ふと、同じ空を見上げるとき 〜奈央さんの午後〜
あの日の午後、奈央さんは駅までの道を歩いていた。日差しは強いけれど、風が少しだけやさしくなった気がして、「夏も中盤かな」なんて思いながら。信号待ちで立ち止まったとき、向かいのベンチに座る女性と、ふと目が合った。見知らぬ人だけれど、そのまなざしの奥に、奈央さんはなぜか、ふっとさみしさを感じた。「なんでだろう。話したこともないのに…」そうつぶやいたとき、ふと思い出した。――たしか心理学では、人の感情は表情や空気を通して 無意識に伝わるって言ってたような…。歩き出した奈央さんの耳に、公園から届く子どもたちの笑い声が、風に乗ってやってくる。その音に、胸の奥が少しやわらかくなった。「あの人も、誰かの声が聞きたかったのかもしれないな…」知らない誰かの気配に心がふれて、不思議と自分の気持ちまで軽くなっていく。きっと、人ってみんなバラバラに生きているようで、どこか奥深いところでは、つながっているのかもしれない。奈央さんは駅のホームで空を見上げた。誰かの心の天気と、自分の心の雲が、少しだけ重なったような気がしたから。
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