先日、40数年以上前に書かれた組織開発に関する書物に触れる機会を持ちました。複数人で書物の内容について対話的に分かち合う経験の中で、人と人との関係において「ほんもの(authentic)」であること、について話題になり、私自身そのことが強く印象に残りまし
その記述は、南山短期大学で教鞭をとられていた星野欣生先生が書かれた論考で、「ともにあること(WITH‐ness)」というタイトルです。もともとは教師・学生関係について論じられたものですが、そのまま企業での上司・部下関係やファシリテーターとメンバーとの関係、もっと言えば日常生活での対人関係にもあてはまることだと、星野先生は指摘しています。
その論考では、「WITH-ness」について、集団の発達の研究者であるJ.Gibbの言として、「私は、私がwith-nessであるときに成長する。私は、私が他の人と深くwithであるときに、その人の成長に貢献することができる。人の成長に最も貢献できるのは、相互依存の関係である。」と引用しています。
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さらに、「WITH-ness」の要件として、J.Gibbはいくつかの項目を挙げていますが、星野先生はその中から、下記の7つに着目して取り上げていますので、紹介します。
1.人間性(humanity,being fully human)
精神・肉体を持った1個の人間として、
その人が、そのままそこに存在していること
2.現実性(reality)
いまを、いまの生きざまを、
お互いにわかちあえること
3.相互関係性(being interactive)
少なくとも相互に関係があり、
その質は相互依存関係であること
4.開放性(openness)
相手に対して心理的、物理的に
開かれた状態にあること
5.感受性(sensitivity)
相手がいま心理的、肉体的に
どのような状況にあるかを
あるがままに感じ取れること
6.親密性(intimacy)
肉体的、心理的に近くに存在すること
7.楽天性(being optimistic)
状況に対して悲観的にならないこと
そして、この7つを通して結論的に言えることは、人は、人と人との関係において、いつも「ほんもの(authentic)」であらねばならない、「ほんもの」であることは、「ともにあること(WITH-ness)」の根底にあるものであり、またその凡てである。「ほんもの」であるということは、その人がそれなりの歴史を背負い、精神、肉体、感情、苦悩、喜び…をもった一人の生きた人間存在として、いまここにそのままあることであり、いつでもそれらが開かれている状態あるいは開かれる用意がある状態にあることである、(中略)それは相互に深い信頼関係が形成されていくことを意味している。
(以上、星野 1982.10から筆者編集)
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引用が長くなりましたが、この記述に通底していることとして、「関係性の成り立ちが人間中心のものであること」を私は強く感じ、今の世の中で起こっている様々な関係性の不具合に思いをやりました。政治の場(例えば都知事選前後の様々なコンフリクトの様子)、消費生活の場(例えばカスタマーハラスメントの拡大)、教育の場(例えば結論ありきの主体的・対話的学び)、仕事の場(例えばサイロ化した組織風土)、など。人が関係的存在であることに対する努力を損なうような場面が目についてしまうのは私の考えすぎでしょうか?
私自身、「ほんもの」であることに常には自信を持てておりません。しかし、私自身が一人の人間として人や集団に対して何かの役割を担う時において、「ほんもの」であろうと努力することは非常に重要なことであり、「ほんもの」であろうとしている時にこそ、相手を「一人の生きた人間存在」として受け止めることができると思うのです。そして相手が私の「ほんもの」に触れてくれることで、相手も開かれた存在として私に向き合ってくれる可能性が生まれるのだと思いますし、私自身が開かれた存在であることを試みた結果として、「ともにあること」を実体験したことも少なくありません。
この星野先生の論考を囲んで対話をした際に、「ほんもの」とは何か、についてお互いが言葉を交わす中で、いまここに存在することをありのままに開示し、人と人が出会ってゆくことを目の当たりにする場面がありました。そんな時、私自身「ほんものであることをあきらめてはいけないのだな」と心から思いますし、星野先生が挙げられた7つの要件(資質、とも言っていい)を私の中に涵養しようと意欲が湧いてきました。
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私はライフキャリアデザインカウンセラーという一人の存在として誰かに向き合うことがほぼ日常化しつつあります。組織開発の実践者としても、会社人としても、家庭人としても、学習者としても、はたまた余暇人としても、ライフキャリアデザインは私の「ほんもの」を支える大切な要素の一つになってきており、その人間存在を相手に向けて発揮するときには自分自身が活性化していることを感じます。
みなさんはいかがでしょうか。自分という存在をみなさん自身がどのように捉えていて、相手とのいまここの関係において「ほんもの」であるでしょうか。
ちなみに、星野先生は以下のような読みやすい本を出されており、「ほんもの」を探求する際の手がかりとなるかもしれません。ぜひ手に取ってみてください。
人間関係トレーニング 第2版: 私を育てる教育への人間学的アプローチ
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今回は、「ほんもの」であること、とは、についてお話しました。私は会社勤めとの複業でライフキャリアデザインカウンセラーとして個人や世帯の職業生活設計や資産設計のお手伝いを志しております。保持資格としては国家資格キャリアコンサルタントとAFP(日本FP協会会員)をコアスキルとして、これまでの会社生活や人生経験で学んできたことを活かして会社内や地域社会に向けた価値創造につなげてまいります。ご関心を持っていただいた方、ご相談事がある方は、どうぞお声がけください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。