【短編小説】奇妙な手紙

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『前略、いま君は、どんなことを思いながらこの手紙を読み始めたのだろうか。
期待、それとも不安。たぶん、顔も名前も知らない僕からの手紙を、不安に思いながら読み始めたのだろう。
 いま、君は何かしら、悩みはありますか。勉強、仕事、家庭、対人関係、あるいは、将来について。君はいま、いろいろな悩みを抱えながら生きているだろう。
 いま、君にはそれを、素直に打ち明けられる人がそばにいますか。たぶん、誰も居ないだろう。そんな悩みを持っていても、君は、周囲には明るく陽気に振る舞い、あるいは、孤独な振りしてそうした悩みなど、何もないという顔で、生きているだろう。
 そして、そんな弱みを周囲に気づかれまいとして、泣きたいときも泣かず、怒りたいときも怒らず、言いたいことも半分も言わず、毎日を暮らしているだろう。だから、人から夢は何かと尋ねられても、やりたいことは何かと尋ねられても、君は決して本心を言わず、さし障りのない自分を演じながら、月並みの返事をするだろう。それでいて、君は、心の中では、自分だけは特別な人間だと思っているだろう。
 だが、はっきり言おう。この世に生きている人間に特別な人間など誰一人、居ないのだ。君をいじめる君の友達も、きっと、君と同じような劣等感で、悩んでいるのだ。 君を振った君の相手の人も、君と同じくらい恋愛のことについて悩んだはずだ。
 君のそばで仲間と楽しく談笑している君の友人にも、寂しくて悲しくて、眠れない夜だってあるんだ。

 例え、君が障害者であっても、君の障害で悩んでいるのは、君だけじゃないんだ。ひとりぼっちだって思っている君にも周囲を良くみれば、君の悩みを真剣に聞いてくれる人が必ず、一人は居るはずだ。最初は君を、嘲笑するかもしれない。けれど、君が、本気で語りかければ、きっと、その人は、答えてくれるだろう。そして、君と同じくらいいや、それ以上の苦悩を、君に打ち明けるだろう。

 もう一度、言おう。君は、特別な人間なんかじゃない。そして、この世の中に、特別な人間など、誰一人居ないのだ。他人に出来て、君に出来ないことは、何一つないのだ。君が、そう出来ないのは、君の努力が、いまいち足らないからなのだ。だから、どんな夢でも決して諦めることはない。他人を羨んだり妬んだりしなくてもいいのだ。それに、その足りない努力だって、君が、ありのままに君の力を出せば、すぐに補えるものなのだ。
 ねえねえ、君。一度、素足で土の上を歩いてごらん。
 最初は、小石で、足の裏が、少し痛いかもしれない。でも、がまんして歩いて行けば、すぐに慣れる。慣れて、心地よくなってくる。
 すると、ほら、街のみどりが、鳥のさえずりが、花の色が、鮮やかに見えてくるでしょう。
 生きていくってことも、同じですよ。ありのままの君でいれば、どんな悩みも、乗り越えていけるはず。そして、そこには新しい発見が何かあるはず。
 ここまで読んできて、いま君は、少しは元気が出たでしょう。
 くじけそうになったら、空を見てこの手紙の内容を思い出して下さい。同じ頃、僕も空を見て、君を思っていますから。それが、曇の日でも、雨の日でも。では』

 これが、男子高校生が通学途中に駅で拾った手紙の全文である。

 白い封筒に入った便せんに、手書きで書かれていたものだが、封筒には宛名も差し出し人の名前も書かれてなかった。手紙とは何の関係もない男子高校生ではあったが、読み終えて空を見上げると、彼はなんだか元気が出たような気がした。

                                  完
《蛇足》
 以前、ネット上で公開していた拙作オンライン小説です。

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