「昨日は『この条項は必要です』と言っていたのに、今日は『なくても問題ありません』と言われた。」
ChatGPTで契約書を作成したことがある方なら、一度はこんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。
「結局、どっちが正しいの?」
そう感じるのも無理はありません。
今回は、なぜChatGPTは契約書について毎回少し違う回答をすることがあるのか、その理由についてお話しします。
ChatGPTは「正解」を持っているわけではない
まず知っていただきたいのは、ChatGPTは法律相談をしているわけでも、契約書を審査しているわけでもありません。
ChatGPTは、膨大な文章を学習し、その中から「この質問なら、こう答える可能性が高い」という文章を生成しています。
つまり、「唯一の正解」を検索して答えているのではなく、複数あり得る考え方の中から、その場で文章を組み立てているのです。
そのため、質問の仕方が少し変わるだけで、回答の方向性が変わることがあります。
○契約書は「正解が一つ」ではない
さらに重要なのは、契約書の世界そのものが、一つの正解だけで成り立っていないということです。
例えば、損害賠償条項。
ある契約では損害賠償額を「支払済み代金を上限」とすることが適切かもしれません。
一方で、システム開発契約やフランチャイズ契約、ライセンス契約などでは、そのような上限ではリスク管理として不十分な場合もあります。
解除条項も同じです。
催告を必要とするのか、無催告解除を認めるのか。
競業避止義務はどこまで課すのか。
秘密保持義務は契約終了後何年間継続させるのか。
これらは「法律上の答え」が決まっているというより、当事者間でどのようなリスク配分をするかという設計の問題です。
だからこそ、AIが複数の考え方を提示すること自体は、ある意味では自然なことなのです。
○実務では「その契約ならでは」の事情が最も重要
契約書を作成するときに最も大切なのは、その契約特有の事情です。
・どのような業界なのか
・どのようなお金の流れなのか
・知的財産権は誰に帰属させるのか
・消費者向けなのか、法人間取引なのか
・将来どのようなトラブルが起こり得るのか
こうした事情によって、採用すべき条文は大きく変わります。
インターネット上のひな形でも、ChatGPTでも、この部分までは完全に把握できません。
そのため、一般論としては正しい回答であっても、その契約には適していないというケースは珍しくありません。
○AIは優秀な「補助者」
私は普段の業務でも生成AIを活用しています。
しかしあくまで調査、校正ではよいですが、文章や
その内容をそのまま採用することはありません。
実際には、
「この条文では将来こういう紛争が起こる。」
「この業界ではこの書き方では運用できない。」
「この取引ならこちらのリスクが大きすぎる。」
といった実務的な観点から、一つひとつ修正を加えていきます。
AIが出力した契約書をそのまま納品することは、実務ではありません。少なくとも現在においては。
○まとめ
ChatGPTで契約書について質問すると、回答が毎回少し違うことがあります。
しかし、それはAIが間違っているというより、契約書という分野自体に複数の考え方や設計方法が存在するからです。
だからこそ、「どれが一般論として正しいか」ではなく、「自分の契約ではどれが最適なのか」を考える必要があります。
AIは非常に便利なツールです。
しかし、契約書は会社や事業を守るための重要なルールです。
最後に判断すべきなのは、AIではなく、その契約内容や業界慣習、法的リスクまで踏まえて検討できる人間です。
AIを上手に使いながら、その先の判断を専門家が担う。
これが、これからの契約書作成における最も現実的で安全な活用方法ではないでしょうか。
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本