梅花のスプリングコール ―春を呼ぶ少女たちの物語/一番早く、恋が咲く

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音声・音楽

番外編『一番早く、恋が咲く』

この番外編から次の曲が生まれました。
曲タイトル『一番早く、恋が咲く』
メイン曲:ほころび♡スプリングコール!〜梅とうぐいす〜

第1節「体育館の裏側で」

 梅花祭、本番終了直後。
 体育館は興奮と歓声に包まれていた。
 春花たち梅鶯の五人は、控え室で優勝の喜びを分かち合っていた。そこに家族や友人たちも駆けつけてきて、賑やかな時間が流れていた。
「春花、ちょっとトイレ行ってくるね」
 美鈴がそう言って控え室を出た。
「あ、私も行こうかな……」
 春花も立ち上がった。
「じゃあ、一緒に」
 二人は控え室を出て、廊下を歩いた。
「すごかったね、今日」
 美鈴が嬉しそうに言った。
「うん……夢みたいだった……」
 春花も笑顔で答えた。
「私、人前で歌えたんだね……」
「うん。春花、本当にかっこよかったよ」
 美鈴が春花の肩を叩いた。
「これからも、ずっと一緒に歌おうね」
「うん!」
 トイレに行った後、二人は控え室へ戻ろうとした。
 その時だった。
 遠くから、ギターの音が聞こえてきた。
「ん?」
 春花は足を止めた。
「どうしたの?」
「ギターの音……」
「本当だ。誰か弾いてるのかな?」
 二人は、音のする方へ歩いていった。
 廊下を曲がり、また曲がり。
 音は、体育館の裏側から聞こえてくる。
「体育館の裏?」
 春花は、外に出た。
 体育館の裏手は、普段あまり人が来ない場所だった。
 そこに、一人の男子生徒が座っていた。
 ギターを抱えて、静かに弾いている。
「健人……!」
 春花は、その姿を見て驚いた。
 藤崎健人。春花の幼馴染だった。
「あ……」
 健人は、春花に気づいて手を止めた。
「春花……」
「どうして、こんなところで……?」
 春花が聞いた。
「あ、その……」
 健人は、少し照れくさそうに頭を掻いた。
「お前の歌、聴いてたんだけど……なんか、俺も弾きたくなっちゃって……」
「そうなんだ……」
「邪魔だったか?ごめん、すぐ片付ける……」
「ううん、邪魔じゃないよ」
 春花は首を振った。
「もっと聴きたいな……健人のギター……」
「え……?」
 健人は驚いた顔をした。
「いいのか?」
「うん」
 春花は、健人の隣に座った。
 美鈴は、二人の様子を見て、小さく微笑んだ。
「じゃあ、私は先に戻ってるね」
「あ、美鈴ちゃん……」
「ゆっくりしてきなよ。みんなには、春花は疲れてちょっと休んでるって言っとくから」
 美鈴は、ウインクして去っていった。
 残された二人は、しばらく沈黙していた。
「……すごかったな」
 健人が、ぽつりと言った。
「え?」
「お前の歌。すごかった」
「ありがとう……」
 春花は、少し照れくさそうに笑った。
「でも、まだまだだよ。声、震えてたし……」
「そんなことなかったぞ。俺、感動したもん」
 健人は、ギターの弦を優しく撫でた。
「春花が、あんなに堂々と歌えるようになって……なんか、嬉しかったな」
「健人……」
「十年前のこと、知ってるから。あの時、お前、すごく落ち込んでたよな」
 健人の声が、少し遠くなった。
「俺、何もしてやれなかったけど……でも、今日、お前が笑顔で歌ってるの見て……よかったなって思った」
「健人……ありがとう……」
 春花は、健人を見た。
 健人は、ギターを抱えたまま、遠くを見つめていた。
「なあ、春花」
「うん?」
「これから、どうするんだ?梅鶯って」
「これからも、続けるよ。みんなで」
「そっか」
 健人は、小さく笑った。
「じゃあ、俺も応援するよ。ずっと」
「ありがとう」
 春花は、健人の優しさに、胸が温かくなった。
 健人は、いつもこうだった。
 目立たないけど、いつも傍にいてくれる。
 派手なことは言わないけど、いつも支えてくれる。
「ねえ、健人」
「ん?」
「さっき、何弾いてたの?」
「あ、これか」
 健人は、またギターを構えた。
「お前の歌、聴いてたら、なんかメロディーが浮かんできて……」
 健人が弾き始めたのは、優しくて、少し切ないメロディーだった。
 春花は、そのメロディーに聴き入った。
「綺麗……」
「そうか?適当に弾いただけなんだけど……」
「ううん、すごく綺麗だよ」
 春花は、健人のギターを見つめた。
「健人、上手になったね」
「まあ、暇さえあれば弾いてるからな」
「私のために、ギター始めたんだよね」
「え……あ、いや、その……」
 健人は、顔を赤くした。
「別に、お前のためってわけじゃ……」
「嘘。前に言ってたもん。『春花の歌に合わせたい』って」
「……覚えてたのか」
 健人は、恥ずかしそうに俯いた。
「あれ、小学生の時だろ……」
「うん。覚えてるよ」
 春花は微笑んだ。
「健人は、いつも私を応援してくれてた。ありがとう」
「いや……俺、何もしてないし……」
「そんなことないよ」
 春花は、健人の手に触れた。
 健人は、びくっとした。
「春花……?」
「健人がいてくれたから、私、ここまで来れたんだと思う」
「そんな……」
「本当だよ」
 春花は、健人の目を見た。
「ありがとう、健人」
「……どういたしまして」
 健人は、照れくさそうに笑った。
 二人は、しばらく体育館の裏で、他愛のない話をした。
 学校のこと。友達のこと。音楽のこと。
 気づけば、日が傾き始めていた。
「あ、もうこんな時間……」
 春花が時計を見た。
「みんな、心配してるかも……」
「そうだな。戻ろうか」
 健人は立ち上がった。
「でも……」
 春花は、少し名残惜しそうだった。
「もう少し、健人のギター、聴いていたかったな……」
「また聴かせてやるよ。いつでも」
 健人が微笑んだ。
「本当?」
「ああ。お前が聴きたいって言うなら、何度でも」
「ありがとう」
 春花は、嬉しそうに笑った。
 二人は、体育館の裏を後にした。
 でも、春花の心には、何か新しい感情が芽生え始めていた。
 それが何なのか、まだはっきりとはわからない。
 でも――
 確かに、何かが変わった。
 健人を見る目が、少しだけ、変わった気がした。

