第3章:嵐の夏、試練の季節
曲紹介
ほころび♡スプリングコール!〜梅とうぐいす〜
この小説から出来上がった曲です。
第3章:嵐の夏、試練の季節
第1節「倒れた鶯、沈黙の梅林」
梅花祭前日。
五人は、最後のリハーサルのために音楽準備室に集まっていた。
「よし、じゃあ通しでやるわよ」
凛が指示を出した。
「詩織、準備はいい?」
「はい」
詩織がピアノの前に座った。
「美鈴、声の調子は?」
「完璧です」
美鈴が笑顔で答えた。
「陽菜、振り付け確認した?」
「バッチリ!」
陽菜が親指を立てた。
「春花は……」
凛が春花を見ると、春花は少し緊張した顔をしていた。
「だ、大丈夫……頑張る……」
「無理しないでね。コーラスだけだから」
「うん……」
「じゃあ、始めるわよ。せーの」
詩織のピアノが響き始める。
美鈴が歌い始めた。
「One, Two, Spring! ふわり 息が白くなる朝……」
その時だった。
美鈴の声が、突然途切れた。
「……っ」
「美鈴ちゃん?」
春花が心配そうに声をかけた。
「ごめん……ちょっと待って……」
美鈴は喉に手を当てた。
「声が……出にくい……」
「え?」
「昨日から、少し違和感があったんだけど……」
美鈴は咳き込んだ。
「大丈夫?」
陽菜が背中をさすった。
「うん……大丈夫……もう一回やってみる……」
「無理しないで」
凛が厳しい顔をした。
「でも、明日が本番なのよ。今日、完璧にしておかないと……」
「わかってる……だから、もう一回……」
美鈴は、また歌い始めた。
でも、声は明らかに調子が悪かった。いつもの透明感がなく、かすれている。
「コートの袖 ぎゅっと握って……」
そこまで歌ったところで、美鈴は歌うのをやめた。
「ダメ……声が……」
「美鈴ちゃん!」
春花が駆け寄った。
「無理しないで!休もう!」
「でも……」
「休みなさい」
凛が強い口調で言った。
「このままじゃ、明日の本番にも影響が出る」
「でも、練習を……」
「練習よりも、あなたの体が大事よ」
凛は美鈴の肩を掴んだ。
「今日は帰って、ゆっくり休みなさい。明日に備えて」
「……わかった」
美鈴は、力なく頷いた。
「ごめん、みんな……」
「謝らないで」
春花が美鈴の手を握った。
「明日、元気になってくれればいいから」
「うん……ありがとう……」
美鈴は、荷物をまとめて音楽準備室を出て行った。
残された四人は、顔を見合わせた。
「大丈夫かな……美鈴ちゃん……」
春花が不安そうに呟いた。
「明日までに治るかな……」
「わからないわ」
凛が厳しい表情で言った。
「でも、私たちにできることは、美鈴を信じて待つことだけよ」
「そうだね……」
陽菜も心配そうだった。
「今日は、ここまでにしましょう」
詩織が小さな声で言った。
「美鈴さんがいないと……練習にならないですし……」
「そうね。じゃあ、解散にしましょう」
凛が決めた。
「明日、また集まりましょう。美鈴の回復を祈って」
「はい……」
その夜、春花は美鈴の家を訪ねた。
インターホンを押すと、美鈴の母親が出てきた。
「あら、あなたは……」
「梅野春花です。美鈴ちゃんの友達で……」
「そう。美鈴なら、今寝てるわよ」
母親は、冷たい口調で言った。
「体調が悪いみたいで。明日の発表も、出られないかもしれないわね」
「え……」
「仕方ないわ。無理して悪化させるよりはマシよ」
母親は、まるで他人事のように言った。
「あの……少しだけ、美鈴ちゃんと話させてもらえませんか?」
「ダメよ。今は安静が必要なの」
「でも……」
「帰ってちょうだい。美鈴に会わせるわけにはいかないわ」
母親は、ドアを閉めようとした。
「待ってください!」
春花は、必死にドアを押さえた。
「お願いします!美鈴ちゃんに、一言だけでも……」
「しつこいわね。ダメだって言ってるでしょ」
「お母さん、いいよ」
奥から、美鈴の弱々しい声が聞こえた。
「春花と話す。少しだけ」
「美鈴……」
母親は諦めたように、ドアを開けた。
「十分だけよ」
「ありがとうございます」
春花は、美鈴の部屋に入った。
美鈴は、ベッドに横になっていた。顔色が悪く、目の下にクマができていた。
「美鈴ちゃん……大丈夫?」
「うん……ちょっと熱があるだけ……」
美鈴は弱々しく微笑んだ。
「明日には治るよ……」
「無理しないでね……」
「でも、明日は本番なんだよ……?私が休むわけにはいかないよ……」
「美鈴ちゃん……」
「私がいないと、歌えないでしょ……?メインボーカルなんだから……」
美鈴の目に、涙が浮かんだ。
「ごめんね……こんな時に……」
「謝らないで」
春花は、美鈴の手を握った。
「美鈴ちゃんが無理して倒れる方が、私は嫌だよ」
「でも……」
「大丈夫。私たち、なんとかするから」
「春花……」
「美鈴ちゃんは、ゆっくり休んで。そして、元気になったら、また一緒に歌おう」
「うん……」
美鈴は、涙を流しながら頷いた。
「ありがとう……春花……」
「どういたしまして」
春花は、美鈴の額に手を当てた。
熱い。かなりの高熱だ。
「ちゃんと薬飲んでね」
「うん……」
「じゃあ、お大事に」
春花は、美鈴の部屋を出た。
廊下で、美鈴の母親が待っていた。
「話は終わった?」
「はい……」
