言葉は便利です。
その場をまとめたり、気持ちを伝えたり、約束を作ったりできます。
ただ、言葉だけで正確に合わせようとすると、
思ったより難しいことがあります。
こちらが丁寧に言ったつもりでも、相手には別の意味に聞こえる。
そのズレは、珍しい失敗ではなく、頻繁に起きます。
ただ毎回答え合わせをする訳でもないので、気づかないことも多い。
私たちは生まれてから、親や学校や世間から言葉を集めてきました。
同じ日本語を使っていても、頭の中の辞典は少しずつ違います。
通じている気がするので気づきにくいですが、
意味の幅と感触は案外バラバラです。
ズレが起きる三つの理由
ズレが起きやすい理由は、大きく三つに整理できます。
一つ目は、各自の辞典が違うことです。
同じ単語でも、過去の経験で重みが変わります。
二つ目は、定義があいまいな言葉が多いことです。
よく使う言葉ほど、説明なしで流通します。
三つ目は、受け取り手の状態で意味が変わることです。
余裕がある日と、疲れている日では、同じ言葉が別物になります。
たとえば、やさしい という言葉があります。
やさしいは良い言葉に見えますが、ここでよく割れます。
強く言わないことがやさしい人もいます。
必要なことを言ってくれるのがやさしい人もいます。
同じやさしいでも、求めている行動が逆になることがあります。
普通も同じです。
普通にしてよと言われて、安心する人もいれば、否定されたと感じる人もいます。
普通の中身が人によって違うからです。
ちゃんとも強いです。
ちゃんと連絡してねは、気づかいに聞こえることもあります。
一方で、監視に聞こえることもあります。
ちゃんとの基準が言葉の中に入っていないので、
受け取る側が自分の基準で決めてしまいます。
言葉のズレは、切り口の違いでも起きます。
たとえば謝るをどう見るかです。
謝るは自分が悪いと認めることだと思う人もいます。
謝るは関係を戻すための動作だと思う人もいます。
切り口が違うまま話すと、同じ言葉でも別の会話になります。
誠意も似ています。
誠意は気持ちのことだと言う人もいれば、
具体的な行動のことだと言う人もいます。
ここがずれていると、どれだけ話しても噛み合いにくいです。
さらに、受け取る側の状態で意味は変形します。
落ち込んでいるときに大丈夫ですと言われたら、励ましに聞こえることもあります。
逆に、軽く扱われたように聞こえることもあります。
言葉そのものより、状態が意味を作る場面があります。
ここまでをまとめると、言葉の不自由さはこうなります。
1 辞典が違う
2 定義があいまいなまま使われる
3 状態で意味が変わる
それでも、言葉が妙に通じる瞬間があります。
言葉が完璧だからではなく、双方に少し協力があるときです。
受け取り手がここから何か拾おうとしていると、言葉は届きやすいです。
ただし、届かないことを受け手の責任にしたいわけではありません。
送り手側にも工夫ができます。
たとえば、定義を一行足す。
例を一つ置く。
誤解されやすい言葉は言い換える。
切り口を先に示す。
この小さな工夫だけで、ズレは減ることがあります。
言葉は不自由ですが、あきらめるしかない道具でもありません。
もしあなたがこの文章を、賛成か反対かよりも、何が起きているかを見るために読んでいるなら、
言葉の限界そのものが、少しだけ見えやすくなるかもしれません。