令和6年度予備試験論文倒産法の答案例です。
来年度からのCBT受験を見越して、少し長めの答案になっています。
【答案例】
設問1
1 財団債権
破産手続開始前3月間の未払給料債権(本件では、令和5年8月21日から同年9月20日までに生じた給料債権の未払分10万円)は、財団債権となる(破産法(以下「法」という。)第149条第1項)。その趣旨は、労働者保護の観点から、破産手続開始直前の労務の提供が破産財団所属の財産の形成や維持に寄与していることを重視して、かかる時期の給料債権を政策的に保護することにある。
財団債権については、破産手続によらずに随時(法第2条第7号)、かつ、他の債権者に優先して弁済を受けることができる(第151条)。
2 優先的破産債権
(1)原則
財団債権となるもの以外の未払給料債権(本件では、令和4年12月21日から令和5年8月20日までの期間の未払分合計80万円)は、優先的破産債権となる(法第98条第1項)。給料債権については民法上、一般の先取特権が認められており(民法第306条第2号、同法第308条)、そのような実体法上の優先的地位を破産手続においても反映するのが公平だからである。
優先的破産債権は、配当手続において優先的に配当を受けることができる(法第194条第1項)。
(2)法第101条第1項
もっとも、管財人は、「優先的破産債権である給料債権の請求権」「について届出をした破産債権者が、これらの破産債権の弁済を受けなければその生活の維持を図るのに困難を生じる恐れがあるときは」、「破産管財人の申立て又は職権に」より行われる裁判所の許可を受けることによって、配当手続を待つことなく、優先的破産債権である給料債権について弁済をすることができる(法第101条第1項)。その趣旨は、生活維持が困難な使用人に対して配当手続を前倒しすることによって、使用人の生活の維持を図ることにある。DのBに対する配当手続によらない弁済は、この規定によるものである。
Dは、Bが解雇されて生活に困窮している旨訴えているので、「破産債権の弁済を受けなければその生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあるとき」(同項本文)に該当すると判断し、また、未払給料を弁済しても他の優先的な債権者を害することはないと判断しているので、但書の「他の先順位若しくは同順位の優先的破産債権を有する者の利益を害するおそれがないとき」に該当すると考えている。
設問2
1 Aの行為のうち、免責不許可事由が問題になるのは法252条1項4号と7号である。
2 4号該当性
Aが行ったFX取引は、投機性が高く、ハイリスクな取引であって、投機行為によって自己の財産を増加させたり減少させたりする行為と言えるので、法252条1項4号の「その他の射幸行為」に該当する。Aは、FX取引によって徐々に損失が大きくなり、その結果、資産が大幅に減少したため、同号の「著しく財産を減少させ」た場合に該当する。また、FX取引による資産の減少のために複数の消費者金融から借入を行っているため、同号の「過大な債務を負担したこと」にも該当する。
3 7号該当性
法252条1項7号にいう「虚偽の債権者名簿」を提出した場合に該当するためには、単に債権者一覧表不記載の認識があっただけでは足りず、破産手続の遂行を妨害する、又は債権者を害する目的があったことが必要であると解すべきである。なぜなら、法253条1項6号が「破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権」を非免責債権としていることからすると、法は単なる不記載の認識にとどまる場合には免責されうることを前提にしていると考えられるからである。
Aは、Eから200万円を借り入れていた事実を認識していたにもかかわらず、申立代理人であるCに対して、故意にその説明をしなかったものであるが、「友人であるEとの関係が悪化することを恐れ」たことがその理由であって、破産手続の遂行を妨害する目的や債権者を害する目的があったとは言えないので、法252条1項7号にいう「虚偽の債権者名簿」を提出した場合には該当しない。
4 上述のとおり、Aは4号の免責不許可事由に該当するが、裁判所は裁量免責(法252条2項)を許可することができるか。
法が裁量免責を認めた趣旨は、形式的に免責不許可事由に該当することだけで免責を不許可とすると、債務者の「経済的再生の機会の確保」という法の目的(法1条)に反する場合があるからである。それゆえ、免責不許可事由が認められる場合であっても、詐害性や不誠実性が著しい事例を除いて、経済的再生の機会を確保するのが相当であると考えられる場合には、柔軟に裁量免責を認めるべきである。
AがFX取引を始めたのは、飲食店の経営悪化による収入減がきっかけであり、その目的自体は責められるべきものではない。Aは、FX取引の損失のせいで消費者金融から借入を行い、その借入金を再びFX取引の資金として使用しているが、窮状を脱却するための策としてやむを得ずに行ったものである上、借入金の使途が細かく定められていたわけではなく、FX取引に使用することが禁じられていたものでもないため、このことだけで詐害性や不誠実性が著しいとまでは言えない。
そのため、裁判所は、Aの経済的再生の機会の確保のために、裁量免責を許可することはできる。
設問3
小問(1)
①の仕入代金債権は、法第253条第1項ただし書各号の債権には当たらないため、免責許可決定の確定により、Aは「その責任を免れる」ことになる(法第253条第1項本文)。この「責任を免れる」効果についてどのように理解すべきか。
この点、債務自体が消滅すると考える見解もあるが、「責任を免れる」と規定した法の文言や免責の効果が保証人に及ばないと規定されていること(法253条2項)から、責任が消滅して自然債務(給付保持力はあるものの訴求力を失った債務)になると考えるべきである。
したがって、①の債権は責任が消滅して自然債務となり、強制執行による満足を受けることはできないが、Aから任意の弁済を受けることは認められる(受け取っても不当利得にはならない)ものとして扱われる。
小問(2)
1 ②の債権は、子の監護に係る請求権(民法第766条第1項)であり、法第253条第1項第4号ハの非免責債権に該当する。
2 ③の債権は、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」(同項第2号)に該当するか問題になる。
まず、同号の「悪意」については積極的害意を意味すると考える。カード利用による飲食であっても、その程度が極端であり、かつ、支払不能によって債権者に損害を与えることを認識していた場合には、積極的害意が認められる。
③の行為は、破産手続開始の申立て等を弁護士Cに依頼した後の行為なので、Aは、債権者となるカード会社に損害を与えることを認識していたと言えるが、高額とはいえ一回の飲食費のための使用にとどまっているため程度が極端なものとまでは言えない。したがって、積極的害意があったとは認められない。
よって、③の債権は法253条1項2号には該当しない。
以 上