★物語『涙が真珠なら』
涙が真珠なら第1章
午前二時、部屋の湿度は二十パーセントを切っていた。
乾いた空気が喉に張り付く不快感よりも、手の中にある長方形のデバイスが放つ沈黙の方が、瞳の神経を逆撫でしていた。液晶画面から溢れる青白い光だけが、暗いワンルームの天井に四角い影を焼き付けている。
「既読」
その二文字が表示されてから、五十四時間が経過していた。
瞳は、冷え切った指先で画面をスクロールした。相手の最後のメッセージは、なんの意味もないスタンプが一つ。それに対して送った私の質問は、デジタルの海に飲み込まれ、ただ静止している。
指先が微かに震えていた。寒さのせいではない。これは、出口のない迷路を歩かされ続けている徒労感による震えだ。
現代の恋は、指一本で始まり、そして指一本で抹殺される。
そこには別れの言葉も、涙を流すための儀式もない。ただ、プツリと回線が切れるような、音のない拒絶があるだけだ。
瞳は膝を抱え込み、自身の身体を小さく折りたたんだ。スマートフォンが熱を帯びているのとは対照的に、自分の体温が急速に奪われていくのを感じる。心臓が打つリズムだけが、耳の奥で不快なほど大きく響いていた。
「……息が、できない」
独り言は、乾燥した空気に吸い込まれて消えた。
この青い光の監獄から逃げ出さなければならない。瞳は衝動的にベッドから立ち上がった。ここではないどこか。電波の届かない場所、あるいは、このデジタルの沈黙を掻き消してくれるほどの、圧倒的な「音」がある場所へ。
脳裏に浮かんだのは、鉛色の空と、荒れ狂う冬の海だった。
第2章
横須賀線からバスを乗り継ぎ、立石海岸に降り立った時、
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