「そう。じゃあ、帰ってちょうだい」
母親は、春花を玄関まで送った。
「あの……」
春花は、勇気を出して言った。
「明日、美鈴ちゃんが出られなくても、お母さんだけでも来てくれませんか?」
「は?」
「美鈴ちゃん、お母さんに見てほしいって、ずっと言ってたんです。自分の歌を」
「私が行く必要はないわ。美鈴が出ないなら、見る意味もないでしょ」
母親は冷たく言った。
「そんな……」
「それに、私は忙しいの。娘の遊びに付き合ってる暇はないわ」
「遊びじゃありません!」
春花は、思わず大きな声を出した。
「美鈴ちゃんは、真剣に音楽に向き合ってるんです!お母さんに認めてほしくて、必死に頑張ってるんです!」
「……生意気な子ね」
母親は、春花を睨んだ。
「娘の教育に、他人が口を出さないでちょうだい」
「でも……」
「帰りなさい。もう来なくていいわ」
母親は、ドアを閉めた。
春花は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
「美鈴ちゃん……」
涙が、頬を伝った。
美鈴の苦しみが、痛いほどわかった。
こんな母親と、毎日向き合っていたんだ。
完璧を求められ、理解されず、ただ厳しくされ続けて。
「私、何かできることないかな……」
春花は、夜空を見上げた。
満月が、冷たく輝いていた。
翌朝。
梅花祭当日。
春花は、いつもより早く梅林に向かった。
もう花はすっかり散ってしまい、緑の葉だけが残っている。
「美鈴ちゃんがいない梅林……」
春花は、いつものベンチに座った。
ここで、美鈴と初めて出会った。
ここで、歌を聞かれた。
ここで、一緒に曲を作ろうと誘われた。
すべてが、ここから始まった。
「美鈴ちゃん……」
春花は、スマートフォンを取り出した。
美鈴にメッセージを送ろうとしたが、何を書けばいいのかわからない。
その時、背後から声がした。
「春花?」
振り返ると、陽菜が立っていた。
「陽菜ちゃん……」
「早いね。私も眠れなくて、来ちゃった」
陽菜は、春花の隣に座った。
「美鈴ちゃんのこと、心配だよね」
「うん……」
「昨日、様子見に行ったんでしょ?どうだった?」
「高熱が出てた……明日の本番、出られるかどうか……」
「そっか……」
陽菜も、梅の木を見上げた。
「どうしよう……美鈴ちゃんがいないと、私たち……」
「大丈夫だよ」
また別の声がした。
詩織と凛が、一緒に歩いてきた。
「先輩……詩織ちゃん……」
「みんな、考えることは同じね」
凛が苦笑した。
「心配で、眠れなかったんでしょ?」
「はい……」
詩織が頷いた。
四人は、ベンチに並んで座った。
しばらく、誰も何も言わなかった。
ただ、梅の木を見つめていた。
「……ねえ、みんな」
春花が口を開いた。
「美鈴ちゃんがいなくても、私たち、本番やるべきかな?」
「え?」
三人が春花を見た。
「だって、美鈴ちゃんがメインボーカルなのに、その人がいなかったら……」
「でも、中止にするのも……」
陽菜が言いかけて、黙った。
「私は……」
詩織が小さな声で言った。
「美鈴さんがいなくても、やりたいです」
「詩織ちゃん……」
「美鈴さんのためにも、やるべきだと思うんです。私たちが頑張ってる姿を、見せてあげたい」
「でも、歌は誰が……」
「春花さんが歌えばいいと思います」
詩織は、春花を見た。
「え……私が……?」
「うん。春花さんの歌声、私、大好きです。美鈴さんとは違うけど、でも、心に響く歌声」
「で、でも、私……メインボーカルなんて……」
「できるわよ」
凛が言った。
「あなたなら、できる」
「先輩……」
「美鈴の代わりは、誰にもできない。でも、春花には春花の歌がある」
凛は、春花の肩を掴んだ。
「この曲を作ったのは、あなたよ。あなたの言葉で、あなたの想いで作った歌」
「でも……」
「怖いのはわかる。でも、乗り越えなきゃいけない時が来たのよ」
凛の目は、真剣だった。
「今、逃げたら、あなたは一生後悔する。美鈴のためにも、自分のためにも、歌いなさい」
「先輩……」
春花の目に、涙が浮かんだ。
「私……歌える……?」
「歌えるよ」
陽菜が春花の手を握った。
「だって、春花は、もう一人じゃないもん。私たちがいるもん」
「陽菜ちゃん……」
「私たちが、支えるから。だから、勇気を出して」
詩織も春花の手を握った。
「大丈夫です、春花さん。あなたなら、できます」
三人の温もりが、春花の手に伝わってくる。
春花は、三人の顔を見た。
みんな、信じてくれている。
みんな、応援してくれている。
「……わかった」
春花は、涙を拭いて頷いた。
「やってみる。怖いけど、でも、やってみる」
「春花……!」
三人が春花を抱きしめた。
「よし、決まりね」
凛が立ち上がった。
「本番は午後二時。それまで、春花の特訓をするわよ」
「特訓……?」
「ええ。メインボーカルとして、完璧に仕上げるの」
凛の目が、燃えていた。
「時間がないわ。すぐに音楽準備室に行くわよ」
「は、はい!」
四人は、梅林を後にした。
春花は、一度だけ振り返った。
花のない梅の木が、静かに佇んでいた。
「美鈴ちゃん……見ててね……」
春花は、心の中で呟いた。
「私、頑張るから……」
音楽準備室。
