【短編小説】おとぎの夢

【短編小説】おとぎの夢

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 ある日の夕暮れ、僕は女子中学生のナルミと公園のベンチに並んで座っていた。そして、明るいナルミは、僕を見ながら話し始めた。

「あたいさ、この前、と言っても一か月も前だけど、学校を休んだの、学校でいやなことあって。その時、あたい、不思議な夢を見たの。ねえ、おじさん、その時の夢の話聞いてくれる。
 あたいさ、気がつくと知らない街にいたの。街全体がまるで中世のヨーロッパって感じで。どこかで見たと思ったら、そう宮崎ハヤオの「魔女の宅急便」。そんな感じなのよ。うまく表現できないから、アニメなんか出したりしたんだけど。おじさん知っている?その映画。そう、ならよかった。その坂道を下りていくとね、川が流れていたの。そんなに大くないわよ。そうね、道頓堀川ぐらいかな。そこに橋がかかっていて、そうアーチ型の。えっ、それって太鼓橋っていうの。知らなかった。そこに一人の女の子が、川を見ながら立っていたの。女の子って言っても、そうあたいぐらい。すごく、落ち込んだような顔をしていたわ。すぐに話しかけようとしたわ。でも、躊躇った。だって、その頃あたい、クラスのみんなからいじめられていたの。いじめでも「しかと」なんだけど。ずいぶん前から続いていたのよ。だから、彼氏いない歴じゃなくて友達いない歴一年って感じだったの。ラジオの身の上相談なんか聞いているとさ、そんな自分から積極的になって友達作れば解決するなんて簡単に言うけど、あたいなんか、そんな答聞くとムカッとくるのよね。お前なんかいじめに合ったことないから、そんなことしか言えないんだろうって。実際、いじめに合えば、わかるわ。積極的になるってことがどれだけ大変か。あたいだって、何度積極的になろって思ったか知れないわ。でも、いくら思っていても出来ないのよ。友達の輪の中に足を踏み入れようとしても、いざとなると足が動かなくなるの。心の中で「積極的になって友達作ろう」って、いくら思ってみてもだめ。念じたこともあるけど、それもだめだったわ。そうそう、わかっているわよ。そうして、あたいが声掛けようかどうしようか迷っていると、その娘が振り向いてあたいを見たの。悲しそうな瞳であたいを見たわ。あたい、思わずその娘に駆け寄り、
「どうしたの」
と聞いたの。そしたら、
「死にたい」
って答えて、また川面を見たの。死にたい、きっとその娘も誰かにいじめられているんだなって、あたい思ったわ。ふと、気になって、
「名前は」
って聞いたら、なんと、
「シンデレラ」
って答えたのよ。シンデレラ、あたい驚いたわ。だって、シンデレラと言えば、あのシンデレラよ。世界で有名な。ビートルズよりもローリングストーンズよりも有名な。何、古いって。おじさんに合わしてあげているんじゃないの。その時になって始めて、どうして外国人に日本語が通じるのか、疑問が湧いてきたの。でも、漫画の世界なら当たり前だし、まあいいかって。きっと、あたい、その時はシンデレラとは同じ境遇だったから心で話していたのかもしれないわね。
「今夜、お城で舞踏会があるのに、私だけいけなくて」
シンデレラはそう言ったの。あたいは、
「魔法使いのおばあさんは」
って聞いたら、シンデレラ、そんな人知らないって感じで首を横に振ったわ。あたい、どうしようって空を仰いだら、日が沈みかけているじゃないの。あたい、すぐにシンデレラの手を取り駆けだしたの。そうでしょう。いまから急いで魔法使いのおばあさんを探さなきゃいけないんだから。そして、二人で街中走り回ったわ。でも、見つからなかった。立ち止まって、あたい、息を切らしながら、途方に暮れていると、シンデレラが、「魔法使いのおばあさんは知らないけど、魔女なら知っている」
ってぽつりと言ったの。何故、それを早く言わないの、って叱ろうと思ったんだけど止めたわ。それより、さっそくその魔女の居るところに急いだのよ。
