プールの悲惨な思い出

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コラム
これは中学2年の夏休みにあった
世にも悲惨な出来事です。

午前で部活を終えた私たち野球部2年生は、
いつも行く川へ出かけ遊んでました。
するとそこへ、
馬というあだ名の体育の教師がやってくるではありませんか。

私たちは肝を潰しました。
というのも、そこは遊泳禁止の場所だったためで、
てっきり脂を絞られるものと覚悟を決めて
身を固くしていた私たちに向かって、
先生は妙な愛想笑いを浮かべながら
いつもと違う気色の悪い猫撫で声でこう言うのでした。

「お前ら、郡の水泳大会に出ないか。」
私たちはお互い顔を見合わせ、どうしようか迷っていると、
続けて先生はこう切り出しました。
「なんたってプールで泳げるのだからな。」

プールで泳げるという甘い言葉に釣られて
思わず承諾したのが運のつき。
大会当日、
引地先生という体育の女教師の引率のもと
プールのある色麻中学校へ勇んで出かけて行って出場したものの、
全員が予選でビリという
屈辱的な成績に終わった私たちはすっかり意気消沈し、
その後にエントリーしていた
リレーの種目の棄権を引地先生に申し出たところ、
先生も即座にそれを了承したのでした。

それと、
この大会に女子の部もあり、
自由型競争に出場した同級生のFさんは
こともあろうに犬かきで泳ぎ出し、
当然ながら結果はビリもビリ。
それも圧倒的なビリで、
ゴールした他の選手がプールから上がってもなお
ゴールのはるか手前でものすごい水飛沫を上げながら
孤軍奮闘を続けたのでした。

あと、
この大会の最後に「潜水」なる種目があり、
これは文字通り水中に潜ったまま時間とは関係なく
その泳いだ距離を競うもので、
そんなヘンテコなものに出るのを誰もが尻込みをしていた時に、
皆の視線は自然と無類のお人好しだったK君に集まり、
「でへへ。」と彼が笑ったことでK君の出場が決まったのでした。

皆が一抹の不安と後ろめたさを胸に
彼の出番を見守りました。
その不安は不幸にも的中し、
スタートの合図で水に潜ったK君は、
あろうことか次の瞬間あっという間に水面に浮かび上がり、
その場に立ち尽くしたまま他の選手の泳ぎを
うつろな眼差しで見つめているのでした。

競技後、
ヘラヘラと照れ笑いを浮かべながら戻ってきたK君に
私たちは必死に笑いを噛み殺しながら
「いったいどうしたのか。」と尋ねると、
彼は「緊張のあまり水に潜る際に息を吸い込むのを
忘れてしまったのだ。」と答えたもので、
私たちは自分たちの不成績を棚に上げ、
堪えきれずに涙を流して笑い転げたのでした。



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