タレント専属契約書を作る前に決めておく10のこと|事務所がタレントを所属させるときの実務ガイド

タレント専属契約書を作る前に決めておく10のこと|事務所がタレントを所属させるときの実務ガイド

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法律・税務・士業全般

はじめに


タレントやパフォーマーを所属させるとき、専属契約書が必要になります。ネットのテンプレートや、知り合いの事務所からもらったひな型を使う方が多いのですが、そのまま名前と料率だけ入れ替えて使うと、後でうまくいかないことがあります。
専属契約は、相手の活動そのものを縛る、責任の重い契約だからです。ふつうの業務委託より考えることが多く、テンプレートには自分たちの実態に合わない条文が混ざっていることも珍しくありません。
この記事では、タレントを所属させる側が、専属契約書を準備するときに決めておくべきことを、順番に整理します。これから事務所を立ち上げる方、いまテンプレートのまま運用していて作り直したい方が、契約書を作る前のチェックに使える内容にしました。法律の細かい判断は専門家への確認を前提に、実務で何を決めればいいかを中心に書いています。

1. そもそも「専属」にするのか


最初に決めるのは、契約の形です。タレントとの契約には、いくつか段階があります。
完全に専属にして、よその仕事を一切受けさせない形。ある程度の自由を認めて、特定のジャンルだけマネジメントする形。案件ごとに、その都度マネジメントする形。専属は、このなかでいちばん縛りが強いやり方です。
縛りが強いぶん、事務所の負担も重くなります。専属で抱える以上、そのタレントの活動を事務所が回さないといけません。仕事が取れなければ、タレントは「専属なのに食えない」と不満を持ちますし、よそで稼ぐこともできない。タレントの数が増えたとき、全員を専属で支えられるのか。そこまで考えてから、専属にするのか、もう少しゆるい形にするのかを決めてください。テンプレートが専属契約だから、という理由だけで専属を選ぶのは避けたほうがいいです。
もうひとつの見方として、タレント本人が今どの段階にいるかも判断材料になります。まだ無名で、これから一緒に育てていく相手なら、専属で腰を据えて支える意味があります。一方、すでにある程度の知名度や実績がある相手だと、完全専属は相手が受け入れにくいことも多い。相手の状況に合わせて、縛りの強さを選ぶという発想も持っておくといいです。

2. 縛る範囲を「芸能活動」に絞る


専属義務の条文は、専属契約の中心になります。「事務所の承諾なく、第三者のために活動してはならない」という形が基本です。
ここで気をつけるのは、縛る範囲です。「一切の活動を禁止」と広く書いてしまうと、タレントの私生活や、芸能と関係のない活動まで縛ることになります。本人の趣味や、家業の手伝いまで事務所の承諾が要る、という建て付けは行きすぎで、職業選択の自由との関係で問題になることもあります。
縛る対象は、芸能活動に絞っておく。芸能の仕事は事務所を通す、それ以外の生活は本人の自由、という線を引いておきます。本人にとっても、どこまでが縛られていて、どこからが自由なのかが分かるほうが、安心して所属できます。
あわせて、事務所の側がやることも書いておくと、契約のバランスがよくなります。タレントに「よそで仕事をするな」と求める以上、事務所は仕事を取ってくる、活動を支える、といった役割を負うはずです。義務を課す条文ばかりで、事務所が何をするのかがどこにも書いていない契約書は、タレントから見ると一方的に映ります。署名はもらえても、こじれたときに「事務所は何もしてくれなかった」という話になりやすい。縛る条文と、事務所が果たす役割は、セットで書いておいてください。

3. SNSと個人配信の扱いを決める


最近、専属義務まわりで新しく問題になりやすいのが、タレント本人のSNSや個人配信です。
これが「芸能活動」なのか「私的な発信」なのか、線が引きにくい。本人が個人のアカウントで発信したものが、事務所の管理外で広がっていくことが普通に起きます。専属契約を作るなら、SNSや個人配信をどう扱うのかを決めておいたほうがいいです。事務所の管理下に置くのか、本人の自由とするのか、一定のルールのもとで認めるのか。ここを曖昧にしたままだと、本人の発信をめぐって、後で認識のずれが出ます。
決め方に正解はありませんが、頭ごなしに全部禁止にすると、いまの時代はタレント側の発信の機会を奪うことになりかねません。何を事務所に通すか、何は自由にしていいかを、具体的に決めておくのが現実的です。

