都内の古びたマンション。
狭いワンルームの空気は、どこか重たかった。
かつての広い部屋とは、まるで違う。
けれど——
その違和感すら、
美涙にははっきりと見えていなかった。
結城の視線が、
すべてを覆い隠していたからだ。
『もう3日も休んでるのよ……』
『まだそんなこと言ってるのか』
軽く笑う。
『あんな店にいる方がもったいない』
『君にはもっと上がある』
その言葉は、
優しくて——
どこか逃げ場がなかった。
『でも……誰にも言わずに来ちゃって』
胸の奥に、小さな棘が刺さる。
『戻ってみろよ』
『絶対に引き止められる』
『今がチャンスなんだ』
迷いを断ち切るような声。
『……わかった』
そう言った瞬間、
何かが決まってしまった気がした。
——そして翌日。
新宿のクラブ『G』。
豪華なはずの店内は、
どこか古びていて、息苦しかった。
『今日から出勤できるかな?』
笑顔の裏に、
圧のある声。
『まだ何も聞いていませんが』
その一言で、
空気が変わる。
『後で説明するから』
その投げやりの言葉がどうしても馴染めそうにないと思った。
そして美涙は逃げるように店を出た。
——違う。
ここじゃない。
そう思った。
けれど——
『もうバンスしてる』
結城の言葉が、すべてを変えた。
『……バンス?』
『前借りだよ』
時間が止まる。
『俺が受け取った』
その一言で、
すべてが崩れた。
『勝手に……?』
怒りよりも先に、
絶望が来た。
『俺のためだと思ってくれ』
その声は、
もう優しくなかった。
その時、ようやく気づいた。
——最初からお金が目的だったのだ。
けれど逃げるには、
もう遅かった。
『……いくら借りたの?』
『50万』
短い沈黙。
『わかった』
その一言で、
すべてを引き受けた。
——翌日。
美涙は一人で店に向かった。
『50万、ここにあります』
冷静な声だった。
『これで、終わりにしてください』
その瞬間——
ようやく、自由になった。
代わりに、
何か大切なものを失った。
——電話。
『……美月ちゃん?』
その声は、かすれていた。
『ごめんね……』
『今、駅前にいるの……』
『動けないの』
その言葉の奥に、
すべてが詰まっていた。
助けて——
そう言えない声だった。