亡き初恋の人の墓参り

記事
コラム
もう10数年前のこと。
ある日、中学時代の同級生の女性から電話がありました。
仮にAさんとしておきましょう。

Aさんとは3年の時に同じクラスだったのですが、
言葉を交わした記憶もなく何事かと思っていると、
数え40の時に亡くなった同級生(B君としておきます)の
墓参りをしたいのだけれど、
場所がわからないので案内してくれないか、
ということでした。

Aさんの家族は全員この街を離れており、
仲良しだった友人もみんな遠くへ嫁いでしまっているので
誰も頼める人がおらず、
思いあまって私に電話をくれた、
というのがことの顛末でした。

本当に申し訳ないのだけれど、
というAさんにこっちに来る予定の日を聞くと、
ちょうどその日は午後から時間が作れるので、
好奇心の塊のような私は
即座に承諾したのでした。

Aさんは確か中学を卒業してすぐにここを離れ、
成人式の時も記憶にもなく
卒業アルバムで顔を確認して
待ち合わせの古川駅に迎えに行くと、
写真とさして変わらぬ顔立ちのAさんの姿が
そこにはありました。

さっそく墓地へいき
線香に火を付けて彼女に手渡すと、
AさんはB君の墓前に線香を手向けてしゃがみ込み、
身じろぎもせずに手を合わせています。

8月の焼けるような日差しの中、
Aさんの肩が小刻みに揺れ、
やがて啜り泣く声が、、、

初恋の
思い出哀し 蝉時雨
まるで、淡い切ない思いを絞り出すかのように。

やがて立ち上がったAさんは、
何かホッとしたようなスッキリしたような笑顔を見せ、
涙の跡を拭きながら
どうもありがとうと深く私に頭を下げるのでした。

あの時彼女の胸を去来したものは何だったのか
私に知る由もありません。
彼女がどのような人生を歩み、
今どんな境遇にいるのか、
それもわかりません。

ただ、お互いが共有した
穏やかな昭和40年代初めの中学時代から
確実に時は流れ、
未来に向かって年を重ねていくという
動かぬ事実があるだけです。

訳のわからないことで
悩んでいるうちに
老いぼれてしまうから
黙り通した年月を
拾い集めて温め合おう

あの「襟裳岬」の歌の一節が
なぜか切なく思い出された昼下がり。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す