記憶に残る仕事には、技術だけではない何かがあります。
上手い。
丁寧。
早い。
気が利く。
もちろん、それらは大切です。
でも、人が本当に覚えているのは、その人の中にある「譲れないもの」なのかもしれません。
その人が、どうしても大事にしてしまうこと。
頼まれていなくても、つい見てしまうところ。
他の人なら流すところで、立ち止まってしまうこと。
そこに、その人らしさが出るのだと思います。
私は、ワインやペアリングを考えるのが好きです。
でも、私が本当にやりたいのは、ワインを出すことそのものではありません。
私が大事にしているのは、
人の世界を少し広げて、それを楽しんでもらうこと
です。
知らなかった味に出会う。
遠いと思っていたワインが、少し近くなる。
「これ、面白いですね」と笑ってもらう。
自分の中になかった感覚が、少しだけ増える。
その瞬間が好きなのだと思います。
だから私は、ただ料理に合うお酒を探しているわけではありません。
その一杯によって、どんな気づきが起きるか。
どんな驚きがあるか。
どんな違和感が、あとから納得に変わるか。
どうすれば「おもしろいなあ」と感じてもらえるか。
そういうことを考えています。
おもしろい、という感覚は、ただ笑えるということだけではないと思っています。
おもしろいには、気づきがあります。
少し世界の見え方が変わる感じがあります。
今まで別々だったものが、ふっとつながる瞬間があります。
だから私は、「おもしろい」を大事にしています。
これは、ワインだけの話ではありません。
発信でも、企画でも、サービスでも、同じことを考えています。
どうすれば読み手の中で、何かが少し動くのか。
どうすれば、ただの情報ではなく、その人の気づきになるのか。
どうすれば「なるほど」ではなく、「ああ、そういうことか」まで届くのか。
結局、やっていることはあまり変わらないのだと思います。
形は変わっても、譲れないものは残ります。
ワインを使うときもある。
言葉を使うときもある。
問いを使うときもある。
サービスの流れを考えるときもある。
でも、その奥にあるのはいつも、
人の世界を少し広げたい
という感覚です。
譲れないものは、意識しなくても磨かれていきます。
なぜなら、それを外してしまうと、自分の仕事ではなくなるからです。
人から見れば小さなこだわりでも、自分にとってはそこを外すと全部が違ってしまう。
だから、何度もそこに戻る。
何度も考える。
何度も試す。
うまくいかなくても、なぜかやめられない。
そうやって磨かれたものが、その人のスタイルになるのだと思います。
スタイルは、無理に作るものではないのかもしれません。
人に見せるために整えたものではなく、
どうしても譲れなかったものが、積み重なって外に出たもの。
だから、記憶に残る仕事には、その人の譲れなさが残っているのだと思います。
あの人の説明が好きだった。
あの人の出し方がよかった。
あの人の考え方が面白かった。
あの人がいるから行きたかった。
そう言われる仕事は、技術だけではなく、その人のあり方ごと届いている。
だから、自分の譲れないものは大切にしていい。
それは、わがままではなく、仕事の核かもしれません。
あなたが何度も考えてしまうこと。
つい熱が入ってしまうこと。
人から見れば細かいのに、自分だけはどうしても気になること。
その中に、あなたのスタイルがあるのかもしれません。
そして、そのスタイルこそが、誰かにとっての「あなたがいい」になるのだと思います。