カレーの匂いで満たされた、忘れられない一日
元プロレスラー・武藤敬司さん。
今ではバラエティ番組にも引っ張りだこですが、私にとっては小学生の頃からずっと憧れ続けてきたスターです。
そんな武藤さんの自伝を、漫画形式で一冊まるごと作る——。
編集者としてこれほど幸せな仕事はありませんでした。
取材で何度もお会いしたとき、私が感じたのは「テレビのままの人」ということ。
裏表がなく、豪快だけれど繊細で、話すたびにプロレスへの深い愛情が伝わってきました。
そして、いよいよ本が完成。
私たちは「出版記念サイン本お渡し会」を企画しました。
会場は神保町の名書店・書泉グランデ。プロレスファンにも馴染みの深い、あのイベントスペースです。
限定チケットは即日完売。
司会はプロレスに詳しい私が務めることになり、胸が高鳴りっぱなしでした。
しかし……
このあと、私の“ある判断ミス”が、会場をカレーの香りで満たしてしまうことになります。
神保町といえばカレー…その思い込みが悲劇(?)を呼んだ
イベント当日は、午後の早い時間からスタート。
「武藤さんに神保町のカレーを味わってほしい」
そう思った私は、勝手に張り切ってしまいました。
神保町は言わずと知れたカレーの激戦区。
長年、御茶ノ水の主婦の友社に勤務していた私は、周囲の飲食事情にはそれなりに詳しいつもりでした。
その中でも、私のお気に入りは カレー専門店『エチオピア』。
スパイスの香りと深いコク、クセになる味わい。
「これは絶対に喜んでもらえる!」——そう信じて疑わなかったのです。
スタッフ人数分を事前に注文し、ピックアップして会場へ。
控室で「先にご飯を」という流れになり、私を含むスタッフ全員がカレーのフタを開けた瞬間。
——ブワァァァァッ。
スパイス香るカレーの匂いが、控室どころか会場全体へ一気に広がっていきました。
仕切りはあるものの、完全な防音・防臭ではありません。
私は冷や汗が止まりませんでした。
そのとき、武藤さんが笑いながら私の方を向いて一言。
「おいおい、会場ぜんぶカレーの匂いになってねぇか?」
まったくその通りでした。
(穴があったら入りたいとは、このことです。)
しかし、武藤さんはまったく気にした様子もなく、むしろ「まぁいっか、面白ぇな!」といった感じで受け止めてくれました。
出版イベントは“ライブ”だからこそ価値が生まれる
カレーの匂いはしばらく残っていました。
でも、イベントは想像以上に盛り上がりました。
ファンの方々がSNSで
「会場がカレーの匂いで笑った」
「むしろレアな空気を味わえた」
「武藤さん、やっぱ最高」
と、次々に投稿してくれたのです。
——ここで私は改めて気づきました。
出版記念イベントの価値は 「本を売ること」だけではない のだと。
思いがけないハプニング
その場でしか味わえない空気
著者と読者が直接触れ合う時間
SNSでの拡散効果
これらは、どれもオンラインでは完全には再現できません。
出版デビューの人でも、著名人でも、関係ありません。
イベントは“その人の物語”を体験できる場 になるのです。
たとえカレーの匂いに包まれてしまっても(笑)、
それすらも “イベントならではの価値” として読者の記憶に残る。
出版の現場に長くいる私にとっても、この日の出来事は忘れられません。
あなたも出版したら、迷わずイベントを開いてください
最近は紙の本だけでなく、電子書籍でも出版記念イベントを開く人が増えています。
もしあなたがいつか本を出すなら、ぜひ迷わずイベントを企画してください。
大規模である必要はありません。
少人数でもオンラインでも構いません。
ただひとつ言えるのは、
「イベントをやった人」と「やらなかった人」では、その後の広がりがまったく違う
ということ。
リアルな場でファンが生まれ、SNSで拡散され、口コミが育ちます。
それは著者人生を長く支える“資産”になります。
私のカレー事件ですら、いまだに笑い話として語り継がれています。
あなた自身も、あなたの読者も忘れられない体験になります。