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たったそれだけなのに、凪の胸はまだ落ち着かない。

「おはよう」陽菜はそう言って、自分の席に座った。たったそれだけ。たったそれだけなのに、凪の胸はまだ落ち着かない。窓から朝の光が差し込む。教室には少しずつ人が増えていく。友達同士の話し声。机を動かす音。いつもの朝。でも凪だけは、どこか上の空だった。陽菜が来た。それだけで安心した。その事実が、思った以上に大きかった。「凪」突然呼ばれる。振り向く。陽菜だった。「昨日、ちゃんと眠れた?」凪の心臓が跳ねる。「え?」「なんか考え込んでたじゃん」陽菜は何でもない顔で言う。覚えていたんだ。昨日の帰り道。相合傘。"まだ悠真のこと好きなの?"その時の自分の思いが・・・。凪は少し視線を落とした。「まあ……普通」嘘だった。全然普通じゃなかった。でも、それを言えるほど素直にもなれない。陽菜は少し笑う。「そっか」それ以上は聞かない。その距離感が、また陽菜らしかった。チャイムが鳴る。先生が入ってくる。授業が始まる。でも凪は、黒板より気になるものがあった。数列前の席。陽菜の後ろ姿。風が吹く。窓際から入った風が、陽菜の髪を少し揺らした。その瞬間。凪はふと思う。陽菜は、どうしてあんなことを聞いたんだろう。"まだ悠真のこと好きなの?"ただの世間話?それとも、何か理由があった?考え始めると止まらない。そして、その時だった。休み時間。陽菜のところへ、クラスの女子が集まる。「陽菜ってさ」「好きな人とかいないの?」その言葉に、凪の手が止まった。心臓が、一度だけ大きく鳴る。聞くつもりなんてなかった。なのに、耳が勝手にその先を待っていた。
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