四人は、朝から休みなく練習を続けていた。
「もう一回!」
凛が厳しく指示を出す。
「春花、そこの音程が外れてる!」
「ごめんなさい……」
「謝らなくていい。もう一回!」
春花は、何度も何度も歌った。
声がかすれてきても、喉が痛くなっても、歌い続けた。
「休憩しましょう、先輩……春花さん、限界です……」
詩織が心配そうに言った。
「まだよ。本番まで、あと四時間しかないの」
「でも……」
「大丈夫……」
春花が息を切らしながら言った。
「もう少し……頑張れる……」
「春花……」
陽菜が、水を差し出した。
「少しだけ休もう?ね?」
「うん……ありがとう……」
春花は、水を飲んだ。
その時、音楽準備室のドアが開いた。
「美鈴ちゃん!?」
入ってきたのは、美鈴だった。
まだ顔色は悪いが、何とか立っている。
「みんな……」
「どうしたの!?ちゃんと寝てなきゃ!」
春花が駆け寄った。
「大丈夫……熱、下がったから……」
「本当?」
「うん……薬飲んで、ずっと寝てたら、少し良くなった……」
美鈴は、弱々しく笑った。
「だから、来ちゃった……」
「無理しないでよ……」
「無理してない……私、歌いたいの……みんなと一緒に……」
美鈴の目に、涙が浮かんだ。
「お母さんが、何て言おうと……私は、この曲を歌いたい……」
「美鈴ちゃん……」
「だから、お願い……私にも、歌わせて……」
美鈴は、みんなの前に立った。
「でも、声は……?」
「試してみる……」
美鈴は、深呼吸をした。
そして――
「One, Two, Spring! ふわり 息が白くなる朝……」
美鈴の声は、まだ完全ではなかった。
でも、昨日よりは良くなっていた。
「……でもね 胸はもう咲いてる……」
歌い終わると、美鈴は咳き込んだ。
「美鈴!」
「大丈夫……まだ、本調子じゃないけど……でも、歌える……」
美鈴は、みんなを見た。
「お願い……一緒に歌わせて……」
「……いいわ」
凛が頷いた。
「でも、無理はしないこと。声が出なくなったら、すぐに春花に代わること」
「わかった……」
「春花、いい?」
「うん……」
春花は頷いた。
「美鈴ちゃんと一緒に歌えるなら、私、頑張れる」
「ありがとう、春花……」
美鈴は、春花の手を握った。
「一緒に、頑張ろうね……」
「うん……」
五人は、また手を重ね合わせた。
「さあ、残り時間で最後の調整よ」
凛が指示を出した。
「全員、全力で行くわよ!」
「はい!」
五人の声が、一つになった。
倒れた鶯は、また飛び立とうとしていた。
沈黙していた梅林も、また歌声に満ちようとしていた。
試練は、まだ続く。
でも、五人なら、きっと乗り越えられる。
なぜなら――
五人には、諦めない心があるのだから。
第2節「ほころびから芽吹く勇気」
午後一時三十分。
梅花祭の開場まで、あと三十分。
五人は、控え室として用意された教室で、最後の準備をしていた。
「美鈴、本当に大丈夫?」
陽菜が心配そうに聞いた。
「うん……大丈夫……」
美鈴は、温かいお茶を飲みながら答えた。
「声、少し戻ってきた気がする……」
「無理しないでね」
詩織が優しく言った。
「もし途中で辛くなったら、すぐに言ってください」
「ありがとう、詩織ちゃん……」
美鈴は微笑んだ。
「でも、大丈夫。最後まで歌うから」
「美鈴ちゃん……」
春花は、美鈴の隣に座った。
「私、ちゃんとサポートするからね。美鈴ちゃんが歌えなくなったら、私が代わりに歌うから」
「春花……ありがとう……」
美鈴は、春花の手を握った。
「でもね、多分大丈夫。だって、春花が一緒にいてくれるから」
「え?」
「春花の声が聞こえてたら、私、頑張れる気がするの」
美鈴の目が、優しく微笑んでいた。
「だから、コーラスじゃなくて、一緒にメインで歌おう?」
「え、でも……」
「ツインボーカルってことにしよう。二人で、この曲を歌うの」
美鈴の提案に、春花は戸惑った。
「で、でも、私……そんな……」
「できるわよ」
凛が口を挟んだ。
「今朝の特訓、見てたでしょ?春花の声、十分に通用するわ」
「でも……」
「それに、美鈴一人に負担をかけるわけにはいかないわ。二人で分担すれば、美鈴の喉も楽になる」
「先輩……」
「いいアイデアだと思う!」
陽菜が賛成した。
「二人の声が重なったら、絶対素敵だよ!」
「私も、そう思います……」
詩織も頷いた。
「お願い、春花……」
美鈴が、春花の目を見つめた。
「一緒に歌って……」
「……わかった」
春花は、深呼吸をした。
「怖いけど……でも、美鈴ちゃんのためなら……頑張る」
「ありがとう!」
美鈴が春花を抱きしめた。
「じゃあ、急いで振り分けを決めるわよ」
凛が楽譜を広げた。
「Aメロは美鈴、Bメロは春花、サビは二人でユニゾン。二番のAメロは春花、Bメロは美鈴、サビはまた二人で」
「はい」
「ブリッジは美鈴一人で。そして最後のサビは、全員でハモる」
「わかりました」
「十五分しかないわ。すぐに練習するわよ」
「はい!」
五人は、控え室で最後の練習を始めた。
午後二時。
梅花祭が始まった。
体育館には、たくさんの生徒や保護者、地域の人々が集まっていた。
舞台では、次々と出し物が披露されている。演劇部の劇、吹奏楽部の演奏、ダンス部のパフォーマンス。