 魔女の住処は、町外れの小高い山の上にあったわ。あたいは疲れて歩けないほどだったけど、シンデレラは平気な顔で、あたいを引っ張って歩いていたの。やっぱり、継母や意地悪な義姉にいじめられて鍛えられていたのよね。魔女の家の中に入ると、魔女は椅子に腰掛けて居眠りをしていたわ。そして、あたい達に気づいて目を覚ましたの。あたい、初めは魔女の顔、見れなかったの。だって、ひどいブスなんだもの。ブスと言うよりあれは、ソンビ、いえエイリアンみたいな顔していたのよ。だから、あたいは目を反らしたんだ
けど、シンデレラは魔女の顔を見つめていたわ。すると、魔女がシンデレラに、
「どうして、儂の顔を見れる。いままで、儂の顔を初めから目を反らさずに見たのは、お前が初めてじゃ」
と言ったの。シンデレラは、
「あなたの目、死んだおばあさんそっくりなんですもの。私、おばあさん大好きだったから」
と言ったの。あたい、思い切って魔女の顔を見たわ。なるほど、醜い顔だけど、目だけはとても優しかったの。それで、あたいもなんとか魔女の顔を見れるようになったわ。
「ところで、何の用じゃ」
と魔女が聞いたから、あたいが、
「シンデレラ、ううん、この娘をお城で舞踏会に行けるような格好にして欲しいの」
と言ったの。すると、魔女が立ち上がったの。あたい、一瞬ビクッとしたんだけど、魔女はそこに転がっていたカボチャに魔法をかけて、馬車にしたの。魔法使いだけに、やること早いわね。まあ、誰かにも見習って欲しいけど。そう思わない、おじさん。あとは、シンデレラの物語通り。シンデレラもアッと言う間に美しいお姫様に変身したわ。本当に美しかったんだから。まあ、世界中を探してもあれほどの美人はいないわね。あたい、あたいはいいの。そんな人と友達になれただけで十分なんだから。そうして、馬車に乗ったシンデレラは魔女の家から出て行ったわ。ふと、気がつくと後に残ったのが、あたいと魔女。どうしようって急に心配になって、おびえていたら、そこで目を覚ましたの。あたい、飛び起きて妹の部屋へ行ったの。そして、シンデレラの絵本の最後のページを広げたわ。やっぱり、シンデレラ、王子様と結婚して幸せになっていたわ。ねえ、あれって、あたいのおかげなのよ。そうしたら、急に元気が出てきて、翌日から学校へ行くようになったの。いじめ、そんなものなんてこと無くなったわ。だって、あの魔女の顔を思い出すと、みんな優しそうな顔なんですもの。それに、シンデレラだって最初はいじめられていたんだから。そう考えると、あれほど動かなかった足が急に軽くなって、そうクラスのあたいへのいじめなんて、三日でなくなったわ。
 ねえ、おじさん。シンデレラのガラスの靴、どうして十二時になっても元に戻らなかったのか、知っている。あれね、魔女、魔法使いのおばあさんの贈り物だっただって。おじさん、知ってた。きっと、シンデレラが最初から魔女の顔を見たからでしょうね。繰り返して言うけど、シンデレラが幸せになったのは、あたいのおかげなのよ」
 そこで、ナルミの話しは終わった。
 僕は思った。
 むしろ、ナルミのいじめをシンデレラが救ったのだと。もともと、そういういじめを戒めるためにシンデレラの話しがあるのだと。
 それにしても、と思うと、急に怒りがこみ上げてきて、
「確かに、君から見れば僕はおじさんだが、仮にも仮にもだよ。今日から君の担任の教師になったんだ。学校を離れたとは言え、学校は目の前じゃないか。どうして、先生と呼べない」
と、叱った。
 すると、ナルミは舌を出して、いたずらっぽく笑った。
                                                                                                   完

《蛇足》
 以前、ネット上で公開していた拙作オンライン小説です。

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