50代になったら ~ライフキャリアデザインの視点から~

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コラム
今、50代の社員向けにライフキャリアデザインのセミナーを企画立案しているところです。丁度、キャリアコンサルタントの更新講習でピッタリのテーマを受講できたことや、自分がつい数日前に51歳になったこと、定年退職の人のアイデンティティを考察した論文に巡り合わせたことなど、私自身の思考がだんだんと耕されてきています。

 50代になると、会社勤めの方なら「定年」が視野に入り、定年後のライフキャリアを考え始めるようになると思います。「定年」は本人にとって予測可能なことであり、そこで何が起こりうるのかを十分吟味することで、ある程度のレディネス(構え)を獲得することも可能です。できる準備は早いに越したことは無い…と思います。私も会社勤めの身ですが、今の段階では定年において自分の身に何が起こるか、はっきり言ってリアリティがありません。そんな自分にちょっとばかりの危機感や不安も無いわけではありません。ですので、一緒に考えてゆきましょう。

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 キャリアの視点からは、本人の「アイデンティティ」が大きく揺さぶられ、変化するということが言えます。アイデンティティとは日本語に訳しにくい言葉ですが、自己同一性と言います。他者や環境に対して、自分が何者であるかが自己定義され統合された「個人としての自分」のことです。50代においては、何かを喪失することによって、アイデンティティが拡散し、苦悩や混乱の時を乗り越えなければならない課題が迫ってきます。「定年」は、いわば職業人としての自分、社会的役割を持った自分をいったん喪失することで、アイデンティティ拡散の危機がやってくる、将来確定しているイベントなのです。

 ファイナンスの視点からは、「定年」によって退職給付を受けることと、再雇用等の待遇(収入)の変化、年金の受給権の行使が可能になるという点で、キャッシュフローの一時的な増大はあるものの、定年後から職業人生の引退時期にかけたマネープランと引退後の生活原資について見当をつけてゆかなければなりません。晩婚化や第一子出産年齢の高齢化(母親30.7歳、父親32.8歳、令和元年統計)から推察するに、50代~60代のライフステージにおいてもなお、教育費や住居費、親の介護など、大きな出費を要する状況が次々に発生し、のしかかってくるのではないかと思います。「退職金もらって悠々自適のセカンドライフ♪」といった一昔前の引退像はもはや崩壊しているのではないでしょうか。

 以上の点から、50代に入った方には相当な心理的負荷がかかることが予想されます。そして、現在の50代の世代は団塊ジュニアとバブル期入社組ですが、その下の氷河期世代の労働力が不足しているために、仕事上、慢性的に大きな負荷を抱えて日々を過ごしているとも想像されます。そうなりますと、「定年」を始めとした、ご自身の50代の危機について十分に時間をとって考えている方、備えている方は中々いないでしょう。そのような状況でアイデンティティ拡散の危機は必ず訪れます。アイデンティティ拡散の危機において、メンタル不調に陥る方も少なくはありません。まずはそのような危機が自分にはやってくるのだ、ということを知るところから始めましょう。

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 では、今からやっておけることは何か、ということになりますが、最初に言っておきますと、アイデンティティ拡散による苦悩と混乱を避けることはまず不可能と思います。「定年」という確定した転機が訪れるということはそういうことなのです。ですから、アイデンティティ拡散を受け止めるレディネスを自分の中につくっておくことが大切になります。

 まずキャリアの視点からは、「定年」に際して特に職業キャリアの点から、自分がこれまで仕事で大事にしてきたこと、やりたかったこと、できたこと、できなかったこと、あきらめたこと、を振り返り、定年でもし今の役割を失ったらどう思うのか、どのように折り合いをつけるのか、を考え、自分が仕事の上でなおも達成したいことやチャレンジしたいことを展望し、「自分は何者か」を見つめ直しすることをおすすめします。可能であれば、休日に、静かな場所で一人になり半日くらいは時間をとってゆったりとぼんやりと考えるのがよいでしょう。そして、考えたことは落書きくらいの気持ちでよいので、白い紙に書いて残しておきます。

 次に、ファイナンスの視点からは、現在のキャッシュフローの把握と、白い紙に横に一本左から右に時間の矢印を引いて、定年の前と後にそれぞれ控えている、大きな支出をともなうイベントをまず書き出しておきましょう。そのうえで、「自分の稼ぐ力(退職給付・年金含む)」「貯蓄」「お金のはたらき(投資など)」「平常の生活費の支出」「相続(見通し)」について時系列に書き足します。そうすると、簡易版ではありますが、どの時点で資金面でのピンチが訪れるかが見えるキャッシュフロー図になるはずです。これは、可能であれば配偶者の方と白紙を囲んでお絵描き感覚でわいわいやってみるのがおすすめです。その過程で、キャリアの視点から見えてきた展望を語るのもよいことです。家族それぞれの将来の夢も書き足してもいいと思います。

 このような作業を通じて、アイデンティティ拡散の危機へのレディネスが備わってくるはずです。また、定年後の家族との望ましい関係や、会社に留まらない社会とのかかわりの具体的なニーズを見いだす可能性も高まります。ライフキャリアデザインにおいて、自分の役割を主体的に再構成し、一度は拡散するアイデンティティの危機を乗り越え、新たな自分として統合してゆくことをイメージしてください。

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 50代の定年期におけるアイデンティティの危機を、アイデンティティ・ペグ(拠り所)の喪失や相互作用の喪失がもたらす「社会的死」「家庭内的死」などの関係の死と捉える研究があります。(西田 2010)

 私は、「定年」という職業キャリアにあらかじめ組み込まれた「いちイベント」でそのような(擬似的な)死を迎え、そこから立ち直れなくなってしまうのはあんまりだと思います。マルチステージの時代と言われる人生100年時代は、「定年」すらも吞み込んで、もっともっと個人1人ひとりが一生涯を通じて活き活きできる時代であってほしいと心から願っています。

 ですから、参加者の方がアイデンティティ拡散をしっかりと自分で受け止めて、新たな自分と出会ってゆけるように後押しするセミナーを企画立案できるよう、精進してまいります。

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 今回は、50代になったら、についてお話しました。私は会社勤めとの複業でライフキャリアデザインカウンセラーとして個人や世帯の職業生活設計や資産設計のお手伝いを志しております。保持資格としては国家資格キャリアコンサルタントとAFP(日本FP協会会員)をコアスキルとして、これまでの会社生活や人生経験で学んできたことを活かして会社内や地域社会に向けた価値創造につなげてまいります。ご関心を持っていただいた方、ご相談事がある方は、どうぞお声がけください。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




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