『元刑事』の医療現場奮闘記~第9回:【統計の真実】~交通事故より多い『医療の現場』で、どう生き残るか~

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法律・税務・士業全般
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皆さん、お疲れ様です。
このブログを読んでくださっている方の多くは、今まさにトラブル対応の最中にいるか、あるいは組織の“火消し役”として矢面に立っている方ではないでしょうか。

トラブル対応は、想像を絶する重労働です。事象を俯瞰し、当事者の心理を探り、証拠を調査・評価し、コンプライアンスを遵守した上で組織の決定を伝える。
時には猛烈に憤慨する相手を前に、戦略と胆力、共感力をフル動員してミッションを完遂しなければなりません。

この仕事は極めて高度なスキルが求められる、組織の要です。
担当されている皆さんは、ぜひご自身の役務に大きな誇りと自信を持っていただきたい。
そう心から願っています。

さて、今日は少し視点を変えて、数字から見る「現場のリスク」についてお話しします。

【交通事故との比較:道路の上より危険な場所?】

私たちは「交通事故に遭う確率」には敏感です。
車に乗ればシートベルトを締め、歩行中も左右を確認します。

しかし、「医療事故に遭う確率」についてはどうでしょうか。
交番の警察官として交通事故の処理も経験してきた私の目から見ると、そこには衝撃的なデータがあります。

実は、年間で報告される医療インシデントの発生率は、交通事故の発生件数を遥かに上回っているのです。

ここで、最新の公定統計を比較してみましょう。
・交通事故(2023年 警察庁統計): 年間約 30万件
・医療事故・インシデント(2023年 医療機能評価機構): 年間約 111万件超

この「111万件」という数字、実は氷山の一角に過ぎません。

この報告事業に参加しているのは全国の医療機関の約1割(主に大病院中心の約1,000施設)です。
全国に約8,000ある病院、10万以上の診療所を考えれば、日本全体で起きている「ヒヤリ・ハット」は、この統計の数倍から十数倍にのぼると推測されます。

さらに注目すべきは「密度」です。

交通事故は全人口1.2億人が対象ですが、医療インシデントは「受診している患者さん」という限定された範囲での数字です。

現場の皆さんが「トラブルの火種」に遭遇する確率は、日常生活で事故に遭う確率とは比較にならないほど高いのです。

自動車を運転する際のシートベルトは、搭乗者の命を守るだけでなく「安全運転への意識」を切り替えるスイッチになります。

医療現場の皆さんも、この高いリスクを認識し、「心のシートベルト」を締めることで、防げるトラブルの多くは回避できるはずです。

【「医療事故」=「医療過誤」ではないという救い】

ここで、現場で戦う皆さんにとって大切な視点をお伝えします。

「事故」が起きたからといって、そのすべてが「過誤(ミス)」ではありません。

人間の体は複雑で、100%の結果を保証できる診療など存在しません。
不可抗力によるアクシデントは必ず起こります。

しかし、患者側の目は、往々にして「事故=ミス(病院が悪い)」と直結させてしまいます。
この「認識のズレ」こそが、紛争の火種なのです。

実は私も、刑事時代は「医療過誤事件」を担当する部署も経験しました。

当時は医療事故が起きれば「何らかの過失が医者にあるはずだ」という厳しい目で見ていた時期もあります。

しかし、実際に病院の内側に入り、医療者がどれほど熱い想いで患者さんと向き合っているかを知り、その考えは180度変わりました。

思わぬ結果に対し、患者やその家族からの猛烈な抗議に圧されて安易に責任を認めてしまえば、医療そのものが崩壊してしまいます。

「全てが過誤ではない」ということを、組織として毅然と、かつ丁寧に説明する姿勢が必要です。

【「過誤」と言わせないための「記録」と「説明」】

警察の捜査でも、「意図的か、過失か、あるいは不可抗力か」の境目は、感情ではなく「客観的な事実」に委ねられます。
それは医療現場も全く同じです。

刑事は事件の裁判を常に意識して捜査を行いますが、医療者も「自身が裁判の被告になるリスク」を念頭に置いて業務に従事する必要があります。

特に意識をしていただきたいのは、以下の2点です。
・適切なプロセスを証明する「記録」
・リスクを事前に共有していた「説明(インフォームドコンセント)」
これらこそが、スタッフを法的・社会的な攻撃から守る唯一無二の「盾」になり、自身を守ることになります。

証拠がなければ、どんなに誠実な診療も「言い訳」にされてしまう。
これが紛争現場の冷徹な真実です。

【高確率な事象に「無防備」でいるリスク】

事故をゼロにすることは不可能です。
しかし、事故を「過誤」にさせない、あるいは「泥沼の紛争」に発展させない技術は確実に存在します。

最新のデータによれば、重大な「医療事故(アクシデント)」だけでも年間 5,116件(2023年年報)報告されています。

これほど高確率で起きる事象に対して、何の準備もせず無防備でいること……それこそが、スタッフを危険に晒す「最大の組織的過誤」ではないでしょうか。

自院のスタッフを孤独な戦いに放り出さないために、記録や説明の整理に不安がある場合は、状況に応じた具体的な整理もお手伝い可能です。

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