【連載小説】第43話 消えた夜

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バークレーの扉を開けた瞬間、
いつもの温かい空気が流れてきた。

『おかあさん、こちら結城さん』

美涙の声は、いつもより少しだけ高かった。

『今日初めて会ったのに、
すごく相性がいいの』

その言葉に、
ママはどこか引っかかるものを感じた。

『結城さんね』

ママは静かに微笑み、
じっとその顔を見た。

『……東京の方ね』

『分かりますか?』

『ええ、なんとなく』

その“なんとなく”の奥に、
何かを探るような気配があった。

『占ってほしいの』

美涙は、無邪気にそう言った。

ママは少しだけ間を置き、
結城の手を取った。

『……難しい手相ね』

その一言で、空気が変わる。

『孤独の星が出てるわね』

『それに——
人を寄せ付けない距離を感じるわ』

結城は笑った。

だがその笑いは、
どこか乾いていた。

『そんなこと、考えたこともないな』

『そう……ならいいけど』

ママの声は、少しだけ曇っていた。

その時だった。

『このあと、二人でどこか行かない?』

結城が、美涙の耳元で囁いた。

甘い声。

逃げ場のない距離。

『……どうしよう』

その一瞬、
美涙の心が揺れたのが分かった。

『今日はやめた方がいいですよ』

美月は思わず言ってしまった。
理由は分からない。

けれど——

嫌な予感がした。

『そうね……今日は帰るわ』

その夜は、それで終わった。

——終わったはずだった。

翌日。

その次の日も。

結城は店に現れた。

そして同じように、
美涙を指名した。

『今夜は、二人で』

その手が、
静かに触れる。

拒む理由は、どこにもなかった。

いや——

本当は、あったのかもしれない。

けれどその時にはもう、
遅かった。

その夜、二人は店を出た。

暗闇の中へ、
吸い込まれるように。

——それが最後だった。

3日後。

『……美涙さん、今日も来てないのか?』

店長の声は、いつもと違っていた。

『連絡が取れないんだ』

その一言で、空気が凍る。

『自宅も留守だ』

嫌な予感が、現実になる。

『結城……か』

店長の顔が、歪んだ。

『あの男、前にも同じことをやってる』

静かに語られる過去。

甘い言葉で近づき、

気づいた時には——

すべてを奪っていく。

『もっと早く気づくべきだった……』

その言葉は、誰にも届かなかった。

もう、遅い。

美涙は——

消えてしまったのだから。
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