Busiest men find the most time.(最も忙しい人が一番時間がある。)
It's a long lane that has no turning.(曲がり角の無い道は無い。)
「訣別、なんぞ多情。村塾まさに隆起すべし。」(吉田松陰)
社会に出れば嫌でも地に足がついた考えや行動が要求されます。したがって、大学時代ぐらい理想や志を大きく羽ばたかせたいところです。もちろん、そうはいって青臭い理想を掲げる、無責任で過激な学生運動に走っても意味がありませんから、現実的なセンスも同時に磨いておくべきです。この両者が共に豊かで、なおかつバランスが取れている人が人間的魅力にあふれているものなのです。
ここでどうしても知らなければならないのが、マズローの人間性心理学の内容です。マズローはフロイトに始まる精神分析学・深層心理学、ワトソンとスキナーに始まる行動主義心理学に対して、人間性心理学を「第3の心理学」と名づけました(さらに「第4の心理学」と位置付けられるトランスパーソナル心理学の実質的始まりとなっていることにも注目しておきましょう)。神経症・精神病患者の治療を土台にして発達し、異常から正常へ戻すことを主眼とする(つまり、マイナス→0を目指す心理学)精神分析学・深層心理学でもなく、本能的動物の延長上に人間をとらえる行動主義心理学でもなく、健全な人間の個的成長と「自己実現」にスポットを当てたのです(つまり、0→100を目指す心理学)。この中核理論が「欲求の階層構造論」であり、これはその現実的妥当性とあいまって、強い衝撃を社会に与えました。
(1)生理的欲求=最も基本的で低次の欲求。これが満たされれば、次の「安定・安全への欲求」が出てくる。
(2)安定・安全への欲求=これが満たされれば、次の「愛と所属の欲求」が出てくる。
(3)愛と所属の欲求=特に親に愛されること、家族に属していて、自分の居場所があることへの欲求。これが満たされれば、次の「承認の欲求」が出てくる。
(4)承認の欲求=自分に自信を持ちたい、人からも認められたいという欲求。これが満たされれば、次の「自己実現欲求」が出てくる。
(5)自己実現の欲求=他の人間とは取り替えのきかない、自分独自の可能性を精一杯伸ばしていきたいという欲求。「詩人は詩を作らなければならないし、音楽家は音楽を奏でなければならない。」
こうした個々の段階の必要性を下から満たしていき、自分自身の内側にある可能性を十分に開発してこそ、本来の自分が開花するという考え方をマズローは打ち出したのです。そして、成長段階において、これらの基本的な欲求が満たされないままでいると、健全な成長が阻害される要因になると指摘しました。さらにマズローは座禅や瞑想などの宗教体験に見られるような「至高体験」に注目し、「自己実現欲求」が満たされた後には「自己超越欲求」が芽生えることに気づき、トランスパーソナル(超個的)心理学への道を開いたのです(キェルケゴールの「実存の3段階」で言えば、生理的欲求から承認の欲求までは「美的実存」の段階、自己実現欲求は「倫理的実存」の段階、自己超越欲求は「宗教的実存」の段階と言えるかもしれません)。このトランスパーソナル心理学の流れの中に、最近注目を浴びているエニアグラムのタイプ論(性格類型論としてはクレッチマーやユングが有名ですが、エニアグラムの洞察はそれらをはるかにしのぎます)があります。イスラーム教神秘主義(スーフィズム)の修行体験の中で、個々の人のタイプに応じた指導の必要性が実感され、それがエニアグラムの淵源となっていくのですが、ボリビアのオスカー・イチャーゾによってアメリカに伝えられるや、イエズス会の心理学的伝統や現代心理学によって洗練・再編成され、人間理解・洞察のための有力なツールとなっています。これによって、従来、難関とされた中期大乗仏教・唯識思想(これまた人間理解の驚くべき含蓄があります)の理解が分かり易くなってきました。日本でも学会が出来たので、多少でもかじっておくと有益でしょう。
【ポイント】
①「志」を持たない人は成長も止まります。
「志」は人を成長させ、ひいては国家・社会を揺り動かし、歴史を変えることすらあるのです。幕末の志士達に多大な影響を与えた長州の勤王僧・月性(げっしょう)の有名な詩を見てみましょう(第2句は村松文三が改作)。
男子立志出郷関 男子志を立てて郷関を出ず
学若不成死不還 学若(も)し成らずんば死すとも還(かえ)らず
埋骨何期墳墓地 骨を埋めるに何ぞ期せん、墳墓の地
人間到処有青山 人間(じんかん)到るところ青山有り
②あらゆる成功法に共通するのは「潜在意識の活用」。
どんな成功法でも「潜在意識の活用」を説いており、全ては「意識」することから始まるとしています。ここで重要なのはポジティブ・シンキングであり、プラス志向です。これは具体的には「マイナス言葉を使わずプラス言葉を使う」「どんな状況でもプラス要因を見出す」ということになります。例えば、「自分はつらくない」「自分は負けない」という否定語を繰り返すと、「つらい」「負ける」というマイナス・イメージが先に入り、それに立ち向かうという悲壮感が植え付けられてしまいます。そうではなくて、「自分は楽しい」「自分は勝つ」というプラス・イメージを植え付けるべきなのです。これは「瞑想(メディテーション)の基本」でもあります。また、どんな逆境の中でもそれをプラスに転じて捉えることができるかどうか、「発想の転換」ができるかどうかは、心の成長の大きな分かれ目です。これはどうしても身につけておかないと、常に打撃を受け続け、不幸を数えて生きていくことにもなりかねません。
③逆境の対処の仕方が人物評価の決め手
人の値打ちは成功という結果ではなく、むしろ逆境の只中で決まります。誰でもお金も人間関係も仕事も充実していれば、落ち込むこともなければ、何でもできるでしょう。こうした状況下ではどんな人でもできて当然なのです。ところが、逆にお金も無い、人間関係も行き詰まった、仕事でも壁にぶつかった、というような逆境の中では、どんなに優秀な人でも落ち込んでしまいがちです。ところがここで人の真価が分かれてくるのです。そのため、財界の成功者の中には「大成するには浪人すること、大病をすること、くさいメシを食うこと、この3つが必要だ」とまで言い切った人すらいます。ビジネスの世界では左遷を通過した人を重く見ることがありますが、これも同様の理由です。したがって、逆境の只中で「今こそ自分の真価を見せる時だ。どんなことがあってもここから這い上がって見せるぞ」と思うことができれば、実は半分以上、解決したも同然なのです。
④マネジメント能力が現実的成功を分ける。
理想は現実化されなければ「絵に描いたもち」で、意味がありません。そして、現実的な成功のために欠かせないのがマネジメント能力です。これは何も会社経営の能力に限らないことであって、セルフ・マネジメント、タイム・マネジメントなど全てに通じることです。よく近代資本主義研究で取り上げられるロビンソン・クルーソーは、まさしくこのマネジメント能力によって無人島で生き延びたばかりか、ロビンソン王国を経営・発展させたわけです。これはどの分野の人でも訓練されなければなりません(よく「芸術家にもマネジメント能力が必要である」と言われます)。