そのひな形、いざというとき守ってくれますか?|もらった契約書で痛い目に遭う前に【フリーランス】

そのひな形、いざというとき守ってくれますか?|もらった契約書で痛い目に遭う前に【フリーランス】

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法律・税務・士業全般

契約書はあったのに守ってもらえなかった、という相談は、けっこうあります。
知り合いにもらったひな形に、自分とお客様の名前を入れて、金額を書き換えて交わした。見た目はちゃんとしているし、条文もずらりと並んでいる。それで安心していたら、いざ何かあったときに、肝心のところで効かなかった。よく聞く話です。
理由はだいたい同じで、そのひな形が「自分のために作られたものではない」からです。誰か別の人が、別の仕事のために作ったものを、名前だけ変えて使っている。だから、自分の仕事で本当に起きるトラブルに、ちゃんと対応できていない。
この記事では、もらったひな形のまま直接取引を始めると、どんな場面で守ってもらえないのかを、起こりがちなトラブルに沿って見ていきます。先に知っておけば防げる話なので、使う前に一度、目を通してみてください。

振込予定日になっても、お金が来ない


トラブルでいちばん多いのは、やはりお金がらみです。納品も済んで、請求書も送ったのに、振込予定日を過ぎても入金がない。連絡しても「確認します」と言われたきり、なかなか進まない。
こういうときに頼りたいのが契約書ですが、もらったひな形だと、支払いの期日があいまいにしか書かれていないことが多いんです。いつまでに払うのか、遅れたらどうなるのか、というところまで詰めていない。そうなると、こちらから催促するときの根拠が弱くなって、気まずさを抱えたまま待つことになります。
そして、お金が動かないこの場面で、もうひとつ困ったことが起きていたりします。

お金より先に、作品だけが相手に渡っている


著作権の条文を見てみてください。もらったひな形だと、ここが自分の仕事に合っていないことがよくあります。
たとえば、納品と同時に著作権が相手に移る書き方になっていると、支払いがまだなのに、作品だけはもう相手のものになっている、という状態が起こります。未払いなのに、こちらの手元には何も残っていない。これはかなり不利です。
本来は、報酬を全額受け取ったのと引き換えに権利が移るようにしておけば、払ってもらえないときに作品が自分の側に残るので、交渉の材料になります。違いはほんの一文ですが、もらったひな形は、その一文まで自分のために整えてくれてはいません。

「ちょっと直して」が、いつまでも終わらない


お金以外でもすり減るのが、修正のやり取りです。「ここをもう少し」「やっぱり最初の案も見てみたい」と続いて、一回ずつは小さくても、終わりが見えない。報酬は変わらないのに、気づけば当初の何倍も時間をかけている、ということになります。
ここで契約書を開いても、たいてい助けになりません。もらったひな形には、自分の業務の範囲も、修正の回数や条件も、自分の仕事に合わせては書かれていないからです。それどころか、業務内容のところに前の持ち主の仕事がそのまま残っていて、肝心の自分の仕事の中身が、どこにも書かれていなかったりする。どこまでが契約に含まれて、どこからが追加なのか。その線が引けていないと、際限なく続く「ついでにこれも」を断れません。

終わったあと、すぐ近くで同じ商売を始められた


契約が終わったあとに起きるトラブルもあります。こちらのやり方やお客様を間近で見ていた相手が、終了後に似た商売を始めたり、紹介したお客様とこちらを通さずに直接つながったり、というケースです。
「競業避止の条文があるから大丈夫」と思っていた人も多いのですが、これがなかなか効きません。あの縛りはもともと雇っている従業員に向けたもので、独立した事業者どうしの取引には当てはまりにくいんです。書いてあっても止められず、守られていたつもりだった、ということが起こります。
こういうときに実際に効くのは、同業をまるごと禁止することではなくて、「この取引で知ったお客様を横取りしない」「ノウハウや名前をそのまま真似て使わない」といった、本当に困ることだけを具体的に禁じて、破ったら違約金を払ってもらう、という形です。ただ、もらったひな形に、そこまでの作り込みが入っていることは、まずありません。

いざ争うとき、相手の地元まで行くことになる


もし本当に揉めて、法的な話になったとき。ひな形の終わりのほうに、「東京地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」と書いてあることがあります。前の持ち主に合わせた地名が、そのまま残っているわけです。
自分が東京の人でなければ、争いの場が、縁もゆかりもない遠い場所に固定されていることになります。何かあったときに動きにくい場所が、知らないうちに指定されていた、ということです。直すなら自分の住所地の裁判所にしておくだけなのですが、契約書のいちばん最後にある地味な一行なので、もらったままだと見落とされがちです。

苦手な相手を、止める手立てがない


最後に、契約書に最初から入っていないために守ってもらえない、というパターンもあります。
初対面からタメ口だったり、理由もなく値下げを迫ってきたり、感情的に当たってきたり。フリーランスをしていると、思い当たる相手がいると思います。こういう関係に、もらったひな形は何の備えもしてくれません。前の持ち主は、あなたが何に困るかを知らないので、書きようがないんです。
本当は、こういう相手への線引きを契約書に足しておくことができます。守ってほしいことをルールとして決めて、破られたら、まず伝えて改善を求め、それでも変わらなければ解除して報酬や損害を求める、というところまで備えておく。そうすれば、しんどい相手に一人で耐えなくて済みます。ただ、これはあなたの現場を知っている人が、あなたのために足してはじめて入るものです。

「契約書はあった」が、いちばん危ない


ここまでの話に共通しているのは、どれも契約書があったのに守ってもらえなかった、という点です。
実はこれがいちばん厄介で、契約書が何もない人は「危ないかもしれない」と警戒します。でも、もらったひな形をそのまま使った人は、契約書があるという理由で安心しきってしまう。だから、いざというときに守ってもらえなかったときの落差が、よけいにこたえます。
もらったひな形は、他人の服を借りて、サイズも確かめずに着るのに少し似ています。羽織った瞬間はそれなりに見えても、いざ動こうとすると合っていない。そして合っていないことに気づくのは、たいてい何かあったあとです。
防ぐ方法は、難しくありません。事故が起きる前に、その契約書を自分の仕事に合わせて整え直しておくこと。お金の守り方、作品の守り方、終わったあとの取り決め、苦手な相手への線引き。そこまで自分用に直しておけば、契約書は、いざというときにちゃんと自分の側に立ってくれます。「契約書はあった」で終わらせないことが、直接取引で自分を守る出発点になります。



ー この記事について ー
私たちアトラス行政書士法人には、行政書士法にもとづく守秘義務があり、実際のご相談・ご依頼の内容を公開することはありません。本記事は、契約書の作成でよく扱う論点を組み合わせた一般的な解説であり、特定の案件や依頼者を描いたものではありません。契約書の書き方や最適な進め方は、事業の内容や個別の事情によって変わります。実際の作成にあたっては、個別の確認をおすすめします。



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