極寒の中で
極寒の中で私はさまよっている。
この辺りはもし、今が1月の下旬でなかったら、穏やかな草原だ。
ところが、この時期はどうだ。
一歩間違えば、凍死しそうな寒さが肌を刺す。
つま先の感覚もすでになくなっている。
吐く息が白く立ちのぼっていく。
体温はどんどん低下し、私の体力を奪っていく。
このまま雪に埋もれて死んでいく人生もいいんじゃないか。
そんなことも考えている。今日、妻の美代子が家を出て行った。
いつもと同じ朝だった。
ただ、やけに静かだと思った。
いつものように美代子が家事をする物音が全く聞こえてこなかった。
いつもなら私が目覚める時間帯には、朝食の用意などで忙しく動く音が台所のほうから
聞こえてくるはずだった。
私はそれでも「寝坊でもしているんだろう」と考えていた。
今思えば、無意識に、昨日の「気がかりなこと」から目をそらそうとしていたのかもしれない。
実はその前の晩、その「気がかりなこと」があった。
晩御飯のあいだ、テレビをみているときにも美代子は何か考える素振りをみせることがあった。
「今日、何か嫌なことでもあった?」
私は思い切って聞いてみた。
「ううん、別に。ちょっと疲れてるだけ」
私と目を合わせることもなく、再び、自らの世界に戻ってしまった。
その様子は、いつもの美代子とは明らかに違うものだった。
私は気を紛らわせようと話題をわざとそらした。
「今日、同僚の北村が懲りずにまた発注ミスをやらかしてさ…」
そんなことを話している間も、心ここにあらずという様子は変わらなかった。
「ちょっと疲れてるから、先に寝るね。洗い物は明日、やるから」
最後にはそう言い残して、自分の
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