ちょっとだけ、話せる?
夜、深くなる。時計の針の音だけが、部屋に響く。凪は、ノートを見つめたまま動かない。「わたしは、どうしたい?」書いたままの一行。答えは、まだないけど、その問いを消したくはなかった。(……逃げないって、こういうことかも)凪は、ゆっくりペンを置く。窓を開ける。少し冷たい風が、部屋に入ってくる。胸の中のもやもやが、少しだけほどける。そのとき、スマホが、ふっと光る。メッセージ。差出人――陽菜。凪の指が、少しだけ止まる。ゆっくり開く。「ねえ、起きてる?」短い一文。いつもの軽さ。でも、今は、少し違って見える。凪は、少しだけ迷ってから打つ。「起きてるよ」すぐに、既読がつく。少し間。それから、「ちょっとだけ、話せる?」その言葉に、凪の胸が、少しだけ強く鳴る。(……来た)逃げないって決めた夜。凪は、小さく息を吸う。「うん」短く返す。すぐに、通話の着信。画面に映る名前。陽菜。凪は、一瞬だけ目を閉じる。それから、通話ボタンを押す。「……もしもし」少しだけ緊張した声。向こう側で、陽菜が小さく笑う。「なんかさ」軽く始める。その奥に、本音がある。「今日の続き、しよっか」その一言で、空気が、少しだけ変わる。そして、止まっていた“関係”が、静かにもう一度、動き出す。
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