第2節「夕暮れの教室で」

 梅花祭から一週間が過ぎた。
 春花の日常は、また元に戻っていた。
 朝練、授業、昼休み、放課後の練習。
 でも――
 少しだけ、変わったことがあった。
 春花は、健人のことを、よく考えるようになっていた。
「春花、聞いてる?」
 美鈴の声に、春花はハッとした。
「え?あ、ごめん……聞いてなかった……」
「もう、どうしたの?最近、ぼーっとしてること多いよ」
 美鈴が心配そうに聞いた。
「何か悩んでる?」
「ううん、別に……」
「嘘だ。絶対何かあるよ」
 美鈴は、春花の顔を覗き込んだ。
「もしかして……恋?」
「え!?」
 春花は、顔を真っ赤にした。
「な、何言ってるの!?」
「やっぱり!顔、赤いよ!」
 美鈴が笑った。
「誰?誰なの?」
「だ、誰でもないよ!」
「嘘ばっかり。絶対いるでしょ」
 美鈴は、にやにやしていた。
「もしかして……健人くん?」
「っ!」
 春花は、言葉に詰まった。
「やっぱり!」
 美鈴が嬉しそうに手を叩いた。
「健人くんなんだ!」
「ち、違うよ!」
「じゃあ、なんで顔、真っ赤なの?」
「それは……その……」
 春花は、うまく言い訳できなかった。
「ふふ、いいじゃん。健人くん、いい人だよね」
 美鈴が優しく言った。
「幼馴染で、いつも春花のこと見守ってくれてて」
「う、うん……」
「梅花祭の時も、体育館の裏でギター弾いてたんでしょ?」
「美鈴ちゃん、知ってたの?」
「当たり前でしょ。あんなわかりやすい状況、誰だって気づくよ」
 美鈴は笑った。
「で、どうなの?告白された?」
「してないよ!」
「え、じゃあ、春花から?」
「それも違う!」
 春花は慌てて否定した。
「ただ……なんか……」
「なんか?」
「健人のこと、最近よく考えちゃうの……」
 春花は、小さな声で言った。
「前は、ただの幼馴染だったのに……今は、なんか、違う感じがして……」
「それって、恋じゃん」
 美鈴が断言した。
「え……そうなのかな……」
「そうだよ。春花、恋してるんだよ」
「恋……」
 春花は、自分の胸に手を当てた。
 確かに、健人のことを考えると、胸がドキドキする。
 会いたくなる。
 声が聞きたくなる。
「これが……恋なの……?」
「うん。間違いないよ」
 美鈴が微笑んだ。
「よかったじゃん、春花。初恋だね」
「初恋……」
 春花は、その言葉を噛み締めた。
 放課後。
 春花は、いつもなら音楽準備室に向かうところだったが、この日は違った。
 教室に残って、宿題をしていた。
 というのも、実はこれには理由があった。
 健人も、同じ教室に残っているのだ。
 春花は、チラチラと健人の方を見た。
 健人は、数学の問題集と格闘している。
「うーん……わかんねえ……」
 健人が頭を抱えている。
 春花は、少し笑ってしまった。
「どうした?」
 健人が春花に気づいた。
「あ、ううん、何でも……」
「嘘だろ。今、笑ってただろ」
「ご、ごめん……健人が困ってたから……」
「ああ、この問題な。全然わかんねえんだ」
 健人が問題集を見せた。
「ちょっと見せて」
 春花は、健人の席に近づいた。
「あ、これね……こうやって解くんだよ」
 春花が、丁寧に説明する。
「おお、そういうことか!」
 健人が理解した顔をした。
「ありがとう、春花。助かった」
「どういたしまして」
 春花は微笑んだ。
 二人は、しばらく一緒に勉強をした。
 春花が健人に数学を教え、健人が春花に英語を教える。
 気づけば、教室には二人だけになっていた。
「あれ、もうこんな時間……」
 健人が時計を見た。
「そろそろ帰らないと、暗くなっちゃうな」
「うん……」
 春花は、少し名残惜しそうだった。
「一緒に帰るか?」
 健人が聞いた。
「え……いいの?」
「ああ。どうせ同じ方向だし」
「じゃあ……お願いします……」
 春花は、嬉しそうに答えた。
 二人は、教室を出た。
 夕日が、校舎を赤く染めている。
「綺麗だね……」
 春花が呟いた。
「ああ」
 健人も頷いた。
 二人は、並んで廊下を歩いた。
「なあ、春花」
「うん?」
「お前、最近すごく輝いてるな」
「え……?」
「梅花祭の後、なんか、オーラが違うっていうか……」
 健人は、少し照れくさそうに言った。
「自信がついたんだろうな」
「そうかな……」
「ああ。見てて、嬉しいよ」
 健人が微笑んだ。
「春花が、笑顔でいてくれるのが、一番だ」
「健人……」
 春花の胸が、ドキドキした。
 健人の言葉が、心に染みる。
 この人は、いつも私を見守ってくれてた。
 いつも、傍にいてくれた。
 気づかなかったけど――
 ずっと、ずっと。
「健人、ありがとう」
 春花が言った。
「いつも、応援してくれて」
「いや、俺は何もしてないよ」
「そんなことない」
 春花は、健人の目を見た。
「健人がいてくれたから、私、頑張れたんだと思う」
「春花……」
 健人は、少し驚いた顔をした。
「そう言ってもらえると、嬉しいな」
 二人は、校門を出た。
 夕焼けの空が、二人を包んでいる。
「じゃあ、またな」
 健人が手を振った。
「うん、また明日」
 春花も手を振った。
 健人の背中が、遠ざかっていく。
 春花は、その背中を見つめていた。
「好き……なのかな……」
 小さく呟いた。
 風が吹いて、春花の髪を揺らした。
春花は、自分の部屋で、ノートを開いた。
 新しい歌詞を書きたくなった。
 恋の歌を。
 健人への想いを込めた歌を。
「タイトルは……『一番早く、恋が咲く』……」
 春花は、ペンを走らせた。
「ドアを開けた瞬間 空気が変わった それだけで 今日は 特別な日になる予感……」
 言葉が、溢れるように出てくる。
 恋をすると、こんなにも言葉が生まれるんだ。
 春花は、書き続けた。
 健人のこと。
 二人の思い出のこと。
 これからのこと。
 すべてを、歌詞に込めた。
「一番早く、恋が咲く 世界がまだ 冬でも この気持ちは 止まれない だって 君に会えたから……」
 春花は、完成した歌詞を見つめた。
 春は、まだ遠い。
 でも――
 春花の心には、もう春が来ていた。
 一番早く、恋が咲いた。


