「業務委託契約を作ってほしい」
契約書作成の仕事をしていると、非常によくいただくご相談です。
企業間の取引はもちろん、フリーランスへの仕事の依頼、システム開発、コンサルティング、デザイン制作、SNS運用、営業代行など、現在ではさまざまな場面で「業務委託契約」という言葉が使われています。
しかし、ここで一つ知っておいていただきたいことがあります。
実は民法上、「業務委託契約」という名前の独立した典型契約が定められているわけではありません。
では、業務委託契約とは一体何なのでしょうか。
業務委託契約とは?
一般に業務委託契約とは、ある業務を自社や自分で行うのではなく、外部の会社や個人に委託する際に締結する契約をいいます。
例えば、
・ホームページを制作してもらう
・システムを開発してもらう
・SNSを運用してもらう
・コンサルティングを依頼する
・デザインを制作してもらう
・営業活動を代行してもらう
といったケースです。
こうした取引について、実務上「業務委託契約」という名称が広く使われています。
ただし重要なのは、契約書のタイトルが「業務委託契約書」であれば、すべて同じ法的性質になるわけではないということです。
業務委託契約には「請負」と「準委任」がある
業務委託契約の法的性質を考える場合、代表的なのが「請負」と「準委任」です。
簡単にいうと、
請負は「仕事の完成」を目的とする契約
です。
例えば「この仕様のホームページを完成させてください」「このロゴを制作してください」といった契約が典型です。
これに対して準委任は、
一定の業務を適切に遂行することを目的とする契約
です。
例えば、コンサルティング、継続的なアドバイス、一定の管理・運営業務などでは、必ずしも特定の成果を完成させることを約束するわけではありません。
「売上を必ず2倍にする」という結果を約束するのではなく、そのための分析や助言といった業務を適切に行う。
このような契約であれば、準委任として整理されることがあります。
ここを曖昧にすると契約書がおかしくなる
業務委託契約書を作る際に注意したいのが、
「何をしてもらう契約なのか」
という点です。
例えばSNS運用代行契約で、
「Instagramの投稿を月10本制作する」
という部分と、
「アカウント運用について継続的に助言する」
という部分があったとします。
前者には成果物の制作という性格がありますが、後者は継続的な業務遂行という性格が強くなります。
つまり、一つの業務委託契約の中に請負的な業務と準委任的な業務が混在することもあります。
そのため、
「これは業務委託契約だから、この雛形を使えばいい」
という考え方には少し注意が必要です。
同じ「業務委託契約書」というタイトルでも、実際の業務内容によって必要な条項はかなり変わってくるからです。
雇用契約との違いにも注意
もう一つ重要なのが、雇用契約との違いです。
業務委託では、受託者が独立した事業者として業務を行うことが基本となります。
ところが契約書に「業務委託」と書いてあったとしても、実態として会社が勤務時間や勤務場所、仕事の進め方などについて強い指揮命令を行っている場合には、契約書の名称だけで判断されるわけではありません。
場合によっては、労働法上の「労働者」に該当するかどうかが問題となる可能性があります。
「業務委託契約書を作れば雇用ではなくなる」というわけではない。
ここは非常に重要なポイントです。
業務委託契約書には何を書く?
業務内容によって異なりますが、一般的には次のような事項を検討します。
・委託する業務の具体的内容
・契約期間
・報酬額、計算方法、支払時期
・経費の負担
・成果物の納品、検収
・再委託の可否
・秘密保持
・個人情報の取扱い
・著作権その他の知的財産権
・契約解除
・損害賠償
・反社会的勢力の排除
・契約終了後の取扱い
・管轄裁判所
ただし、これらを全部入れればよいというものでもありません。
例えば成果物が存在しない業務なのに、「納品」「検収」「契約不適合」といった条項を機械的に入れてしまうと、実際の取引内容と契約書が噛み合わなくなることがあります。
逆に、制作物があるにもかかわらず著作権の帰属について何も定めていないと、後になって「制作したものを自由に使えるのか」という問題が生じることがあります。
業務委託契約書で一番大切なのは「業務内容」
私が業務委託契約書を作成する際、特に重要だと考えているのが業務内容です。
報酬や契約期間ももちろん大切です。
しかし、
「結局、何をどこまでやれば仕事をしたことになるのか」
が曖昧な契約書は、トラブルになりやすい。
例えば、
「甲の指示に従い、必要な業務を行う」
だけでは、業務の範囲がほとんど分かりません。
依頼する側は「当然これもやってくれると思っていた」。
受ける側は「そこまでは契約に入っていないと思っていた」。
こうした認識のズレが、契約トラブルの原因になります。
契約書はトラブルになったときだけ使うものではありません。
契約する段階で、お互いの認識を合わせるためのものでもあります。
業務委託契約書は「雛形を埋めれば完成」ではない
インターネットを検索すると、業務委託契約書の雛形はたくさん見つかります。
現在では生成AIを使えば、数秒でそれらしい契約書を作ることもできます。
これは非常に便利です。
ただ、業務委託契約で本当に難しいのは文章を書くことではありません。
その取引をどういう法的構造として整理するのか。
ここです。
請負なのか、準委任なのか。
成果物はあるのか。
完成義務を負わせるのか。
途中で契約を終了できるのか。
著作権は誰に帰属するのか。
再委託を認めるのか。
損害が発生した場合、どこまで責任を負うのか。
そして、そもそも実際の業務内容と契約書が一致しているのか。
こうした点を一つずつ整理して、初めてその取引に合った業務委託契約書になっていきます。
まとめ
「業務委託契約」という言葉は非常に広く使われています。
しかし、その中身は一つではありません。
請負としての性質が強いものもあれば、準委任としての性質が強いものもあり、両方の要素が含まれている契約もあります。
だからこそ、
「業務委託契約書が必要だから、業務委託契約書の雛形を探す」
というところから始めるのではなく、
「今回の取引では、誰が、誰に、何を、どこまで依頼するのか」
という実際の取引内容から考えることが大切です。
契約書は、取引の実態を文章に落とし込むものです。
業務委託契約書を作成するときこそ、まず「この契約で何を実現したいのか」を整理してみてください。
南本町行政書士事務所 特定行政書士 西本