契約を解除するときのチェックリスト|合意解除の覚書で決め忘れがちな10項目

記事
法律・税務・士業全般

契約を「終わらせる」ときにも、書面が要る


契約を結ぶときは、みんな慎重になります。条文を確認して、判を押して、控えを保管して。ところが、その契約を終わらせるときになると、急に雑になる。メールで「では今月で終わりにしましょう」「了解です」、それだけ、というのがよくあります。
それで何も起きないことも多いんですが、ある程度の期間、深く関わった相手との別れ際は、もう少し書面で残しておいたほうがいい。終わったあとに守ってほしいことや、整理しておくべきことが、けっこう残っているからです。そのための書面が、合意解除の覚書(合意解除書、解約合意書とも呼びます)です。
この記事では、合意のうえで契約を終わらせるときに、覚書で決めておくべき項目を、チェックリストの形で10個並べます。人と組む仕事をしている方、継続的な契約を複数の相手と結んでいる方が、別れ際に「あれ、これ決めたっけ」と慌てないための備えとして使ってください。
なお、ここで扱うのは「双方が納得して終える」ケースです。相手が約束を破った、もめている、という一方的な解除とは対応が変わるので、その点だけ先にお断りしておきます。
それと、契約の終わり方には、ほかにも「期間満了で自然に終わる」パターンがあります。期間が来て、どちらも更新しなければ終わり、というやつです。これは特別な書面がなくても終わるので、覚書が要るのは主に、期間の途中で双方合意して終えるとき、と考えておけば大丈夫です。自動更新の契約だと、放っておくと終わらないので、「合意して終える」には何らかの書面が要る、という事情もあります。

チェック1:どの契約を、いつ終わらせるか


まず、いちばん基本の確認です。
覚書には、終わらせる対象の契約を、はっきり特定して書きます。「令和○年○月○日付の○○契約(以下、原契約)」というふうに、日付と名称で指す。複数の契約を結んでいる相手だと、どの契約の話なのかが曖昧だと、あとで混乱します。
あわせて、いつ終わるのか、解除日も明記する。「本覚書をもって解除する」のか、「○月○日をもって解除する」のか。終了のタイミングは、報酬の精算やデータの返却の起点になるので、ここを決めずに進めると、後ろの項目がすべてぼやけます。
それから、覚書の冒頭には「なぜ終わらせるのか」を、一言だけ添えておくといいです。といっても詳しい事情を書く必要はなくて、「甲乙双方が合意のうえ、原契約を解除することとなった」という程度で十分。これがあると、この覚書が一方的な解除ではなく、双方納得の終了だということが、書面の上ではっきりします。後から「あれは無理やり終わらされた」と言われないための、ささやかな備えになります。

チェック2:終わったあとも残す条文を、確認したか


ここが、合意解除の覚書でいちばん大事なところです。
契約は、終わったらすべて消えるわけではありません。秘密保持、一緒に作ったものの著作権、競業や引き抜きの制限、お互いの品位を守る約束。こういう条文は、関係が終わったあとも効き続けるべきものです。
覚書では、「原契約のうち、この条文とこの条文は、解除後も引き続き守る」と、残す条文を条番号で名指しして確認します。もとの契約に「終了後も存続する」と書いてあれば本来は残るのですが、別れ際にもう一度はっきりさせておくと、お互いの認識がそろいます。終了後のトラブルは、ここの認識違いから起きることが多いので、面倒でも一つずつ挙げておく価値があります。
どの条文を残すか迷ったら、「これは終わったあとも守ってほしいか」で振り分けてみてください。秘密保持や著作権は、終わったあとに破られたら困るので、残す。報酬の分け方や業務の内容は、契約が動いているあいだのルールなので、終われば役目を終える。残すべきものと、消えてよいものを、一度仕分けてから条番号を挙げると、漏れも入れすぎも防げます。

チェック3:お金の精算は済んでいるか


報酬を分け合っていた関係なら、終わるときに、お金の整理が必要です。
確認するのは、解除日までに発生した分の精算。たとえば、売上を分けていたなら、最後の月の途中までの分をどう分けるか。それから、解除後に入金がずれ込んでくる売上があるなら、その扱い。配信業なら支援サービスの入金、物販ならグッズの売上など、タイムラグのあるお金は要注意です。
精算が全部済んでいて、お互いに請求するものがないなら、その状態も書いておきます。「本覚書をもって、原契約に関する債権債務はすべて清算済みであることを相互に確認する」。この一文があると、あとから「あれが未払いだった」と蒸し返されても、清算済みだと示せます。お金の貸し借りは、別れ際にゼロにしておくのが安全です。

