世阿弥 ( ca 1424 )『花鏡』 「離見の見(りけんのけん)」
舞に、目前心後と云ふことあり。「目を前に見て、心を後に置け」
となり。(中略)見所より見る所の風姿は、わが離見なり。しかれば、
我が眼の見る所は我見なり。離見の見にはあらず。離見の見にて見る所
はすなはち見所同心の見なり。その時は、我が姿を見得するなり。
(中略)眼、まなこを見ぬ所を覚えて、左右前後を分明に案見せよ。(※)
室町時代に能の形を確立した世阿弥はその理論を子孫に相伝するために数多くの能楽書を残しました。「風姿花伝」「花鏡」はその中でも代表的な書で、そこに記された数々の言葉は今日では私たちも目にすることができ「初心忘るべからず」「秘すれば花」などはよく知られています。これらの言葉とともに世阿弥を代表する言葉にこの「離見の見」があります。
私がコーチングについて学び始めた頃、知人の演劇専門家にコーチングでよく言われる「外からの視点」について話した時に「それは『離見の見』と言うんだよ」と教えられました。
「眼、まなこを見ぬ」つまり自分の目は自分の目を見ることができないのと同様に自分自身が演じる姿は自分では見えない。だから見所、客席からの見え方を常にまなこにうかべて演じなければいけない、ということです。
外からの視点で自分を見つめる、という考え方はこの「離見の見」に見事に表されています。実に600年前のことです。
※ 土屋惠一郎、NHK「100分de名著」ブックス 世阿弥 風姿花伝
NHK出版(2015)、p94
他に世阿弥の言葉への「道案内」として例えば、100人の著名人がそれぞれに印象深いと思う言葉について綴った次の書がある。
山中玲子(監修)、世阿弥のことば100選、檜書店(2013)