最近、店舗物件の契約を一件進めました。
ただ、今回の契約はかなり特殊な条件が多く、
契約書をまとめるまでに相当細かな調整が必要になりました。
例えば、
・居抜き状態で引き渡すが、退去時はスケルトン返し
・共用部にあるトイレを、今回の契約では借主の専用使用部分として扱う
・トイレの詰まりや故障などは借主負担
・入口の自動ドアやシャッターは残置物
・残置物を変更・撤去する場合には貸主の承諾が必要
といった条件です。
最終的には、通常の契約条項だけでは足りず、
特約も10項目ほどになりました。
店舗仲介をしていると、こういう案件は珍しくありません。
そして今回あらためて感じたのが、
店舗仲介は、物件を紹介して申込みをもらえば終わる仕事ではないということです。
「居抜きだからそのまま使える」とは限らない
今回の物件は、いわゆる居抜き物件でした。
室内には前のテナントが使用していた設備や造作が残っています。
借主からすると、「設備が残っているなら、そのまま使える」
と思いやすいところです。
しかし、今回のケースでは前テナントはすでに半年前に退去していました。
つまり、前のテナントから新しいテナントへ直接、
設備や造作を譲渡する契約ではありません。
ここが非常に重要です。
前テナントと新テナントが直接造作譲渡を行うのであれば、
「このエアコンを譲ります」
「この厨房設備は新テナントへ引き継ぎます」
と設備の所有関係を整理できます。
一方、半年間空室になっており、貸主が現状のまま室内を貸す場合には、
室内に残っている設備が貸主の設備なのか、それとも単なる残置物なのかを整理しておかないと、後々トラブルになりやすくなります。
「それ、設備だと思っていました」が一番揉めやすい
店舗契約で特に注意したいのが、残置物です。
例えば、
・エアコン
・換気扇
・排気ダクト
・グリストラップ
・厨房設備
・給湯設備
・外看板
・シャッター
・自動ドア
など。
借主からすると、
「最初から付いていたのだから、当然貸主の設備だと思っていた」
という感覚になることがあります。
しかし貸主からすると、
「前のテナントが置いていったものだから、故障しても修理するつもりはない」という認識かもしれません。
この認識の違いが、入居後に問題になります。
例えば、夏場にエアコンが壊れたとします。
借主は、
「設備が壊れたので直してください」
と貸主へ連絡します。
ところが貸主から、
「それは残置物なので修理は借主負担です」
と言われる。
借主からすると、「そんな説明は聞いていない」となります。
このようなトラブルを防ぐため、私は店舗契約では、
どの設備が残置物なのかを、できるだけ契約書や特約に明記するようにしています。
特に飲食店は設備区分を細かく確認する
店舗の中でも、飲食店は特に確認事項が増えます。
例えばグリストラップ。
飲食店では重要な設備ですが、
・誰の所有物なのか
・清掃は誰が行うのか
・故障時の修理は誰が負担するのか
・撤去する場合は誰の承諾が必要なのか
まで整理する必要があります。
排気ダクトや換気設備も同様です。
飲食店では、
「この設備が使えると思って物件を借りた」
ということが事業計画そのものに影響します。
だからこそ、物件に何が付いているかだけでなく、その設備を誰が維持管理するのかまで確認しなければなりません。
「居抜き渡し・スケルトン返し」は借主負担が大きい
今回の契約でもう一つ大きかったのが、
引渡しは居抜き、退去時はスケルトン返しという条件です。
これは借主にとってはかなり重要な条件です。
入居時には既存の内装や設備を使えるため、
初期の工事費を抑えられる可能性があります。
これは大きなメリットです。
一方で、退去時には、
・内装
・間仕切り
・天井
・床
・厨房設備
・一部設備
などを撤去して、指定されたスケルトン状態まで戻す必要があります。
つまり、入居時には工事費を抑えられても、退去時に大きな原状回復費用が発生する可能性があるということです。
居抜き物件だから得だと単純に考えるのではなく、
入口と出口をセットで考える必要があります。
トイレ一つでも契約条件は変わる
今回の契約では、トイレについても通常とは違う条件がありました。
場所としては共用部側にあります。
ただし、今回の借主だけが使用する形になるため、
契約上は借主の専用使用部分として扱い、
・日常的な清掃
・詰まり
・借主の使用によって発生した不具合
