不安との共存
幼少期の不安定な環境や周囲の不安は、大人になっても無意識に残り、特定の状況で強い不安や防衛反応として表れることがあります。心理学者ジョン・ボウルビィは、幼少期の愛着環境が成人期の情動調整や対人関係に影響することを指摘しており、幼少期に安全基地を十分に経験できなかった場合、無意識に不安を感じやすくなることが知られています。また、カール・ユングの理論では、無意識に蓄積された幼少期の経験や感情は成人の行動や感情反応に影響を与えるとされ、心の奥底で生き続ける過去の感情がトリガーによって表面化することが説明されます。
心地よい空間や心理的安心を作ろうとすると、過去の不安や防衛反応が表面化することがあります。これは自己妨害や無意識の抵抗(resistance)と呼ばれています。長年の学習パターンが変化に戸惑い、過去の防衛反応が活性化されるためです。レオン・フェスティンガーの認知的不協和理論の観点からも、新しい安心や安定を作ろうとする意図が、過去の無意識の信念や感情とぶつかることで心理的な葛藤が生じやすいことが示唆されます。
こうした感情を観察しラベル付けすることで、無意識に巻き込まれる影響を減らすことができます。アーロン・ベックの認知療法では、思考や感情を客観的に認識し、現実との区別を意識することが情動調整に有効であるとされています。不安が湧いたときに「これは過去の防衛反応であり、現在の安全とは別」と認識することは、理論的にも心理的に有効な手法です。
さらに、自己効力感(self-efficacy)の概念はアルバート・バンデューラによって提唱され、個人が目標達成や問題解決において能力を発揮できると信じる感覚が、感情の安定や困難への対処力に大きく寄与することが示されています。
自分で安心や安全を作り出す経験は、幼少期の不安や防衛反応に対する心理的な支えとなります。幼少期の感情や防衛反応は消えるわけではありませんが、それとともに生きながら、自己効力感を基盤に安心を創造することは、感情に巻き込まれずに適切な距離感を保つための強力な力となります。
過去の不安や防衛反応が出てきた時には、まずは理性的にいつの感情なのか、なぜその反応が出てくるかを分析してみましょう。そして、その不安や反応は幼少期の自分にとって当然のことであり、自分を守るための防衛反応であったと認めることが大事です。決して、その反応のせいで今の人生がおかしくなっていると過去の自分を責めないで下さい。
心の安定は自分のインナーチャイルドとの関係が顕著に表れます。
過去の自分はできなかった、でも今の自分なら大丈夫とインナーチャイルドに語り掛け、今の自分が寄り添ってあげることで、インナーチャイルドが少しづつ安心して、過剰に出ていた防衛反応がおだやかになっていきます。