4. 芸名と肖像の権利を整理する


タレント契約で、あとから揉めやすいのが、芸名と肖像です。
事務所で活動するうちに、タレントは芸名で知られていきます。顔も声も、その芸名と一体になってファンに認識される。この芸名や肖像を使う権利を、誰が持つのか。専属契約では、芸名・写真・肖像・経歴の使用を、事務所がコントロールする形が一般的です。プロモーションや商品化を事務所が仕切るうえで必要な建て付けではあります。
ただ、ここはタレントの人格に深く関わります。とくに大事なのが、契約が終わった後、その芸名を本人が名乗れるのかどうか。事務所が付けた芸名で有名になったのに、辞めた途端に使えなくなる、というのはタレントにとって死活問題です。逆に、事務所からすれば、育てた芸名を勝手に持っていかれては困る。終了後の芸名をどうするかは、契約のときに決めておかないと、辞めるときに必ずこじれます。テンプレートにはこの「終了後の芸名」が抜けていることが多いので、足しておいてください。
決め方にはいくつかの形があります。芸名は事務所のものとして、辞めたら使わせない、というやり方。本人に引き継がせて、辞めた後も名乗っていい、というやり方。あるいは、辞めた後の使用について別途協議する、という形。どれを選ぶかは事務所の方針次第ですが、大事なのは「決めてある」ことです。何も書いていないと、辞めるときに、お互いが自分に都合よく解釈してぶつかります。

5. 肖像の使い方は、本人の同意も意識する


肖像の権利について、もう一点。書面で「事務所が使用権を持つ」としても、それで何にでも自由に使える、というわけではありません。
肖像やプライバシーは、もともと本人の人格に属するものです。本人がまったく想定していなかった使われ方——イメージに合わない商品への起用や、際どい媒体への露出——まで無制限に許されるわけではない。本人の同意の範囲を超えた使い方は、トラブルになりますし、信頼関係も壊します。
だから、肖像の使用を白紙委任にするのではなく、どの範囲で使うかの了解を、契約のときや個別の案件のときに取っておく。書面では使用権を事務所に置きつつ、運用では本人の意向も確認する。この形にしておくと、本人も安心して顔を出せますし、事務所も「聞いていない使い方をされた」と言われずに済みます。

6. マネジメント料の決め方をはっきりさせる


報酬の条文は、専属契約ならではの組み立てになります。タレントが得た報酬はいったん事務所に入り、そこから決められた割合をタレントに渡す。この事務所の取り分が、マネジメント料です。
決めておくのは、何を基準に何パーセントなのか。事務所が受け取った報酬の何割なのか、経費を引く前か後か、活躍に応じて割合が変わるならどういうときに変わるのか。ここが曖昧だと、毎月の精算のたびに「思っていた金額と違う」が起きます。
それから、活動の種類によって扱いを変える場合があります。出演で得る報酬と、商品化や二次利用で得る報酬とで、分け方が違うことがある。種類ごとに分配の考え方を分けて書くか、その都度協議して決める、としておきます。一律のパーセントだけで全部をまかなおうとすると、想定外の収入が出たときに扱いが決まらず宙に浮きます。
支払いの実務も決めておきます。事務所に入金があってから、いつタレントに渡すのか。締め日と支払日、振込か手渡しか、源泉徴収が関わる場合の扱い。タレントが個人だと税務の論点もついてくるので、ここは税理士にも確認しておくと安心です。

7. 報酬の条文が重複していないか確認する


テンプレートを使うときに見落としやすいのが、報酬条文の重複です。
ひな型によっては、報酬に関する条文が二つ三つに分かれていて、よく読むと同じことを言っている、ということがあります。「出演料」の条文と「作品に対する報酬」の条文が、実質的に重なっている、というような。重複した条文は、後でどちらが効くのかという混乱のもとになります。
契約書を整える過程で、一本にまとめられる条文はまとめる。条文は多ければいいわけではありません。同じ内容が別の場所に二度書いてあると、片方を直したときにもう片方を直し忘れて、食い違いが生まれます。報酬まわりは金額に直結するので、重複は特に丁寧に潰しておいてください。

8. 契約期間と更新のしかたを決める


専属契約の期間は、1年や2年で区切ることが多いです。短すぎると腰を据えて育てられませんし、長すぎるとタレントを長く拘束することになる。育成にかかる時間と、タレントの自由のバランスで決めます。
更新は、その都度協議して決める形と、申し出がなければ自動更新される形があります。自動更新は事務所にとって手間が少ない一方で、タレント側からは「気づいたら拘束期間が延びていた」という状態になりやすい。自動更新にするなら、やめたいときに抜けられる道をはっきり示しておきます。期間満了の何か月前までに申し出れば終われる、という予告期間を分かりやすく書いておく。専属は縛りが強いので、抜け方が不明確だと「辞めさせてもらえない」という不満や争いになりやすいです。
更新のタイミングで条件を見直せるようにしておくのも有効です。最初に決めたマネジメント料や活動範囲が、一年経つと実態に合わなくなることがある。タレントが伸びれば取り分の見直しを求められるかもしれません。自動更新で条件を固定したまま続けるより、更新の機会に一度すり合わせる場を持つほうが、不満を溜め込まずに済みます。