などについては、借主側で対応する条件にしました。
こうした内容も、曖昧なまま契約すると、
「共用部なのだから貸主が直してくれると思っていた」
「専用で使っているのだから借主負担だと思っていた」
と双方の認識が食い違います。
不動産契約では、当たり前だと思っていることほど、実は双方の認識が違う
ことがあります。
だから細かく書く必要があります。
残置物だから自由に撤去してよいわけでもない
今回、自動ドアやシャッターも残置物として整理しました。
ただし、「残置物=借主が自由に撤去・変更してよい」
という条件にはしていません。
建物の外観や安全性にも関係するため、
変更や撤去をする場合には、事前に貸主の承諾を得る
という条件にしています。
これも店舗では非常に重要です。
借主からすると、自費で設備を変更するのだから自由にできると思うかもしれません。
しかし貸主からすると、退去後も建物を所有し続けます。
そのため、
・外観
・建物設備
・防水
・電気
・看板
・シャッター
・共用部分
などに関係する工事については、貸主の確認が必要になるケースが多くあります。
今回は特約だけで10項目近くになった
今回の案件では、このほかにも細かな条件を整理した結果、
特約だけでも10項目ほどになりました。
契約書が長ければ良いという話ではありません。
むしろ、必要以上に難しい特約を増やせば、
借主にも貸主にも分かりにくくなります。
大切なのは、この物件特有の条件を、双方が同じ認識で契約できる状態にすることです。
何が設備なのか。
何が残置物なのか。
誰が修理するのか。
退去時にどこまで戻すのか。
変更するときに誰の承諾が必要なのか。
こうした部分を契約前に整理しておけば、
店舗仲介は専門性が求められる
住居仲介でも契約知識は必要です。
ただ、店舗仲介はさらに、
・建物設備
・内装工事
・原状回復
・居抜き
・スケルトン
・残置物
・看板
・厨房設備
・排気・給排水
・貸主との条件調整
など、確認する範囲が一気に広くなります。
特に貸主側の媒介に入る場合、
「この条件で募集すればいい」だけでは終わりません。
申込みが入った後に、
借主からどのような要望が出るのか。
どこまで貸主が認めるのか。
契約書へどのように落とし込むのか。
将来トラブルになりそうな部分はどこなのか。
ここまで想定する必要があります。
仲介営業は「成約すること」だけが仕事ではない
仲介会社としては、もちろん契約を成立させることが重要です。
しかし、契約さえすればよいという進め方をすると、
後から大きなトラブルになることがあります。
今回のような案件でも、
「残置物です」
「スケルトン返しです」
と口頭で伝えるだけなら簡単です。
しかし半年後、1年後、数年後に担当者が変わっていたらどうでしょうか。
結局最後に確認されるのは契約書です。
だからこそ、契約時に少し手間をかけてでも、曖昧な部分を残さない
ことが大切だと思っています。
店舗仲介を始めたばかりの方から、こうした相談も受けています
私は店舗・事務所仲介に関するコンサルティングも行っています。
実際に相談されるのは、
「どうやって物件を取ればいいですか?」
という営業方法だけではありません。
例えば、
・居抜き物件の契約条件をどう整理するか
・残置物をどこまで契約書に書くべきか
・貸主と借主の要望が違うとき、どう調整するか
・スケルトン返しをどこまで具体的に書くか
・飲食店でどの設備を確認すべきか
・看板や設備変更についてどんな特約を入れるか
といった、実際の案件についての相談もあります。
店舗仲介は、物件を紹介できるようになっただけでは終わりません。
むしろ案件を取れるようになってから、
「この契約、どうまとめればいいんだろう?」
という場面が増えてきます。
私の仲介コンサルティングでは、一般論を説明するだけではなく、
実際に抱えている案件を見ながら、
「この部分は貸主へ確認しましょう」
「ここは契約書に明記した方がいいです」
「この条件は借主へ事前に説明した方がいいです」
と、一緒に整理しています。
店舗・事務所仲介を始めたものの、実際の案件で判断に迷うことがあれば、
こうした細かな部分から相談していただいても大丈夫です。
店舗仲介は、経験して初めて分かることが本当に多い仕事です。
だからこそ私は、知識だけを教えるのではなく、
実際の案件を一緒に進めながら覚えていくことが、