チェック4:違約金やペナルティの扱いを決めたか


もとの契約に、早期にやめた場合の違約金のような条項が入っていることがあります。「一定期間内にやめたら、いくら払う」というような。
合意で終わるとき、この違約金をどう扱うのかは、必ずはっきりさせてください。合意解除だから請求しない、と双方が思っているなら、「本件解除に関して、双方は相手方に金銭的な請求をしない」と書いておく。逆に、何か精算すべきものが残っているなら、それも書く。「円満に終わったから」で曖昧にしたまま流すと、後日「あの違約金はどうなった」という話になりかねません。
あわせて、覚書そのものに違反したときの責任も、一文だけ入れておきます。「本覚書に違反して相手に損害を与えたときは、その損害を賠償する」。これがあると、覚書で確認した約束に重みが出ます。残すと決めた秘密保持や権利の約束を、終了後に破った場合、それがこの覚書違反になる。なお、もとの契約に重い賠償条項があるなら、それとの関係も意識しておく。覚書だけ別の基準にすると、どちらが効くのかで混乱します。

チェック5:一緒に作ったものの権利は、どちらに行くか


人と組んで何かを育てる仕事だと、ここがいちばんデリケートです。
たとえば、キャラクター、活動名、ブランド、共同で作った制作物。二人で育ててきたものが、別れたあと誰のものになるのか。もとの契約で帰属が決まっているなら、覚書でそれをもう一度なぞる。曖昧なままなら、別れる前にここで決め切る。
感情と権利がぶつかりやすい場所なので、後回しにしたくなるんですが、後回しにするほどこじれます。「あれは自分のものだと思っていた」が、別れ際の紛争で最も多いパターンのひとつです。お互いがまだ冷静なうちに、誰が何を持って、終了後に誰が使えるのかを、文字にしておく。
権利の帰属だけでなく、「終了後の使い方」まで踏み込んで決めておくと、もっと安心です。たとえば、運営側に権利が残るとして、本人が今後その名前を名乗れるのか、名乗れないのか。逆に本人に権利が移るなら、運営側が過去の制作物を実績として使っていいのか。「権利は誰のもの」だけだと、こういう具体的な場面で迷いが出ます。終わったあと、お互いが実際に何をしたいのかを想像して、できること・できないことを書き分けておくと、後の問い合わせが減ります。

チェック6:貸し借りしていたものを、返す段取りはあるか


活動中に、片方からもう片方へ貸していたものがあるはずです。
データ、素材、機材、マニュアル、資料。これらを、終了後に返すのか、消すのか。誰が、いつまでに。逆に、相手から預かっていたものがあれば、それも返す。貸し借りを別れ際に元へ戻しておかないと、終わったあとも「あの素材、まだうちにあるな」という宙ぶらりんのものが残ります。返却か削除か、期限はいつか。覚書で決めておくと、すっきり切り離せます。

チェック7:すでに世に出たコンテンツの扱いを決めたか


ネット上で活動する仕事なら、過去に公開したコンテンツが残っています。
なかには、事情があって非公開にしたものもあるでしょう。終了後、これらをどうするか。とくに、本人の意向で表に出さないと決めたものを、関係が終わったあとに勝手に公開したり、二次利用したりしないこと。この約束を覚書に入れておきます。
書き方には注意が要ります。「非公開のものは二次利用しない」と書くなら、では公開済みのものはどう扱うのか、という線引きが要る。全部まとめて「二次利用禁止」にすると、本来は問題なく残せたものまで縛ってしまう。対象を、非公開のものに絞るのか、公開済みも含めるのか。一文の射程を意識して書き分けてください。
もうひとつ、すでに公開されているコンテンツ自体を、終了後にどうするかも決めておくといいです。残したままにするのか、消すのか、誰の管理に移すのか。過去の配信や投稿は、本人にとっては実績でもあり、運営にとっては資産でもある。だから「全部消す」「全部残す」のどちらかに即決せず、何を残して何を消すか、誰がそれを管理するかを、話して決める。ここを決めておかないと、終わったあとに「あの動画、まだ残ってるんですけど」という連絡が来ます。

チェック8:アカウントとデータの行き先を決めたか


SNSのアカウントや、各種データも、別れ際に宙に浮きやすい項目です。
共同運営していたアカウントを、残すのか、消すのか。消すなら誰が責任を持つのか。パスワードを共有していたなら、それをどう整理するか。データは本人に渡すのか、運営側で消すのか。
放っておくと、誰も手をつけないまま、アカウントだけがネット上に残り続ける、という状態になります。終了後に協議する、と覚書に書いておくか、できればこの場で具体的に決めてしまう。形のないデジタル資産は、扱いを決め忘れやすいので、意識して拾ってください。
セキュリティの面でも、ここは大事です。共有していたパスワードを変えないまま放置すると、終わった相手が、いつまでもアカウントに入れる状態が続きます。悪用するつもりがなくても、リスクとして残る。終了のタイミングで、パスワードを変える・共有を解除する・二段階認証を見直す、といった引き継ぎの手順まで決めておくと、後腐れがありません。

