夜に読む、恋の記憶 第10話最終話
その夜、私は古いノートを開きました。何かを探していたわけではありません。ただ、部屋を片づけていたら、引き出しの奥から出てきたんです。少し角が折れた、薄いノート。何気なくページをめくると、そこに彼の名前がありました。何度も書いたわけではありません。たった一度だけ。でも、その一文字を見ただけで、胸の奥が少しだけ静かになりました。ああ、ここにも残っていたんだ。そう思いました。スマホの中だけじゃない。写真の中だけじゃない。歌や、駅や、雨の日だけじゃない。こんな何でもないノートの端にも、あの恋は残っていたんだと思いました。そのページには、短い言葉が書いてありました。「ちゃんと好きだった」たぶん、あの頃の私が書いた言葉です。誰にも見せるつもりなんてなくて、きっと自分でも忘れていました。でもその一文を見た時、少しだけ泣きそうになりました。あの頃の私は、うまく愛されなかったことばかりを気にしていました。連絡が来ないこと。会えないこと。言えなかったこと。選ばれなかったこと。そんなことばかり数えて、自分の恋が間違いだったように感じていました。でも、違ったのかもしれません。ちゃんと好きだった。それだけは、嘘じゃなかった。不安になった日も。期待してしまった夜も。ひとりで泣きそうになった帰り道も。全部、ちゃんと誰かを大切に想っていた時間でした。私はそのページを、しばらく見つめていました。消したい過去ではありませんでした。戻りたい過去でもありませんでした。ただ、もう抱えて歩かなくてもいい記憶になっていました。彼を好きだった私を、恥ずかしいと思わなくていい。あんなに待ってしまった私も。言えないまま終わらせた
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