青の教室 陽子 第27話/4月16日 ――影のうすれる音――
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第27話/4月16日
――影のうすれる音――
陽子との夕食のあと、
深夜の家は
どこか水の底のように静かだった。
陽斗はもう眠り、
陽子の部屋からも小さな寝息が聞こえている。
美咲は、
食卓の上に置いた携帯をそっと手に取った。
胸の奥に浮かんだ思いが、
そのまま指先へ流れ込んでいく。
「いつもありがとうございます。
毎日、陽子に渡している課題表ですが、
止めようかと思います。
陽子が自分で考えて進むことの方が
はるかに大事だと思うんです。
お世話になりながらですが、
陽子にもそれができるかもしれない。
先生のお考えもそうなんですよね、きっと」
送信ボタンを押したあと、
美咲はしばらく携帯を見つめていた。
***
そのころ、
青の教室では、
友彦がひとり、机に向かっていた。
パソコンのポップ音が鳴り、
美咲からのメッセージが届く。
読み終えた瞬間、
胸の奥に小さな波紋が広がる。
(……ここまで来たんだな)
返事を打ち始めようとするが、
指は止まる。
言葉を選ぶ。
そのまま画面が暗くなり、
青い光だけが机の上に落ちていた。
***
翌日の陽子は、
今日も自分の思うとおりに勉強を進めていた。
昨日と同じように、
「一回り」ではなく、
胸の奥の小さな声を聞きながら。
思い立って、
かばんの中から課題表を取り出す。
ただの紙切れなのに、
どこか温かい。
昨夜の美咲の言葉が
胸をよぎる。
「昼寝して、
それで罪悪感を感じなくなったら一人前よね」
陽子は、
やり残していた「地理の1ページ」を開いた。
その瞬間、
自分でも驚くほど自然に手が動いた。
(課題表の勉強も!私できるかも!)
***
夜になって、
友彦はようやく美咲へのメッセージを返した。
「こんばんは。LINE拝見しました。
返信が遅くなりました。
陽子さんも、お母さんも、満塁ホームランです。
陽子さんは、
今日は、課題表のお勉強も
自分のこととして進めることができたようです。
粘土のかたまりに混じっていた異物は
もう混ざって取り出すことはできない。
でも、それは
陽子さんが自分で、
自分色に染めてしまう。
きっと、そんなふうになります。」
***
友彦は確信していた。
(みんな自分の色になる)
青の光が
みんなを穏やかに包んでいた。