そして、いよいよ生徒創作音楽コンテストの時間が来た。
「それでは、生徒創作音楽コンテスト、最初の出場者は……」
司会の生徒が名前を呼び上げていく。
最初のグループが舞台に上がり、歌い始めた。
控え室で、五人はそれを聞いていた。
「すごいな……みんな、上手だね……」
陽菜が呟いた。
「私たち、勝てるかな……」
「勝ち負けじゃないわ」
凛が言った。
「大切なのは、自分たちの歌を、心を込めて届けること」
「そうだね……」
春花は、自分の胸に手を当てた。
心臓が、激しく打っている。
緊張と、不安と、でも――希望も。
「春花、大丈夫?」
美鈴が心配そうに聞いた。
「う、うん……大丈夫……」
「嘘。顔、真っ青だよ」
「ば、バレてる……?」
「当たり前でしょ。十年来の友達みたいに、お互いのこと、わかるようになったもん」
美鈴は笑った。
「怖いんでしょ?」
「……うん。すごく怖い」
春花は素直に答えた。
「また失敗したらって……また笑われたらって……」
「大丈夫」
美鈴が春花の手を握った。
「あの時とは違うよ。今の春花は、一人じゃない」
「美鈴ちゃん……」
「私がいる。陽菜がいる。詩織ちゃんがいる。凛先輩がいる。みんなが、春花を支えてる」
美鈴の言葉に、他の三人も頷いた。
「そうだよ、春花」
陽菜が笑顔を見せた。
「私たち、仲間でしょ?」
「一緒に、頑張りましょう……」
詩織も微笑んだ。
「安心しなさい」
凛が春花の頭に手を置いた。
「あなたは、もう十年前の春花じゃない。成長したのよ」
「先輩……みんな……」
春花の目に、涙が浮かんだ。
「ありがとう……」
その時、控え室のドアがノックされた。
「梅鶯の皆さん、次の出番です」
スタッフの声が聞こえた。
「来たわね」
凛が立ち上がった。
「行くわよ、みんな」
「はい!」
五人は、手を重ね合わせた。
「せーの……」
「梅鶯!」
五人の声が、一つになった。
舞台袖。
五人は、出番を待っていた。
舞台では、司会者が五人のことを紹介している。
「次は、二年生を中心とした五人組『梅鶯』です。オリジナル曲『ほころび♡スプリングコール!〜梅とうぐいす〜』を披露します」
拍手が起こった。
「行くわよ」
凛が合図を出した。
五人は、舞台に上がった。
客席には、たくさんの人がいた。
春花は、その数に圧倒されそうになった。
でも――
最前列に、父の姿が見えた。
冬彦が、笑顔で手を振っている。
「お父さん……」
春花は、少し安心した。
そして、客席を見渡すと――
クラスメートたちが、応援の横断幕を掲げていた。
「頑張れ、梅鶯!」
その文字が、春花の目に飛び込んできた。
「みんな……」
春花の心が、温かくなった。
詩織がピアノの前に座った。
陽菜が、ダンスの位置についた。
美鈴と春花が、センターマイクの前に立った。
凛は、舞台袖で見守っている。
「準備はいい?」
美鈴が春花に小声で聞いた。
「う、うん……」
「じゃあ、行こう。せーの」
詩織のピアノが、響き始めた。
軽やかで、明るいイントロ。
春の訪れを告げるような、希望に満ちたメロディー。
美鈴が、マイクに向かって歌い始めた。
「One, Two, Spring!」
そして――
「ふわり 息が白くなる朝 でもね 胸はもう咲いてる」
美鈴の声は、完璧ではなかった。
少しかすれていて、いつもの透明感が完全には戻っていない。
でも、それでも――心が込められていた。
「コートの袖 ぎゅっと握って まだ少し 寒い帰り道」
そして、Bメロで春花のパートが来た。
春花は、深呼吸をした。
怖い。
でも――
みんながいる。
美鈴がいる。陽菜がいる。詩織がいる。凛先輩がいる。
お父さんがいる。クラスメートがいる。
みんなが、応援してくれている。
「だけど香る この予感 知らないふり できないよ」
春花が、歌い始めた。
最初は震えていた声が、次第に安定していく。
「蕾みたいな この気持ち 葉っぱよりも 先にね」
春花の声が、体育館に響き渡る。
それは、美鈴とは違う、でも確かに心に響く歌声だった。
「勇気はいつも フライング それが恋のルールでしょ?」
客席から、小さなどよめきが起こった。
みんな、春花の歌に聴き入っている。
春花は、歌いながら気づいた。
今、自分は歌っている。
たくさんの人の前で。
でも、怖くない。
なぜなら――
みんなと一緒だから。
プレコーラスで、美鈴が歌う。
「がんばってるの 知ってるよ 凍えた日々も 全部」
そして、春花が続ける。
「今日のための 助走なんだ 深呼吸して――」
二人の声が重なる。
そして――サビ。
「ほころぶ♡スプリングコール!」
美鈴と春花の声が、完璧にハモった。
「白とピンク 空にジャンプ!」
陽菜が、舞台で踊り始めた。
梅の花が咲くような、美しい振り付け。
「梅の花が 教えてくれた 『今がスタート!』って」
詩織のピアノが、力強く響く。
「ホーホケキョ 聞こえたら 合図はもう 十分だね」
春花は、歌いながら涙を流していた。
でも、それは悲しい涙じゃない。
嬉しい涙だった。
「未来へ向かって 駆け出そう きらめく春が 呼んでるよ!」
一番が終わると、客席から大きな拍手が起こった。
でも、まだ曲は続く。
