「うちのメンバー、どうもやる気が感じられないんだよな…」
「もっと主体的に動いてくれたら、どれだけ助かるか…」
みなさんは、マネージャーとして、そんな悩みを抱えたことはありませんか?
チーム全体のパフォーマンスを上げたい。
メンバー一人ひとりの力をもっと引き出したい。
そう思いながらも、具体的にどう働きかければいいのか、戸惑うことも多いのではないでしょうか。
本記事では、そうした悩みを持つあなたのために、実践的なヒントをご紹介します。取り上げるのは、心理学の分野で長年研究されてきた「マズローの欲求段階説」と「自己決定理論」という2つの代表的なモチベーション理論です。
理論を知ることは、決して難しくはありません。それぞれのメンバーが今、何を求めているのか、何が彼らの内発的なやる気を引き出すのかを理解することで、あなたに合った最適なアプローチが見つかるはずです。
マズローの欲求段階説:メンバーの「今」を知る羅針盤
マズローの欲求段階説は、人間が持つ普遍的な欲求を5つの階層に分けて示した理論です。この考え方を理解することで、チームメンバーが今どの段階の欲求を重視しているのかを把握でき、彼らの状態に合わせたモチベーション施策を打つことが可能になります。
効果的なマネジメントの第一歩は、個人の行動原理を理解することにあります。
「どうしてあのメンバーはやる気を見せないのか?」
「せっかくの施策がなぜ響かないのか?」
こうした疑問の背景には、メンバーそれぞれが抱える欲求の違いがあるのかもしれません。マズローの理論は、そうした「なぜ」を読み解くための羅針盤となってくれるはずです。
この章では、マズローの欲求段階説の基本的な考え方から、実際のチームマネジメントにどう応用していくかまでを、わかりやすく解説していきます。
理論の解説
マズローの欲求段階説は、人間の欲求を5つの段階に分けて説明する心理学理論です。これはまるでピラミッドのように階層になっており、最も土台にある「生理的欲求」から始まり、一段ずつ高次の欲求へと移っていくと考えられています。
具体的には、生命維持に必要な「生理的欲求」(睡眠、食事など)が満たされると、次に身の安全や安定を求める「安全の欲求」(雇用、健康など)が現れます。
これらが満たされると、人とのつながりや集団への帰属を求める「社会的欲求」(友情、愛情、チームへの所属など)が顔を出します。
さらに満たされると、他者からの承認や尊敬、自己評価の向上を求める「承認欲求」(昇進、表彰、専門性の獲得など)が芽生えます。
そして、これらすべての欲求が満たされて初めて、自身の可能性を最大限に引き出し、理想の自分を追求しようとする「自己実現欲求」(創造性、問題解決、個人の成長など)へと到達するとされています。
職場で例えるなら、「生活のため」という基本的な欲求からキャリアをスタートさせ、やがて安定した地位や収入を求め、チームの一員として認められたいと願うようになります。
さらに経験を積むと、「もっと難しい仕事に挑戦したい」「自分のスキルを磨いて、より大きな成果を出したい」といった高次の欲求へと自然に移行していく様子をイメージすると分かりやすいでしょう。
マネジメントへの応用
マズローの欲求段階説をマネジメントに活かすには、まずあなたのチームメンバーが今、どの段階の欲求を満たそうとしているのかを見極めることが重要です。
メンバーの「今」を知るための視点と質問
STEP1 生理的欲求
メンバーは十分な休息を取れていますか?
過度な残業や休日出勤が常態化し、心身の健康を損ねていませんか?
STEP2 安全の欲求
メンバーは安心して仕事に取り組めていますか?
雇用の安定性や会社の将来性について不安を抱いていませんか?
ハラスメントなど、職場環境に脅威を感じる要素はありませんか?
STEP3 社会的欲求
チーム内に孤立しているメンバーはいませんか?
気軽に相談できる人間関係が築けていますか?
チームの一員として、貢献できていると感じていますか?
STEP4 承認欲求
彼らの努力や成果は適切に評価され、認められていますか?
責任ある仕事を任せ、成長の機会を提供できていますか?
STEP5 自己実現欲求
メンバーは自身の能力を最大限に発揮できる環境にいますか?
新しい挑戦や学びの機会を提供できていますか?