曲タイトル『一番早く、恋が咲く』歌詞紹介

【Intro】
ドアを開けた瞬間
空気が変わった
それだけで 今日は
特別な日になる予感
【Verse 1】
白い息 ひとつ
ポケットにしまって
昨日より少し
軽い歩幅で歩く
知らないうちに
探してる視線
名前を呼ばれたら
振り向いちゃうくせに
【Pre-Chorus】
まだ寒いけど
待てないんだ
心が先に
走り出してる
【Chorus】
一番早く、恋が咲く
世界がまだ 冬でも
この気持ちは 止まれない
だって 君に会えたから
白い花びら 舞うみたいに
胸がふわっと 浮かんでく
誰より先に 好きになる
そんな季節が 来たんだよ
【Verse 2】
「元気?」って一言
それだけなのに
今日一日分の
勇気をもらった
笑い方とか
声のトーンとか
全部ノートに
書きたいくらいだよ
【Pre-Chorus】
偶然でも
運命でも
今ここにある
想いが本物
【Chorus】
一番早く、恋が咲く
まだ名前も ないまま
でも確かに あたたかい
この胸の奥で
ピンク色の 未来図が
少しずつ 広がってく
答えなんて いらないよ
恋は始まってる
【Bridge】
もしも少し
怖くなっても
この想いは
嘘をつかない
凛と咲いて
ちゃんと揺れて
私のままで
進みたい
【Final Chorus】
一番早く、恋が咲く
誰に言われなくても
「今だよ」って
心が 教えてる
寒さを越えた その先で
笑ってる私が見える
君に出会えた この季節
それだけで 全部正解
【Outro】
まだ冬の街
それでも私は
一番早く
恋を咲かせた

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