二番のAメロは、春花が歌う。
「藪の奥で かくれんぼ 姿はまだ 見えないけど」
春花の声は、もう震えていなかった。
自信に満ちていた。
「声だけで わかるんだ 大丈夫って 言ってるでしょ?」
Bメロは、美鈴が歌う。
「失敗だって 遠回りだって ちゃんと意味が あるんだよ」
美鈴の声も、次第に力を取り戻していた。
「梅干しみたいに すっぱい日も あとで甘くなるからね!」
そして、また二人でサビ。
「ほころぶ♡スプリングコール! 香りがハート ノックする」
二人の声が、完璧に溶け合っている。
「梅林(ばいりん)いっぱいの ときめき 深呼吸で チャージ!」
春花は、歌いながら客席を見た。
みんな、笑顔で聴いている。
手拍子をしている人もいる。
「ホーホケキョ 胸の中 メロディが 羽ばたいた」
春花の心も、羽ばたいていた。
もう、怖くない。
もう、過去に縛られない。
「今日の私が 一番好き そう言える朝が 来たんだ!」
ブリッジで、美鈴が一人で歌う。
「泣いた夜も 迷った朝も 全部まとめて 私だよね」
美鈴の声に、力が込められている。
「凛と咲こう あの花みたいに 下を向かずに 前だけ見て」
客席の凛が、目を潤ませていた。
自分の名前が、こんな風に歌われるなんて。
そして――最後のサビ。
五人全員の声が重なる。
美鈴と春花のメインボーカル。
陽菜のコーラス。
詩織のピアノ。
そして舞台袖から、凛も小さく歌っている。
「ほころぶ♡スプリングコール! 世界が一気に 色づいた」
体育館全体が、一つになっていた。
歌う者と、聴く者が、一つになっていた。
「寒さを越えた この笑顔 奇跡より 確かな答え」
春花は、全身全霊で歌った。
これが、自分の歌。
これが、みんなの歌。
これが、梅鶯の歌。
「ホーホケキョ 響くたび 勇気がまた 増えてくよ」
陽菜が、最後の振り付けで大きく跳んだ。
まるで、空に向かって飛び立つかのように。
「梅とうぐいす 手をつないで 新しい季節へ ジャンプ!」
そして――アウトロ。
美鈴と春花が、優しく歌う。
「散っても残る この香り 消えない歌に なるんだね」
「ほころびは 始まりのサイン」
二人の声が重なる。
「Spring Call… また明日へ!」
最後の音が、静かに消えていった。
しばらく、体育館は静まり返っていた。
そして――
割れんばかりの拍手が起こった。
「ブラボー!」
「最高!」
「アンコール!」
客席から、様々な声が飛んできた。
五人は、舞台の上で抱き合った。
「やった……やったよ……!」
陽菜が涙を流していた。
「すごかった……すごかったです……!」
詩織も泣いていた。
「みんな……ありがとう……」
美鈴も涙を流していた。
そして、春花も。
「私……歌えた……みんなの前で……」
春花は、嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった。
「ありがとう、みんな……本当に、ありがとう……」
凛が、舞台に駆け上がってきた。
「みんな、最高だったわ!」
凛も、涙を流していた。
「こんな素晴らしい歌、初めて聴いたわ……」
五人は、抱き合って泣いた。
客席の拍手は、鳴り止まなかった。
最前列の冬彦も、涙を流していた。
「春花……よく頑張ったな……」
クラスメートたちも、立ち上がって拍手をしていた。
「春花、すごい!」
「美鈴、最高!」
「梅鶯、最高!」
その声が、舞台の五人に届いた。
春花は、客席を見渡した。
たくさんの笑顔。
たくさんの拍手。
たくさんの応援。
これが、自分が恐れていたものだった。
でも、全然怖くなかった。
むしろ、温かかった。
「ありがとうございました!」
五人は、深々とお辞儀をした。
拍手は、まだ続いていた。
五人は、ゆっくりと舞台を降りた。
舞台袖で、白梅先生が待っていた。
「素晴らしかったわ、みんな」
先生の目にも、涙が光っていた。
「これが、本当の音楽よ。心からの音楽」
「先生……」
「よく頑張ったわね。誇りに思うわ」
先生は、五人を抱きしめた。
控え室に戻ると、五人は床に座り込んだ。
「疲れた……」
陽菜が大の字になった。
「でも、最高だった……」
「本当……夢みたい……」
詩織も笑顔だった。
「美鈴、喉は大丈夫?」
凛が心配そうに聞いた。
「うん……ちょっと痛いけど……でも、歌えて良かった……」
美鈴は、幸せそうに微笑んだ。
「春花のおかげだよ。一緒に歌ってくれて」
「私こそ……美鈴ちゃんがいてくれたから……」
春花も涙を拭いた。
「私、十年間の呪いが、解けた気がする……」
「呪い?」
「うん。人前で歌えないっていう呪い。でも、今日、みんなと一緒に歌って……わかったの」
春花は、みんなを見た。
「一人じゃないって。支えてくれる人がいるって。それがわかったら、怖くなくなった」
「春花……」
「ありがとう、みんな。私を、ここまで連れてきてくれて」
「何言ってるの」
美鈴が笑った。
「私たちこそ、春花に感謝してるよ。春花がいなかったら、この曲は生まれなかったんだから」
「そうだよ」
陽菜も頷いた。
「春花の言葉が、私たちを一つにしてくれたんだよ」
「みんな……」
五人は、また抱き合った。
その時、控え室のドアがノックされた。