チェック9:終了後の人間関係のルールは要るか


もとの契約で、活動中は「相手のファンやクライアントと直接つながらない」といった制限を課していることがあります。終了後、これをどこまで残すか。
ここは線引きが難しいところです。終わったあとまで人間関係を完全に縛るのは現実的でないし、広すぎる制限は無効と判断されやすい。一方で、終わった途端に人脈やクライアントをごっそり持っていかれるのも困る。だから、本当に守りたいものだけに絞って残す。一定期間は既存のクライアントと直接取引しない、といった現実的な範囲にとどめるほうが、かえって有効です。

チェック10:個人情報の扱いを、覚書で補えているか


もとの契約に、個人情報の条文がないことがあります。
一緒に仕事をすれば、相手の個人情報も、関わる人たちの情報も、当然やり取りします。なのに原契約にその規定がないなら、解除の覚書で補っておく。「原契約を通じて知った個人情報は、個人情報保護法を守って扱い、秘密保持の条文を準用する」というふうに、一本筋を通しておきます。終わったあとも、お互いの個人情報を適切に扱う、という約束を残せます。

覚書を「ひな型」にして使い回すときの注意


同じような契約を複数の相手と結んでいると、解除の覚書も、相手ごとに作ることになります。毎回ゼロからでは大変なので、共通のひな型を作っておいて、相手ごとに変わる部分だけ差し替える形が現実的です。
そのとき、相手ごとの特別な取り決めは、専用の条文を一つ設けて、そこにまとめて書くといい。たとえば「解除後の制限事項」という条文を用意しておいて、その人だけの約束はそこに入れる。本体はいじらず、その条文だけを相手に合わせて変える。どこが「その人だけの約束」なのかが、一目で分かります。
実務的な注意をひとつ。相手ごとの取り決めがなくて、その条文が空欄になる場合、空欄のまま放っておかないこと。あとから勝手に書き足されたり、書き忘れと誤解されたりするからです。何も入れないと決めたら、その欄に大きく斜め線を引いておく。意図的に空けた、という印になります。これは覚書に限らず、書面で空欄を残すときの基本の作法です。

覚書は、いつ・どう作るか

タイミングの話もしておきます。覚書を作るのは、解除の話がまとまった「あと」ではなく、まとまる「過程」が理想です。
別れること自体は口頭で合意して、細かい取り決めはあとで覚書に、という進め方をすると、いざ覚書を作る段になって「その条件は聞いていない」というずれが出ることがあります。終了の合意と、終了後の取り決めは、できれば一緒に話す。覚書の項目を一覧にして、それを見ながら「これはどうする」「これは残す」と一つずつ詰めていくと、漏れも、あとからの蒸し返しも減ります。この記事のチェックリストを、その話し合いのたたき台に使ってもらえればと思います。
作り方は、ふつうの契約書と同じです。2通作って、双方が署名押印して、1通ずつ持つ。紙で綴じるなら、ページのつなぎ目に契印を押す。電子で結ぶなら、その形に合わせる。覚書だからといって、メモ書き程度で済ませず、契約書に準じた形で残しておくと、後々きちんと効きます。

「書面で残す」は、相手を疑うことではない


最後に、よくある心理的なハードルについて。
「合意で円満に終わるのに、わざわざ書面なんて、相手を疑っているようで気が引ける」。そう感じる方がいます。でも、実際は逆です。お互いの記憶があやふやになる前に、約束を文字にしておくのは、相手のためでもある。何年か経って、細かいことを忘れたころに「あのとき、こう言ったよね」「いや、言っていない」とすれ違うのを防げます。
覚書は、相手を縛る道具というより、お互いの記憶を一致させておくメモのようなものだと考えてください。きちんと書面を交わして終わった相手とは、業界のどこかでまた会ったときも、気持ちよく接することができます。終わり方が丁寧だと、次の仕事の評判にもつながります。

まとめ


合意解除の覚書で決めておくべき10項目を、もう一度並べておきます。終わらせる契約の特定と解除日。終了後も残す条文の確認。お金の精算。違約金やペナルティの扱い。一緒に作ったものの権利の行き先。貸し借りしたものの返却・削除。公開済み・非公開コンテンツの扱い。アカウントとデータの行き先。終了後の人間関係のルール。個人情報の扱い。
このうち、自分の契約に関係するものだけを拾って、覚書に落とせば十分です。全部が要るわけではありません。ただ、別れ際になってから「これ、どうするんだっけ」と考え始めると、相手との温度差が出て、まとまる話もまとまらなくなる。終えると決めた時点で、この10項目をひととおり見て、必要なものを書面にしておく。それだけで、別れ際の負担がだいぶ軽くなります。
もとの契約の内容や、関係の深さによって、覚書に入れるべきものは変わります。判断に迷うときや、金額・権利の大きい関係を終えるときは、覚書を作る段階で一度、専門家に相談しておくと安心です。



本記事は、契約の合意解除に関する一般的な考え方の解説です。覚書の最適な形は、もとの契約の内容や個別の事情によって変わりますので、実際の作成にあたっては個別の検討をおすすめします。契約書・覚書の作成・確認のご依頼は、出品中のサービスからお気軽にどうぞ。



サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら