従業員を雇用している会社では、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿等を整備し、一定期間保存しておく必要があります。これらは一般に「法定三帳簿」と呼ばれ、会社の労務管理の基本となる重要な書類です。
しかし、実務では「賃金台帳はあるが労働時間数が記載されていない」「出勤簿に始業・終業時刻が残っていない」「退職者の労働者名簿を保存していない」など、必要な項目が不足しているケースも少なくありません。
法定三帳簿は、労基署調査でも確認されやすい書類であり、不備があると行政指導や未払い残業代トラブルにつながる可能性があります。
この記事では、法定三帳簿である「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿等」について、それぞれの役割、記載事項、保存期間、実務上よくある不備をわかりやすく解説します。
1 労働者名簿とは
労働者名簿とは、従業員ごとの氏名、生年月日、住所、雇入年月日などの基本情報を記録する帳簿です。会社は、従業員を雇用する場合、労働者名簿を作成し、必要な事項を記載しておく必要があります。
労働者名簿には、氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入年月日、退職または死亡の年月日、その理由などを記載します。単に従業員の名前だけを一覧にしておけばよいわけではなく、法律上必要とされる項目を整備しておくことが重要です。
また、労働者名簿は、入社時に作成して終わりではありません。住所変更、業務内容の変更、退職などがあった場合には、実態に合わせて内容を更新しておく必要があります。
実務上は、入社時に作成したまま更新されていなかったり、退職者分の労働者名簿をすぐに廃棄してしまったりするケースがあります。しかし、労働者名簿は一定期間保存する必要があるため、在籍中の従業員だけでなく、退職者分についても適切に管理しておくことが大切です。
労基署調査では、労働者名簿を通じて、従業員の雇用状況や退職状況などを確認されることがあります。労務管理の基本資料として、最新の情報が反映されているか、必要な項目が漏れていないかを確認しておきましょう。
2 賃金台帳とは
賃金台帳とは、従業員ごとの賃金の支払状況を記録する帳簿です。会社は、従業員に賃金を支払うたびに、賃金台帳へ必要な事項を記載しておく必要があります。
賃金台帳には、氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数、基本給や手当など賃金の種類ごとの金額、控除額などを記載します。単に給与明細を発行していれば足りるというものではなく、労働時間や賃金の内訳が確認できる状態にしておくことが重要です。
賃金台帳は、労基署調査でも確認されやすい重要な帳簿です。出勤簿等の勤怠記録と照合し、実際の労働時間に応じた賃金が適切に支払われているかを確認されることがあります。日頃から、賃金台帳と勤怠記録に矛盾がないか、必要な項目が漏れていないかを確認しておきましょう。
3 出勤簿
出勤簿とは、従業員の出勤日、始業・終業時刻、休憩時間、時間外労働時間などを記録し、実際の労働時間を確認するための帳簿・記録をいいます。会社により、様々なものがあります。
会社は、従業員の労働時間を適正に把握する必要があります。そのため、単に「出勤した」「休んだ」という記録だけではなく、何時から何時まで働いたのか、休憩を何分取得したのか、時間外労働や休日労働、深夜労働がどの程度あったのかを確認できる状態にしておくことが重要です。
出勤簿には、紙の出勤簿だけでなく、タイムカード、勤怠管理システム、ICカードの記録、パソコンのログなどが含まれる場合があります。実務上は、客観的な記録に基づいて労働時間を管理することが望ましいです。
特に注意が必要なのは、出勤簿上の時間と実際の労働時間が一致していないケースです。たとえば、始業前に朝礼や清掃を行っている、終業打刻後に業務を続けている、休憩時間中に電話対応や来客対応をしているといった場合、記録上は労働時間に含まれていなくても、実態として労働時間と判断される可能性があります。
また、出勤簿等は、賃金台帳とあわせて確認されることが多い書類です。勤怠記録上の労働時間と、賃金台帳上の支払内容に矛盾がある場合、未払い残業代のリスクにつながる可能性があります。
労基署調査でも、出勤簿等は重要な確認資料となります。日頃から、始業・終業時刻、休憩時間、時間外労働時間などが適切に記録されているかを確認し、実態に合った労働時間管理を行うことが大切です。
4 法定三帳簿の保存期間
法定三帳簿は、作成するだけでなく、一定期間保存しておく必要があります。
労働基準法では、労働者名簿、賃金台帳その他労働関係に関する重要な書類について、使用者に保存義務を定めています。保存期間は本則上5年間とされていますが、経過措置により、当分の間は3年間とされています。
そのため、現時点では3年間の保存でも法令上は認められています。ただし、将来的には5年間保存が原則となることを踏まえると、実務上はできるだけ5年間保存を前提に管理体制を整えておくと安心です。
保存期間の起算点にも注意が必要です。労働者名簿については、労働者の死亡、退職または解雇の日から保存期間を数えます。賃金台帳については、最後に記入した日から保存期間を数えます。出勤簿等についても、原則として最後に記入した日から保存期間を数えることになります。
実務では、退職者の書類をすぐに廃棄してしまったり、給与計算後に古い勤怠記録を削除してしまったりするケースがあります。しかし、これらの書類は労基署調査や未払い残業代トラブルの際に重要な確認資料となります。
したがって、法定三帳簿については、「作成しているか」だけでなく、「必要な期間きちんと保存できているか」も確認しておくことが大切です。紙で保存する場合も、電子データで保存する場合も、必要なときにすぐ確認できる状態で管理しておきましょう。
5 まとめ
法定三帳簿である「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿等」は、会社の労務管理の基本となる重要な書類です。
これらの帳簿は、単に作成していればよいというものではありません。労働者名簿に必要な項目が記載されているか、賃金台帳に労働時間数や賃金の内訳が記録されているか、出勤簿等で実際の始業・終業時刻を確認できるかなど、内容が実態に合っていることが重要です。
特に、賃金台帳と出勤簿等の内容に矛盾がある場合や、労働時間の記録が不十分な場合には、未払い残業代などの労務トラブルにつながる可能性があります。また、労基署調査の際にも、法定三帳簿は確認されやすい書類であり、不備があると行政指導の対象となることがあります。
そのため、日頃から「帳簿を作成しているか」だけでなく、「必要な項目が記載されているか」「実態に合った内容になっているか」「保存期間を守って管理できているか」を確認しておくことが大切です。
当事務所では、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿等の整備状況をはじめ、就業規則、36協定、労働条件通知書などを確認する労務リスク診断を行っています。
「帳簿類に不備がないか不安」「労基署調査に備えて確認しておきたい」「自社の労務管理のリスクを一度整理したい」という場合は、お気軽にご相談ください。