「梅鶯の皆さん、審査結果が出ました。体育館に戻ってください」
「え、もう!?」
五人は、顔を見合わせた。
「行きましょう」
凛が立ち上がった。
「結果がどうであれ、私たちは最高の歌を歌ったわ」
「はい」
五人は、再び体育館へ向かった。
結果発表の時間が、やってきた。
そこで五人を待っていたのは――
第3節「春を呼ぶ者たちの誓い」
体育館の舞台上。
生徒創作音楽コンテストに出場した全グループが、一列に並んでいた。
五人は、緊張した面持ちで立っていた。
「ドキドキする……」
陽菜が小声で言った。
「私も……」
詩織も緊張している。
「結果がどうであれ、私たちは精一杯やったわ」
凛が落ち着いた声で言った。
「それだけで十分よ」
「でも……やっぱり、結果は気になるよね……」
美鈴が呟いた。
「うん……」
春花も頷いた。
その時、白梅先生が舞台に上がってきた。手には、封筒を持っている。
「それでは、審査結果を発表します」
会場が静まり返った。
「まず、審査員特別賞。これは、技術面だけでなく、心に最も響いた作品に贈られます」
白梅先生が封筒を開けた。
「審査員特別賞は……『梅鶯』、『ほころび♡スプリングコール!〜梅とうぐいす〜』」
「え……!」
五人は、驚いて顔を見合わせた。
会場から、大きな拍手が起こった。
「やった……!」
陽菜が小さくガッツポーズをした。
「すごい……特別賞……!」
詩織も目を輝かせた。
「まだよ」
凛が言った。
「まだ、本賞の発表がある」
「そうだね……」
五人は、息を呑んで次の発表を待った。
「それでは、第三位……」
白梅先生が、次の封筒を開けた。
でも、そこに『梅鶯』の名前はなかった。
「第二位……」
また、違うグループの名前が呼ばれた。
「あれ……?」
春花は、不安になった。
「もしかして、特別賞だけ……?」
「いや、まだわからないわ」
美鈴が言った。
「最後まで聞きましょう」
「そして、第一位……」
白梅先生が、最後の封筒を手に取った。
会場の空気が、張り詰めた。
五人の心臓が、激しく打っている。
「第一位は……」
白梅先生が、封筒を開けた。
「『梅鶯』!おめでとうございます!」
「え……!?」
五人は、信じられないという顔をした。
「本当に……?」
「本当よ!やったね、みんな!」
凛が五人を抱きしめた。
「やった……やったよ……!」
陽菜が飛び跳ねた。
「信じられない……私たちが……一位……!」
詩織も涙を流していた。
「すごい……すごいよ、みんな……!」
美鈴も泣いていた。
春花は、呆然と立ち尽くしていた。
一位。
自分たちが、一位。
この曲が、認められた。
この歌が、届いた。
「春花?」
美鈴が春花の肩を揺すった。
「大丈夫?」
「う、うん……」
春花は、ようやく我に返った。
「すごいね……私たち……」
「うん、すごいよ」
美鈴が微笑んだ。
「春花の言葉が、みんなの心に届いたんだよ」
「みんなのおかげだよ……私一人じゃ、何もできなかった……」
「そう。私たち五人だからできたんだよ」
美鈴が春花の手を握った。
「これからも、ずっと一緒だよ」
「うん……」
五人は、舞台の中央に進み出た。
白梅先生から、トロフィーと賞状を受け取った。
「おめでとう、梅鶯の皆さん」
白梅先生が優しく微笑んだ。
「あなたたちの歌は、本当に素晴らしかった。技術も、心も、すべてが完璧だったわ」
「ありがとうございます」
五人は、深々とお辞儀をした。
「それでは、優勝者として、もう一度歌っていただけますか?」
「え……!」
五人は驚いた。
「もう一回……歌うんですか……?」
「ええ。アンコールです。みなさん、聴きたいですよね?」
白梅先生が会場に呼びかけると、大きな拍手と歓声が上がった。
「聴きたい!」
「もう一回!」
「梅鶯!梅鶯!」
会場が、五人の名前を連呼し始めた。
「みんな……」
春花は、涙を流していた。
「こんなに……応援してくれてる……」
「歌おう、春花」
美鈴が言った。
「もう一回、みんなのために」
「うん……」
春花は涙を拭いた。
「歌おう。今度は、感謝の気持ちを込めて」
五人は、再び位置についた。
詩織がピアノの前に座る。
陽菜がダンスの位置につく。
美鈴と春花が、マイクの前に立つ。
凛は、今度は舞台袖ではなく、舞台の端に立った。
「あれ、先輩も……?」
「ええ。今回は、私も一緒に歌うわ」
凛が微笑んだ。
「姉に、捧げたいの。この歌を」
「先輩……」
「さあ、始めましょう」
詩織のピアノが、再び響き始めた。
そして――
五人の歌声が、体育館に満ちていく。
「One, Two, Spring! ふわり 息が白くなる朝 でもね 胸はもう咲いてる」
一回目よりも、さらに力強い歌声。
一回目よりも、さらに心のこもった歌声。
「コートの袖 ぎゅっと握って まだ少し 寒い帰り道」
客席の人々も、手拍子を始めた。
会場全体が、一つになっていく。
「だけど香る この予感 知らないふり できないよ」
春花は、歌いながら客席を見渡した。
お父さんが、涙を流しながら拍手をしている。
クラスメートたちが、笑顔で応援している。
そして――
会場の隅に、一人の女性が立っていた。
美鈴の母親だった。
「お母さん……!」
