『読書講座で生徒さんといっしょに読んだ本のうち、とくに感銘を受けたものを紹介します。』
※読後感を書いたためネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。※
『わたしは食べるのが下手』(小峰書店)は、天川栄人氏による長編小説。
会食恐怖症の葵(あおい)と過食嘔吐で苦しむ咲子(さきこ)の2人の中学生が、学校給食の改革を目指して仲間とともに奮闘し成長していく物語です。
2人が通う鳴橋中学校では、食品ロスをなくそうと完食月間を実施中。
配膳される給食の量が多すぎ、いつも時間内に食べきれない葵にとって、クラスごとに残量が比較されるイベントは苦痛でしかなく…。
あるとき吐き気を催して駆け込んだ保健室で、同じく"食べる"ことに問題を抱えた咲子と出会い、いつしか2人は心を通い合わせていきます。
私自身は嫌いな食べ物もとくになく、給食の経験は小学校だけですが、なんでも美味しくがっついて食べていた記憶しかありません。
ただこの本をいっしょに読んだ生徒さんに話を聞くと、「昼ごはんの時間がとても短くて、量を少なくしてもらわないと食べきれない」とのこと。
配膳や後片付けにけっこう時間が取られるようで、ゆっくり食べたい子にとっては相対的に早食いせざるを得ない状況らしいんですね。
小説の中では、インドネシア人の女の子(イスラム教徒ゆえ宗教上食べてはいけない品目がある)や、家計が苦しく「給食がないと困るよ!」と切実に訴える男の子も出てきます。
「食べる」ことをめぐって、いろいろな立場の子どもたちが描かれ、お互いの違いを理解しながら、少しずつ絆を深めていく様子が描かれていました。
テンポの良い会話が多く、単行本で250ページありますが、読書に慣れた子ならおそらく2~3時間で読めてしまうでしょう。
葵と咲子の2人の視点から描かれ、章ごとに交互に入れ替わっていく展開は、物語を立体的に生き生きとさせるのに大いに役立っていたと思います。
「最後まで残さず食べましょう」「みんなで仲良く食べましょう」
そんな"清く正しい"かけ声になじめなさを感じている生徒もいること、飢えとは長く無縁な社会でも「食べる」ことの難しさは依然として存在すること。
そんなことを考えさせつつ、決して堅苦しくならずのびのびと描かれた魅力あるストーリーを堪能しました。