今年が終わろうとしている今、どうしても書き残しておきたい記憶がある。 それは今年1月に出会った、ある清掃会社の話です。
プロローグ:沈没船
「……もう、どうすればいいのか分からないんですよ」
会議室の空気は、冬の寒さよりも冷え切っていた。
目の前に座る代表取締役と役員たちの表情は、経営者というより、沈没寸前の船で立ち尽くす船長のそれだった。
彼らの事業は、オフィスビルや商業施設の清掃業。
アルバイトスタッフを500名以上抱える、本来なら地域を支える優良企業だ。 だが、その内実は「壊滅的」だった。
毎月、15人のスタッフが辞めていく。
補充しようにも、採用できるのは月にわずか5人。
差し引き、毎月10人の純減。
穴埋めのために社員が現場を走り回り、営業活動はストップ。 足りない分を高額な派遣スタッフで埋めるが、利益は圧迫され、その派遣すら集まらなくなっている。
新規の仕事依頼がきても、「人がいないから」と断る日々。
まさに、座して死を待つ状態だった。
第1章:ハゲタカたち
私は彼らが提示した決算書と広告費のデータを見て、思わず言葉を失った。
年間求人広告費、約2,000万円。
それだけの巨額を投じながら、採用は月に数名。
中身を見ると、怒りで手が震えた。
1,500万円がある特定の折込チラシの求人広告メディアに支払われている。
残りはインディードプラスや求人ボックスに少額ずつ。
折込求人広告会社の営業マンはインディードを提案できるはずなのに、
全く提案していなかったようだ。何故?折込チラシなんて誰も見ない広告に・・・?
「担当営業からは、どんな提案を受けていましたか?」
私が聞くと、役員は力なく首を振った。「いや……特に。言われるがままに更新していただけです」
搾取だ。そう直感した。
運用型広告が主流の現代において、効果の出ていない媒体に1,500万円を使わせ続ける営業担当。
顧客の期待(=売上)を裏切り続け、思考停止で枠だけを売る「ハゲタカ」のような営業が、この会社を食い物にしていたのだ。
さらに絶望的だったのは、社内の人事担当者だった。
定年後の再雇用だという鈴木(仮名)は、我関せずといった顔で窓の外を見ている。 「時代が変わったからねぇ」 当事者意識のかけらもない。
この鈴木が後に、大問題は引き起こす。この会社は、外からは食い物にされ、内からは腐りかけている。だが、役員たちの目だけは死んでいなかった。
「会社をなんとかしたい。必要な変化なら、痛みも受け入れる」
その熱意だけが、唯一の希望だった。
実際の応募単価
・折込チラシ:把握していない(おそらく1応募10万以上)
・インディード:応募単価 約10万円
・求人ボックス:応募単価 約10万円
第2章:夜明け前の確信
「全ての広告を全部止めてください」 私は言い放った。
「折込チラシも、求人ボックスも全部です。インディードプラスも弊社に乗り換えてください!」
この会社との10年以上の取引先を切って、新規の弊社に乗り換える。
古い体質の会社にとって、この会社の常識を全て捨てさせる提案だ。
だが、勝算はあった。
ただ、私にはまだ一つ、どうしても確認しなければならないことがあった。
数日後。朝の5時半。
私は眠い目をこすりながら、彼らが管理する現場の一つ、オフィスビルに立っていた。
清掃業界のことは知らない。現場を見ずして、本当の原稿など書けるはずがない。
早朝6時15分。 現場に入った私は、そこで衝撃を受けることになる。
「おはようございます!」 高齢の女性スタッフが、凛とした声で挨拶をしてくれた。 60代、70代が中心のスタッフたち。正直、作業を見るまでは侮っていた。 「どうせ、小遣い稼ぎの適当な仕事だろう」と。
恥じた。
彼らの動きは、洗練されていた。床の隅、トイレの鏡、手すりの裏側。
誰も見ていない早朝のオフィスで、彼らはプライドを持って「完璧」な仕事をしていた。 この会社には、素晴らしい社風が、教育が、確かに浸透している。
(この会社は、死なせてはいけない)
朝日が差し込む磨き上げられた廊下で、私は確信した。
「大丈夫です。人は必ず集められます」 隣にいた取締役に、私は力強く伝えた。私の表情とは対照的に取締役の表情は、それでも暗かった。
第3章:痛みを伴う再生
お客様のオフィスに戻り、私は最後の、そして最重要事項のお願いをした。
「スグに時給を上げてください」
取締役たちの顔が曇る。 清掃業において人件費率は経営の生命線だ。
しかも彼らは今、最低賃金で募集している。勤務するスタッフも同様だ。
「今のままでは、どんなに良い原稿を書いても人は来ません。マーケットはインフレしています。最低賃金で働く理由は、今の求職者にはないんです」
私は周辺エリアの競合データ、案件ごとの損益分岐点、
そして未来のシミュレーションを並べ立てた。
嫌われるのを承知で言った。
「ここで給与を変えなければ、御社の未来は暗いままです」
重苦しい沈黙。 誰も口を開かない。
「少し考えさせてください」代表の一言。
そこで結論は出なかった。
第4章:逆転の兆し
数日後。 電話が鳴った。
「……取締役会で承認されました。時給、上げます。」
覚悟は決まった。
あとは、私が結果を出すだけだ。条件は整っている。
私はインディードプラスで徹底的にターゲットを絞り込んだ原稿を50本近く作成した。
現場で見た「誇り」を、そのまま言葉に乗せた。
1月下旬。 予算は150万円。 運命の配信がスタートした。
結果は、すぐに現れた。 掲載開始からわずか1週間。
「……これ、何かの間違いじゃないですか?」
電話口の取締役の声が震えている。
応募数は20件を超えていた。
これまで年間2,000万円かけても集まらなかった人数が、
たった1週間で、10分の1以下のコストで集まったのだ。
「すごい……本当に、人が来るんですね」
お客様は驚き、そして安堵していた。
私も電話を切ったあと、一人静かにガッツポーズをした。
沈没寸前だった船が、再び浮上した。
ここから、この会社の快進撃が始まる。 誰もがそう思った。
そう、ここまでは順調だったのだ。
だが、この仕事はそんなに甘くはなかった。
応募が爆発したことによって、
私は「予想もしなかった新たな問題」に直面することになる。
後編へ続く。