美鈴も気づいた。
母親は、複雑な表情をしていたが――でも、そこにいた。
来てくれた。
「蕾みたいな この気持ち 葉っぱよりも 先にね 勇気はいつも フライング それが恋のルールでしょ?」
美鈴の声に、力が込められた。
お母さんに、聴いてほしい。
自分の本当の歌を。
「がんばってるの 知ってるよ 凍えた日々も 全部 今日のための 助走なんだ 深呼吸して――」
そして、サビ。
「ほころぶ♡スプリングコール! 白とピンク 空にジャンプ!」
五人全員の声が、完璧にハモった。
凛の声も、美しく重なっている。
「梅の花が 教えてくれた 『今がスタート!』って」
陽菜が、今まで以上に美しく踊る。
まるで、本物の梅の花が舞っているかのように。
「ホーホケキョ 聞こえたら 合図はもう 十分だね」
詩織のピアノが、力強く響く。
もう、迷いはない。
自信に満ちている。
「未来へ向かって 駆け出そう きらめく春が 呼んでるよ!」
歌は続く。
二番、ブリッジ、そして最後のサビ。
すべてが、一回目よりも素晴らしかった。
「ほころぶ♡スプリングコール! 世界が一気に 色づいた」
会場の全員が、立ち上がって手拍子をしていた。
「寒さを越えた この笑顔 奇跡より 確かな答え」
春花は、全身全霊で歌った。
この歌が、自分の人生を変えた。
この仲間が、自分を変えた。
「ホーホケキョ 響くたび 勇気がまた 増えてくよ」
美鈴も、心を込めて歌った。
お母さんに、伝えたい。
これが、自分の本当の姿だって。
「梅とうぐいす 手をつないで 新しい季節へ ジャンプ!」
陽菜も、詩織も、凛も、全力で歌った。
そして――アウトロ。
「散っても残る この香り 消えない歌に なるんだね ほころびは 始まりのサイン Spring Call… また明日へ!」
最後の音が消えると――
会場全体が、総立ちで拍手をしていた。
「ブラボー!」
「最高!」
「アンコール!」
歓声が、鳴り止まない。
五人は、何度も何度もお辞儀をした。
そして、ゆっくりと舞台を降りた。
控え室。
五人は、トロフィーを囲んで座っていた。
「本当に……優勝しちゃったね……」
陽菜が、まだ信じられないという顔をしていた。
「夢みたい……」
詩織も、トロフィーを撫でた。
「夢じゃないわ」
凛が微笑んだ。
「これは現実。私たちが、掴み取った現実よ」
「うん……」
美鈴が頷いた。
「私たち、やったんだね……」
「ねえ、みんな」
春花が口を開いた。
「これからも、ずっと一緒にいようね」
「え?」
「梅鶯として。ずっと、歌い続けよう」
春花の言葉に、四人は顔を見合わせた。
「私は……」
凛が少し考えた後、微笑んだ。
「賛成。私も、もう音楽から逃げたくない」
「私も賛成!」
陽菜が元気に言った。
「もっともっと、たくさんの人に歌を届けたい!」
「私も……ずっと、みんなと一緒にいたいです……」
詩織も頷いた。
「じゃあ、決まりだね」
美鈴が笑顔を見せた。
「これから先も、私たち五人で、梅鶯として活動しよう」
「うん!」
五人は、手を重ね合わせた。
「誓おう」
凛が言った。
「これから先、どんな困難があっても、五人で乗り越えると」
「うん」
「一人が苦しい時は、みんなで支えると」
「うん」
「そして、いつも心から歌うと」
「うん!」
五人の声が、一つになった。
「せーの……」
「梅鶯、これからも、ずっと一緒!」
五人の誓いが、控え室に響いた。
その時、ドアがノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは、美鈴の母親だった。
「お母さん……!」
美鈴は驚いて立ち上がった。
「来てくれてたんだ……」
「ええ……」
母親は、複雑な表情をしていた。
「仕事を早退して、来たわ」
「お母さん……」
「美鈴……あなたの歌、聴いたわ」
母親は、美鈴の前に立った。
「正直に言うわ。最初は、音楽なんて遊びだと思ってた」
「お母さん……」
「でも……」
母親の目に、涙が浮かんだ。
「あなたの歌を聴いて、わかったわ。これは、遊びじゃない。あなたの本気なんだって」
「お母さん……!」
「ごめんなさい、美鈴」
母親は、娘を抱きしめた。
「あなたに、完璧を求めすぎた。あなたを、追い詰めてしまった」
「お母さん……」
美鈴も、母親を抱きしめ返した。
「ううん、お母さんは悪くないよ。お母さんは、私のことを思ってくれてたんだよね」
「でも、あなたの気持ちを、理解しようとしなかった」
母親は、涙を流していた。
「これからは、あなたのやりたいこと、応援するわ。音楽も、勉強も、全部」
「お母さん……ありがとう……」
美鈴も、涙を流していた。
二人は、しばらく抱き合っていた。
春花たちは、その光景を静かに見守っていた。
「よかったね、美鈴ちゃん……」
春花が、小さく呟いた。
「うん……」
陽菜も頷いた。
「これで、美鈴ちゃんも、心から歌えるようになるね」
梅花祭が終わり、夕方になった。
五人は、梅林に集まっていた。
もう花はすっかり散ってしまい、緑の葉だけが茂っている。
「ここで、すべてが始まったんだよね」
美鈴が、いつものベンチに座った。
「うん」
春花も隣に座った。
「ここで、美鈴ちゃんと出会って、歌を聞かれて」