これらの質問を通じて、メンバーが次に満たしたい欲求は何かを考えましょう。例えば、基本的な生理的欲求や安全の欲求が満たされていない状況で、いくら「もっと主体的に動け」「自己成長しろ」と伝えても、メンバーの心には響きません。
まずは土台となる欲求が満たされているかを確認し、その上で高次の欲求を引き出すアプローチを検討することが、効果的なモチベーションマネジメントの重要ポイントとなります。
自己決定理論:内発的な「やる気」を引き出す3つの心理的欲求
「言われたことはやるけれど、それ以上のことはしようとしない」
「どうすれば、もっと主体的に動いてくれるのだろう」
多くのマネージャーが直面するこのような悩みに対して、自己決定理論は大きなヒントを与えてくれます。
この理論は、人間がもともと持っている「内側から湧き上がるやる気」、いわゆる〈内発的動機づけ〉に注目しています。報酬や罰といった外部の働きかけによって一時的に行動を引き出す〈外発的動機づけ〉とは異なり、自己決定理論では、人が自ら「やりたい」と感じる気持ちをどう引き出し、育てるかに焦点を当てているのです。
この章では、内発的なモチベーションを育むために欠かせない「3つの心理的欲求」について詳しくご紹介します。
理論の解説
自己決定理論は、人間が生まれつき持っている3つの基本的な心理的欲求が満たされることで、内発的なモチベーション(「やりたい」という自らの意思に基づくやる気)が高まると提唱しています。外からの報酬や評価がなくても、人が自ら進んで行動する原動力は、これらの欲求が満たされることにあると考えられています。
その3つの欲求とは、以下の通りです。
自律性(Autonomy)
「自分で物事を決めたい」「自分の意思で行動したい」という欲求です。強制されたり、マイクロマネジメントされたりする状況では、人はやる気を失いがちです。自分で選択し、行動をコントロールしている感覚が、モチベーションを高めます。
有能感(Competence)
「自分にはできる」「役に立てる」「成長したい」という欲求です。課題をクリアしたり、スキルを習得したりすることで、自身の能力が向上していると感じる時に満たされます。これは、単に成功することだけでなく、挑戦し、学び、成長するプロセスそのものからも得られます。
関係性(Relatedness)
「誰かと繋がりを感じたい」「認められたい」「貢献したい」という欲求です。所属する集団の中で、他者と良好な関係を築き、支え合ったり、認め合ったりすることで満たされます。チームの一員として貢献している実感や、周囲との一体感がモチベーションに繋がります。
これらの欲求が満たされる環境では、人は自らの意思で目標を設定し、積極的に行動するようになります。
マネジメントへの応用
自己決定理論をチームマネジメントに活かすには、自律性、有能感、関係性という3つの心理的欲求を意図的に満たすような環境を整えることが重要です。
自律性を育む
メンバーに適切な裁量権を与えましょう。「どうすれば達成できるか」を彼ら自身に考えさせ、意思決定のプロセスに巻き込むことで、「やらされ感」ではなく「自分で決めた」という当事者意識が生まれます。
具体的な指示だけでなく、目的や背景を丁寧に伝え、選択肢を提供することも有効です。
有能感を高める
メンバーの小さな成功を見逃さず、具体的なフィードバックで彼らの成長を促しましょう。挑戦的ながらも達成可能な目標を設定し、成功体験を積ませる工夫が必要です。
新しいスキル習得の機会を提供したり、得意な分野でチームに貢献できる場を設けたりすることも、有能感の向上に繋がります。
関係性を深める
チームの一員としての帰属感を高めるために、日頃からのコミュニケーションを密にしましょう。定期的な1on1ミーティングや、カジュアルな雑談の時間を設けることで、心理的安全性を確保し、メンバーが安心して意見を言える雰囲気を作ります。
チームビルディング活動や、互いの成功を称え合う文化を醸成することも、良好な関係性構築に役立ちます。
【サービス紹介】社員の「モチベーション」を可視化するアンケート調査サービス
ここまで、モチベーションに関する2つの主要な理論、マズローの欲求段階説と自己決定理論について解説してきました。
これらの理論を、マネジメントで実践的に活用するためには、まず現状を正確に把握することが大切です。そこで、ご紹介したいのが、当社が提供する「心理学に基づくモチベーションおよび向上心のチーム分析」サービスです。
本サービスは、マズローの欲求段階説と自己決定理論を深く活用し、社員一人ひとりのモチベーション状態を詳細に可視化するアンケート調査サービスです。
ここでは、本サービスの調査報告書について、その内容をご紹介します。
