミスですよね。
この犯人、「女」について何も知らないんですよ。可哀そうに。
だから、選んではいけない女を選んで、破滅する。

ドイツ語で、zweifelnという言葉があります。
「疑う」という意味です。

ドイツ語、おぉ~と思うどころか、時々ぞくぅ~としますよ。

zweifelnに接頭語のver-を付けますとverzweifeln。
ver-という接頭語は「除去」や「排除」「消滅」というネガティブな意味を添加することもあるのですね。
「疑い」を除去する。「疑い」が消滅する。

verzweifeln・・・絶望する

彼女は自分を受け入れてくれるだろうか?
だけど、どうだろう、ひょっとして、もしかして・・・などとグダグダ考えて、相手の気持ちを疑える状態というのは、まだ最悪ではないのです。多少の希望が残されてるからこそ、人は疑うのです。

すべての望みが絶たれた時、疑いの余地もない時、それが絶望なのです。
「ない」ものは「ない」。それを直視する時、その絶望に耐えられない人は、発狂するのです。
あの数学教師のように。

フツーの女に純度の高い愛をぶつけると・・・核反応起こして大惨事という最悪の例がこの小説ですよね。
東野圭吾さん、あなた・・・頭の中どうなってるんです?!


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