「あの時は、びっくりしたよね」
「うん。恥ずかしくて、死にそうだった」
二人は笑い合った。
「でも、あの日があったから、今の私たちがあるんだよね」
陽菜が言った。
「そうね」
凛も頷いた。
「あの日から、私たちの物語が始まった」
「これからも、続いていくんだよね」
詩織が言った。
「ずっとずっと、続いていく」
「うん」
春花は、梅の木を見上げた。
「来年の春も、この木は花を咲かせる」
「そうね」
「そして、私たちも、また歌う」
春花は、みんなを見た。
「ずっと、ずっと、歌い続ける」
「うん!」
五人は、手を繋いだ。
そして、アカペラで、歌い始めた。
「ほころぶ♡スプリングコール! 白とピンク 空にジャンプ!」
夕暮れの梅林に、五人の歌声が響く。
「梅の花が 教えてくれた 『今がスタート!』って」
どこかで、鶯が鳴いた。
まるで、五人の歌に応えるかのように。
「ホーホケキョ 聞こえたら 合図はもう 十分だね」
五人は、笑顔で歌い続けた。
「未来へ向かって 駆け出そう きらめく春が 呼んでるよ!」
歌い終わると、五人は静かに空を見上げた。
夕焼けが、空を赤く染めている。
「綺麗だね」
「うん」
「この景色、ずっと忘れないよ」
「私も」
五人は、しばらく夕焼けを眺めていた。
そして――
「さあ、帰ろうか」
凛が立ち上がった。
「また明日、ここで会おう」
「うん」
五人は、梅林を後にした。
でも、振り返ると――
梅の木の枝に、小さな小さな蕾がついているのが見えた。
「あれ……もう、来年の蕾……?」
「そうみたい」
「早いね」
「でも、それが梅なのよ」
凛が微笑んだ。
「散ったと思ったら、もう次の準備をしてる。諦めない。いつも、前を向いてる」
「私たちも、そうありたいね」
春花が言った。
「うん。どんな時も、前を向いて」
美鈴が頷いた。
「ほころびを恐れずに」
陽菜が言った。
「そこから、また始まるんだから」
詩織が微笑んだ。
「そうね。ほころびは、始まりのサイン」
凛が、みんなを見た。
「私たちの物語は、まだ始まったばかりよ」
「うん!」
五人は、夕日に向かって歩き出した。
その背中には、梅林が見守っていた。
そして、小さな蕾が、来年の春を約束していた。
春を呼ぶ者たちの物語は、こうして新しい季節へと続いていく。
ほころびから芽吹いた勇気を胸に。
仲間との誓いを胸に。
そして、終わることのない歌を胸に。
梅鶯の春は、これからも続いていく――
ほころび♡スプリングコール!〜梅とうぐいす〜歌詞紹介
【Intro】
One, Two, Spring!
ふわり 息が白くなる朝
でもね 胸はもう咲いてる
【Verse 1】
コートの袖 ぎゅっと握って
まだ少し 寒い帰り道
だけど香る この予感
知らないふり できないよ
蕾みたいな この気持ち
葉っぱよりも 先にね
勇気はいつも フライング
それが恋のルールでしょ?
【Pre-Chorus】
がんばってるの 知ってるよ
凍えた日々も 全部
今日のための 助走なんだ
深呼吸して――
【Chorus】
ほころぶ♡スプリングコール!
白とピンク 空にジャンプ!
梅の花が 教えてくれた
「今がスタート!」って
ホーホケキョ 聞こえたら
合図はもう 十分だね
未来へ向かって 駆け出そう
きらめく春が 呼んでるよ!
【Verse 2】
藪の奥で かくれんぼ
姿はまだ 見えないけど
声だけで わかるんだ
大丈夫って 言ってるでしょ?
失敗だって 遠回りだって
ちゃんと意味が あるんだよ
梅干しみたいに すっぱい日も
あとで甘くなるからね!
【Pre-Chorus】
急がなくて いいけど
止まらなくて いい
小さな一歩が
春を連れてくる
【Chorus】
ほころぶ♡スプリングコール!
香りがハート ノックする
梅林(ばいりん)いっぱいの ときめき
深呼吸で チャージ!
ホーホケキョ 胸の中
メロディが 羽ばたいた
今日の私が 一番好き
そう言える朝が 来たんだ!
【Bridge】
泣いた夜も 迷った朝も
全部まとめて 私だよね
凛と咲こう あの花みたいに
下を向かずに 前だけ見て
【Final Chorus】
ほころぶ♡スプリングコール!
世界が一気に 色づいた
寒さを越えた この笑顔
奇跡より 確かな答え
ホーホケキョ 響くたび
勇気がまた 増えてくよ
梅とうぐいす 手をつないで
新しい季節へ ジャンプ!
【Outro】
散っても残る この香り
消えない歌に なるんだね
ほころびは 始まりのサイン
Spring Call… また明日へ!
小説とオリジナル曲同時作成します
世界観をまるごと形にしてみませんか?
あなたの
・想い
・大切な人
・オリジナルキャラクター
・忘れられない出来事
それらをもとに、 オリジナル小説+その物語のためだけのオリジナル曲を制作します。
文章だけでは伝えきれない感情を
音楽がそっと包み込み
音楽だけでは描けない情景を
物語が広げていきます。
✔ 世界観重視
✔ ふんわり依頼OK
✔ 完全オリジナル
✔ AIを活用した高品質制作
AI技術を活用し、クリエイターの感性で構成・調整を行っています。
「読む」「聴く」だけでなく “感じる作品”を求めている方へ。