1. 「モチベーション」および「向上心」の全体傾向
本サービスでは、まず社員全体の「仕事へのモチベーション」と「仕事への向上心」の傾向を数値で示します。
例えば、上記の事例では「モチベーション」もかなり高めですが、「向上心」はそれ以上に高いという結果が出ています。ここから読み取れるのは、多くの社員が現在の仕事に対して一定の意欲を持っていることに加え、「もっと成長したい」「より良い成果を出したい」という前向きな気持ちを強く持っているということです。
これはとても良い兆候であり、現状で適切な施策を講じれば、社員の持つ高い向上心を原動力として、さらなるモチベーションアップとパフォーマンス向上を期待できる状態にあることを示唆しています。
2. 「モチベーション」の状況
この項目では、社員の「モチベーション」をより深く理解するために、その構成要素を「成長マインド(自己の成長やスキルの向上への意欲)」「承認マインド(他者からの評価や認められたい欲求)」「連帯マインド(チームや組織への貢献、一体感への意欲)」の3つの側面から分析します。
上記の事例では、全体傾向として「連帯マインド」が42.0%と最も高く、チームとのつながりがモチベーションの原動力となっている一方で、「承認マインド」は26.1%と低く、報酬や評価による動機づけは相対的に効果が弱いと読み取れます。
これは、単に金銭的な報酬や役職といった具体的な評価が、必ずしも社員のモチベーションに直結しにくい状況であり、それよりもチームの一員としての貢献実感や、仲間との一体感が高いモチベーションの源泉となっている可能性が考えられます。
属性ごとの傾向として、勤続年数別にモチベーションを分析すると、興味深い傾向が見られます。
例えば、上記の事例では「勤続3年以下の社員」のモチベーションが比較的低い一方、「勤続11年以上の社員」は高いといった結果が出ています。これは、若手が職場への定着や評価の実感を持ちにくい一方で、長期勤務者は帰属意識や役割認識が強まっている可能性を示しています。
3. 「向上動機」の状況
この項目では、社員が「何をモチベーションに向上していきたいか」という「向上動機」を、「成長マインド(自己の能力向上やスキル習得への意欲)」「承認マインド(成果を認められたい、貢献したいという欲求)」「連帯マインド(チームや組織の一員として目標達成に貢献したい欲求)」という3つの側面から分析します。
例えば、上記の事例では全体傾向として「連帯感」や「成功体験」が向上動機として高く表れる一方、「自由裁量」を求める割合が比較的低いという結果が見られます。
これは、多くの社員が漠然とした裁量権よりも、チームとして目標を達成する喜びや、具体的な成功体験を通じて成長したいと願っていることを示唆しています。また、責任を負うリスクを避け、明確なスキル習得のサポートや具体的な指示を求めている層が多いとも考えられます。
属性ごとに向上動機を分析した結果、成果重視の傾向が強い営業部門よりも、管理部門の方が「成功体験」をより強く求めていることがわかります。管理部門では、明確な達成感や適切な評価プロセスが、日々の業務への前向きな姿勢や成長意欲を支える重要な要素となっていると分析できます。
また、年代別に見ると、40代が「連帯感」を重視する傾向が際立っていました。これに対して、20〜30代や50代以上の層では、連帯感はあまり向上心に影響を与えていないとする回答が多数を占めました。
このように、部門や世代ごとにモチベーションを高める要因には明確な違いがあり、それぞれに応じた支援やアプローチの工夫が必要であることがわかります。
4. 緊急課題
本項目では、各設問への回答比率を詳細に分析することで、チームや組織において特に早急な対策が求められる緊急課題を浮き彫りにします。
上記のグラフを読み解く際のポイントは、「とてもよくあてはまる(青)」と「あてはまる(赤)」の合計値に注目することです。この合計値を見ることで、社員がどの項目に強く共感しているかが一目で把握できます。
今回の調査では、「責任を果たせている」「チームが協力できている」「人間関係が良好である」といった項目で高い合計値が示されました。これらは、社員のモチベーションを支える主要な要素であると考えられます。
一方で、「適切な助言を受けられていない」「裁量権がない」と感じている社員も一定数存在しており、こうした点がモチベーションを阻害する要因になっていることも明らかになりました。ここから、サポート体制の見直しや、業務上の自由度に対する配慮が、今後の改善につながると考えられます。
この調査では、「連帯感」や「成功体験」を重視する社員の割合が高い一方で、「自由裁量」を強く求める人は比較的少ないという傾向が明らかになりました。
