企業の労務管理においては、就業規則や労使協定の作成に注目が集まりがちですが、「記録を適切に保存すること」も同じくらい重要です。実際、労働基準監督署の調査や未払残業代請求の場面では、会社に保存されている記録が重要な証拠となります。
特に、賃金台帳や出勤簿、労働者名簿といった書類については、労働基準法により保存義務が定められています。近年はクラウド勤怠や電子保存が普及している一方で、「どの書類を」「何年間」「どのように保存すべきか」が曖昧なまま運用されているケースも少なくありません。
また、記録が残っていない場合、労基署対応だけでなく、労使トラブルにおいて会社側が不利になるリスクもあります。「作成して終わり」ではなく、適切に保存・管理する体制づくりが重要です。
本記事では、労働基準法における記録保存義務について、保存対象となる書類、保存期間、電子保存のポイント、違反リスクなどを実務目線でわかりやすく解説します。
1 記録の保存義務とは何か
企業は、従業員を雇用する以上、労働条件や労働時間、賃金支払いの状況などを適切に管理しなければなりません。そして、その管理内容を一定期間保存する義務について定めているのが、労働基準法第109条です。
労働基準法第109条では、使用者に対し、労働者名簿、賃金台帳、雇入れ・解雇・災害補償・賃金その他労働関係に関する重要な書類を保存することを義務付けています。これは単なる事務手続ではなく、労働条件の適正な管理や、労使トラブル発生時の証拠保全を目的とした重要な制度です。
特に近年は、未払残業代請求やハラスメント問題など、労務トラブルが発生した際に「会社側に適切な記録が残っているか」が大きな争点となるケースが増えています。例えば、出勤記録や賃金台帳が保存されていない場合、会社側が労働時間管理を適切に行っていなかったと判断されるリスクもあります。
また、労働基準監督署の調査においても、保存記録の提出を求められることは少なくありません。必要な資料を速やかに提出できない場合、是正勧告や指導につながる可能性があります。
このように、記録保存義務は「書類を残しておけばよい」というものではなく、企業が適切な労務管理を行っていることを示すための重要な基盤といえます。
2 記録の保存義務の対象となるもの
周知義務の対象となるのは、以下のとおりです。
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(1) 労働者名簿
起算日:死亡・退職・解雇の日
(2) 賃金台帳
起算日:最後の記入の日(翌月払いの場合、最後の支払日)
(3)雇入れ・解雇に関する書類
雇入決定関係書類、雇用契約書、労働条件通知書、履歴書等
起算日:退職・死亡の日
(4)災害補償に関する書類
診断書、補償の支払い書類等
起算日:災害補償の終わった日
(5)賃金その他労働関係に関する重要な書類
賃金決定関係書類、昇給・減給書類等、出勤簿、タイムカード等の記録、労使協定の協定書等
起算日:その完結の日
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3 記録の保存の期間
労働基準法第109条では、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿などの労務関係書類について、一定期間保存することが義務付けられています。現在、保存期間は法改正により原則「5年間」とされていますが、当面の間は経過措置により「3年間」の保存が必要とされています。
4 実務担当者が押さえるべきポイント
労働基準法上の記録保存義務は、単に書類を保管しておけば足りるものではありません。実務上は、「必要な記録を、必要な期間、いつでも確認できる状態で管理しているか」が重要になります。
まず注意したいのが、「作成して終わり」にしないことです。例えば、賃金台帳や出勤簿を毎月作成していても、保存場所がバラバラであったり、担当者しか管理方法を把握していなかったりすると、労基署調査や労使トラブル発生時に迅速な対応ができません。保存ルールや管理責任者を明確にし、誰でも一定程度確認できる状態にしておくことが重要です。
加えて、近年はクラウド勤怠や電子保存を導入する企業も増えていますが、単にデータ化するだけでは不十分です。労働基準監督署から提出を求められた際に、速やかに検索・出力できる状態で保存しておかなければなりません。バックアップ体制やアクセス権限の管理、データ改ざん防止なども含めて、適切な運用体制を整備することが重要です。
このように、記録保存義務は「保管すること」自体が目的ではなく、適切な労務管理を継続的に行い、必要時に説明責任を果たせる状態を維持することに意味があります。
5 まとめ
これらの記録は、労働基準監督署の調査対応だけでなく、未払残業代請求などの労使トラブルにおいても重要な証拠となります。適切に保存されていない場合、会社側が不利な立場に置かれる可能性もあるため、「作成して終わり」ではなく、継続的に管理する体制づくりが重要です。
また、近年はクラウド勤怠や電子保存を導入する企業も増えていますが、電子化すれば自動的に問題が解決するわけではありません。検索性、バックアップ、迅速な提出対応など、実務面を踏まえた運用が求められます。
記録保存義務は、一見すると地味な実務に見えるかもしれません。しかし、適切な保存体制を整備することは、企業を労務リスクから守るうえで非常に重要です。労基署調査や将来的な労使トラブルに備える意味でも、自社の保存ルールや管理方法を一度見直してみることをおすすめします。