評価コメントを書く時間、足りていますか?
期末になると、部下一人ひとりの半期を振り返り、成果を言語化し、次の半期への期待を込めたコメントを書く。1人あたり30〜40分。部下が10人いれば、それだけで丸一日が消えます。
管理職のあなたは「毎回、同じような文面になってしまう」と感じているかもしれません。人事担当者のあなたは「評価者によってコメントの質がバラバラ」という課題に頭を抱えているかもしれません。
この記事では、評価コメントの"下書き"をChatGPTに作らせ、人間が最終判断を加える「匿名化ハイブリッド方式」を解説します。具体的には、以下が手に入ります。
- そのままコピペで使える「プロンプトテンプレート3種類」
- AIに渡していい情報と渡してはいけない情報の「使い分けガイド」
- AI活用が倫理的に問題ないかを判断する「チェックリスト8項目」
この方式を導入すると、評価コメントの作成時間が1人あたり40分から15分程度に短縮できることが期待できます。
人事制度運用の書籍知見とAI活用の実践を掛け合わせた、V-PRODUCEの実務設計です。
ただし最初に1つ、強く伝えておきたいことがあります。
AIに評価コメントを書かせること自体は、絶対に難しくありません。
難しいのは、"バレない""倫理的に問題ない""実際に面談で通用する"
の3条件を同時に満たすことです。
この3条件を満たすための具体的な方法は、ここから先に書いています。
AIに書かせていい部分 vs 人間が書くべき部分
評価コメントにAIを使うと言うと、2つの反応が返ってきます。「全部AIに書かせればいい」と「評価を機械に任せるなんて論外」。どちらも極端です。
この記事が提案するのは**「匿名化ハイブリッド方式」**です。考え方はシンプルで、3つのルールだけです。
1. 個人を特定できる情報はAIに渡さない(匿名化)
2. 文章の構造・表現の生成はAIに任せる(ハイブリッドのAI側)
3. 事実の確認・評価判断・人間関係の文脈は人間が書く(ハイブリッドの人間側)
具体的に、何をAIに任せ、何を人間が担うのか。以下の対比表で整理します。
この表の左側だけをAIに任せ、右側は必ず人間が書く。これが匿名化ハイブリッド方式の基本設計です。
ポイントは「AIが評価しているのではなく、AIは文章表現を支援しているだけ」という線引きです。評価の判断そのものは、従来どおり人間が行います。
評価コメント用プロンプトテンプレート(コピペOK)
ここから、実際にChatGPTに入力するプロンプトを3種類紹介します。いずれも個人名や社名を匿名化した状態で使う前提です。
匿名化の具体例
AIに渡す前に、以下のように情報を置き換えてください。
- 社員名 →「対象者」
- 社名 → 削除または「当社」
- 部署名 → 「営業部門」「管理部門」等の一般名称に
- プロジェクト名 → 「主要プロジェクト」「新規案件」等に置き換え
プロンプト① 成果ベースの評価コメント下書き
以下の情報をもとに、人事評価コメントの下書きを200〜300字で作成してください。
【対象者の情報(匿名化済み)】
- 職種:{{職種(例:法人営業)}}
- 等級:{{等級(例:主任クラス・入社4年目)}}
- 今期の主な成果:{{成果を箇条書きで2〜3個}}
- 課題・改善点:{{改善点を1〜2個}}
【コメントの構成】
1. 今期の成果を具体的に認める(2〜3文)
2. 特に評価できるプロセスや行動を1つ挙げる(1〜2文)
3. 次期に向けた期待を述べる(1〜2文)
【トーンの指定】
- 「です・ます」調
- 肯定→課題→期待の順番で
- 抽象的な表現(「頑張った」「よくやった」)は避け、行動や成果に言及する
プロンプト② 改善点を伝えるコメントの下書き
以下の情報をもとに、改善点を前向きに伝える評価コメントの下書きを
150〜200字で作成してください。
【状況(匿名化済み)】
- 職種:{{職種}}
- 改善が必要な行動:{{具体的な行動を1つ}}
- 改善の方向性(評価者の判断):{{どう変わってほしいか}}
【コメントの構成】
1. まず、できている部分を1つ認める(1文)
2. 改善が必要な行動を具体的に指摘する(1〜2文)
3. 「こうすればもっと良くなる」の形で期待を伝える(1文)
【注意事項】
- 人格否定にならないよう、行動に焦点を当てる
- 「〜すべき」ではなく「〜するとさらに良くなる」の表現を使う
プロンプト③ コメントのリライト・ブラッシュアップ
以下の評価コメントを、より具体的で読みやすい文章にリライトしてください。
【元のコメント】
{{あなたが書いた下書きをここに貼る}}
【リライトの方向性】
- 抽象的な表現があれば、行動ベースの表現に置き換える
- 1文が60字を超えていたら分割する
- 「頑張った」「よくやった」は具体的な成果や行動に言い換える
- 全体を200〜300字に収める
使い方の流れ
1. 評価シートから成果・課題を確認する
2. 個人名・社名・プロジェクト名を匿名化する
3. プロンプト①②③のいずれかに情報を入力し、ChatGPTで下書きを生成する
4. 生成された下書きを必ず読み返し、事実関係の確認と評価判断の加筆を行う
5. 最終版を評価シートに転記する
ステップ4を省略すると、後述の倫理的リスクが生じます。必ず人間のレビューを入れてください。
"AIが書いた評価"はバレるのか?