これは、多くの社員がチームの一体感や達成感をモチベーションの源としている一方で、個人の判断による行動や、それに伴う責任には慎重な姿勢を持っていることを示しています。
実際には、「創意工夫できる裁量権があればうれしい」と感じている人はとても多いですが、その裏にある失敗のリスクや責任の重さに対して不安を抱いているケースが多いと考えられます。
したがって、ただ「自由に挑戦できる環境」を用意するだけでは不十分で、社員が安心して主体性を発揮できるよう、明確なスキル習得のサポートや、段階的に成長できる仕組みを整えることが重要と考えられます。
5. タイプ分類
本サービスでは、社員の「モチベーション」と「向上動機」の回答を組み合わせることで、チーム内に存在する多様な志向性を9つのタイプに分類します。これにより、個々の社員がどのような「やる気」の源泉を持ち、何を求めて成長していきたいと考えているのかを具体的に把握できます。
「成長マインド+自由裁量」タイプ
自分の成長を強く求める一方で、それを達成するためには、自分の裁量で自由に仕事を進めたいと考えています。ルールや指示に縛られることを嫌い、自ら考え、行動し、新しいことに挑戦することでモチベーションが高まります。
「成長マインド+成功体験」タイプ
成長意欲が高く、目標達成や課題克服を通して、自分の成長を実感したいと考えています。困難な課題にも積極的に取り組み、成功体験を積み重ねることでモチベーションが向上します。
「成長マインド+連帯感」タイプ
自分の成長を望むと同時に、周囲の人との協力や一体感を重視します。チームでの目標達成に喜びを感じ、周りの人と協力し合いながら成長することでモチベーションが高まります。
「承認マインド+自由裁量」タイプ
周囲からの評価や承認を強く求める一方で、自分のペースで自由に仕事を進めたいと考えています。自分の能力や成果を認められるとモチベーションが高まりますが、干渉されることを嫌います。
「承認マインド+成功体験」タイプ
周囲からの評価や承認を得るために、積極的に目標達成を目指します。成功体験を通して、自分の能力を認められたいという気持ちが強く、高い目標に挑戦することでモチベーションが高まります。
「承認マインド+連帯感」タイプ
周囲の人と良い関係を築き、チームの一員として認められることを大切にします。チームへの貢献を通して、周囲からの評価や承認によってモチベーションが高まります。
「連帯マインド+自由裁量」タイプ
チームワークや仲間との協調性を重視しながらも、自分の裁量で自由に仕事を進めたいと考えています。チームの目標達成に貢献しつつ、個人の能力も発揮できる環境においてモチベーションが高まります。
「連帯マインド+成功体験」タイプ
チームで協力し、目標を達成することを通して、一体感や達成感を味わいたいと考えています。チームの成功に貢献できると、自分の存在価値を感じ、モチベーションを高めます。
「連帯マインド+連帯感」タイプ
仲間との協力や一体感を最も重視し、良好な人間関係の構築を大切にします。チームの一員として貢献し、周りの人と助け合いながら仕事をすることでモチベーションが高まります。
従業員を上記の9タイプに分けることで、会社や部署の「雰囲気」を、下図のように視覚化します。
6. 調査結果報告
本サービスでは、経験豊富な人事マネジメントのプロフェッショナルが、詳細な調査結果をもとに貴社専用の報告書を作成します。この報告書は、単なるデータの報告ではなく、下記のように、貴社の状況に合わせた深い洞察と実践的な提言を含んでいます。
まとめ:理論を「知る」から「使う」へ。そして「測る」へ
モチベーション理論は、決して難解な学問ではありません。むしろ、日々の関わり方を少し見直すだけで、チームに新たな活力をもたらすことができる、とても実践的なツールです。
マズローの欲求段階説を通じてメンバーの「今」を理解し、自己決定理論によって「内側から湧き上がるやる気」を引き出す視点を持つ。こうした理論は、あなたのマネジメントに確かな指針を与えてくれるはずです。
ですが、大切なのは理論を「知る」だけで終わらせないこと。それを現場で「活かす」こと、そしてその成果を「測る」ことが、真の変化を生むカギとなります。
理論を学び、データを味方にし、実践を通じて進化を続ける。そんな前向きなサイクルの中で、いきいきと働けるチームづくりを目指していきましょう。
なお、当社では、社員の「モチベーション」を可視化するアンケート調査サービスを行っております。ご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。