9. 未成年のタレントなら、親の同意を取る


タレントの世界では、未成年と契約することがあります。ここは大人同士の契約とは別の手当てが必要です。
未成年者が結んだ契約は、原則として後から取り消されることがあります。未成年のタレントと契約するなら、親などの法定代理人の同意をきちんと取っておく。同意がないまま進めると、後で「あの契約は無効だ」とひっくり返されかねません。
契約書には法定代理人の同意欄を設けて、署名押印してもらう。親が複数いる場合の扱いも考えておきます。本人確認も丁寧にやる。保護者にとっては、子どもを預ける相手です。書面の手続きを丁寧に踏むことが、そのまま保護者の安心につながります。未成年を抱えるなら、この同意のプロセスは省かないでください。

10. 終わり方を、最初に決めておく


専属契約でいちばん抜けやすいのが、終わり方です。テンプレートには「合意で解約できる」という条文くらいはあっても、終わった後に何がどうなるかまでは書いていないことが多い。専属契約は縛りが強いぶん、終わるときにいちばん揉めます。
決めておきたいのは、いくつかあります。芸名の扱い。活動で生まれた成果物や、撮りためた映像・音源の権利。事務所が持っているタレントやファンの個人情報の扱い。そして、終わった後すぐに同業の他社へ移っていいのか、一定の制限を設けるのか。
とくに移籍はデリケートです。事務所が時間とお金をかけて育てたタレントが、有名になった途端によそへ移るのは事務所にとって痛い。一方で、タレントにも活動の場を選ぶ自由があります。「一切移籍禁止」と強く縛ると行きすぎとして問題になりやすいので、終了後の一定期間について事務所を通さない直接取引を制限する、といった的を絞った形にとどめるのが現実的です。終わり方のルールは、契約のときに決めておくほど揉めずに済みます。

損害賠償の重さも確認する


テンプレートの損害賠償条文も、見ておきたい部分です。
専属契約だと、「義務を果たさなかったら相手の損害を賠償する」に加えて、「義務違反で得た利益を損害とみなす」といった条文が入っていることがあります。専属なのに無断でよその仕事をして報酬を得た場合、その報酬を損害とみなす、という考え方です。
事務所を守るためには意味のある条文ですが、書き方によってはタレントに過大な負担になります。とくに未成年や、まだ駆け出しのタレントに対して、上限のない重い賠償を課すのは、釣り合いを欠くと見られることがあります。賠償の条文は、事務所を守りつつ、相手にとっても理不尽でない範囲に整えておく。重ければ重いほど安心、というものではなく、いざというときに有効に機能する範囲に収めておくほうがいいです。

「労働者扱い」されないかにも注意する


最後に、専属契約全体に関わる注意点を一つ。
専属でタレントを抱えて、活動を細かく指示し、時間や場所を拘束し、報酬が実質的に労働の対価のようになっていると、契約書のタイトルが「専属契約」でも、実態として労働者に近いと見られることがあります。そうなると労働法のルールが絡んできます。
芸能の専属契約は、独立した事業者同士の契約なのか、実質は雇用なのか、という線の上にあります。指示の出し方や拘束の度合いによって、どちら側に寄るかが変わる。専属だから何でも指示できる、と考えていると、思わぬところで足をすくわれます。どこまで指示して、どこから本人の裁量に任せるか。契約書を作る段階で、この点も意識しておいてください。

まとめ


タレントの専属契約書を作る前に決めておくことを、もう一度並べておきます。専属にするかどうか。縛る範囲をどこまでにするか。SNSや個人配信の扱い。芸名と肖像の権利、とくに終了後の芸名。肖像使用と本人の同意。マネジメント料の決め方と支払いの実務。報酬条文の重複の整理。契約期間と更新のしかた。未成年への対応。終わり方の取り決め。損害賠償の重さ。そして、労働者扱いされないかという視点。
このうち、自分たちの事業に関係するものを拾って、契約書に落としていけば十分です。すべてが必要なわけではありません。ただ、テンプレートを名前と料率だけ替えて使うと、これらの多くが抜け落ちたままになります。とくに「終わり方」と「終了後の芸名」は、抜けていると辞めるときに必ず問題になるので、最初に入れておいてください。
最後に、運用の話を一つ。契約書は作って終わりではなく、結ぶときの説明も大事です。専属契約は縛りが強いので、タレント本人(未成年なら保護者も)に、どこを縛っていて、事務所が何をするのかを、口頭でも説明したうえでサインしてもらう。「読まずに判だけ押した」という状態だと、後で「そんな条件は知らなかった」という話になりやすい。きちんと説明して納得のうえで結んだ契約は、多少のことでは揺らぎません。手間に見えても、最初の説明にひと手間かけておく価値はあります。
専属契約は、相手の活動を縛る責任の重い契約です。金額や拘束の大きい関係を結ぶなら、契約書を作る段階で一度、専門家に確認しておくと安心です。



本記事は、タレント専属契約に関する一般的な考え方の解説です。条項の有効性や労働者性の判断は、活動の実態や個別の事情によって変わりますので、実際の作成にあたっては個別の検討をおすすめします。契約書の作成・確認のご依頼は、出品中のサービスからお気軽にどうぞ。



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