正直に言えば、バレるケースとバレないケースがあります。
バレるケース:
- 複数の部下に対して、構文や言い回しが不自然に似通っている
- 「具体的な事実」が一切なく、汎用的な文言だけが並んでいる
- 部下が「このコメント、前期と同じことが書いてある」と気づく
バレないケース(匿名化ハイブリッド方式の場合):
- AIの下書きに人間が固有の事実やエピソードを加筆している
- 部下ごとにプロンプトの入力情報が異なるため、出力も自然に異なる
- 最終的に評価者の言葉遣いや文体に調整されている
つまり、AIの出力をそのまま使い回すとバレます。一方、匿名化ハイブリッド方式で「下書き→人間が加筆」のプロセスを踏めば、バレるリスクは大幅に下がります。
もう一つ、よく聞かれるのが「AI活用は倫理的に問題ないのか?」という点です。
結論から言えば、匿名化ハイブリッド方式であれば、倫理的にクリアできます。理由は3つです。
1. 個人情報をAIに渡していない(匿名化しているため)
2. AIは「文章表現の支援」をしているだけで、「評価の判断」はしていない
3. 最終的な判断と責任は人間の評価者にある
ただし、これは「匿名化」と「人間のレビュー」を確実に行っている場合に限ります。次のチェックリストで、自分の使い方が問題ないか確認してください。
## | AI評価コメントの倫理チェックリスト
以下の8項目すべてに「はい」と答えられれば、あなたのAI活用は倫理的に問題ありません。1つでも「いいえ」がある場合は、運用方法を見直してください。
特に重要なのは項目7です。AI活用を「こっそり」やると、後から発覚したときに信頼を大きく損ねます。組織としてAI活用の方針を持ち、必要に応じて開示できる状態にしておくことを推奨します。
まだ社内ガイドラインが整備されていない場合は、上記の8項目をそのままガイドラインの骨子として使うこともできます。
AI時代に人事が"手書き"すべきたった1つのこと
ここまで、評価コメントの下書きをAIに任せる具体的な方法をお伝えしてきました。最後に、逆の話をします。
AIがどれだけ進化しても、人間にしか書けないものが1つだけあります。
それは、「あなたのことを見ていた」という事実です。
「Q2の○○の場面で、あなたが△△をしたとき、チーム全体の空気が変わった」。こうした具体的なエピソードは、その場にいた人間にしか書けません。AIは「主体的にチームに貢献した」という汎用的な表現を生成できますが、「あの会議のあの瞬間」を知りません。
人事評価の本質は、制度でも数字でもなく、「私はあなたの仕事を見ている」というメッセージを届けることです。人事制度運用の研究でも、評価の納得感を最も左右するのは「手続き的公正」——つまり、プロセスが公正であると本人が感じられるかどうかだと指摘されています。
「上司が自分の仕事をちゃんと見てくれていた」。その実感が、評価の納得感を生みます。そしてそれは、AIには作れません。
だからこそ、匿名化ハイブリッド方式の価値があります。文章の構造や表現をAIに任せることで、評価者は「観察する」「対話する」「エピソードを記憶する」という本来の仕事に集中できるようになるのです。
AIは、人間の仕事を奪うためではなく、人間が本当に大切な仕事に集中するための道具です。
評価コメントを書く時間を短縮した先にあるのは、部下の仕事を「もっとよく見る」時間です。
この記事は「V-PRODUCE AI×人事シリーズ」の第1回です
次回以降、以下のテーマで有料記事を公開予定です:
- 第2回: 1on1の議事録・振り返りをAIで自動化する方法
- 第3回:応募が来る求人票にAIでリライトするプロンプト集
- 第4回:人事AI導入で"炎上"する3つのパターンと回避策
この記事が役立ったと感じたら、フォローして次回をお待ちください。
参考書籍
- 『図解でわかる 戦略的人事制度の運用』(HR Growth Research)——評価コメントの構造化、手続き的公正の概念
- 『図解 目標管理 理論と実践 100のツボ』(坪谷邦生)——MBO/OKRにおけるフィードバックの設計原則
- 『人事の仕事と心理学』——評価面談におけるバイアス管理、フィードバックの心理的効果
---
本記事はV-PRODUCEが提供する人事実務コンテンツです。
書籍知見をもとにAI活用の実務設計を行っていますが、個別企業の制度・規程に応じた運用判断は各社の責任において行ってください。