【連載小説】第36話 水面下の戦い

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今、この店は
ふたつの勢力がぶつかり合う渦の中にあった。

表向きは、華やかな笑顔。
けれどその裏では
誰にも気づかれないように、
静かな戦いが続いていた。

チーママの奈々ママチーム。
かつて大きなクラブでナンバーワンを張っていた女。

その実力を見込まれ、
大塚店長に引き抜かれてこの店に来た。

彼女の周りには常に人が集まり、
まるで女王のように君臨していた。
そして、その側に必ずいるのが一美。
奈々ママの機嫌を読み、
絶妙な距離で支える存在だった。

もうひとつの勢力。
それが、美涙のチーム。

オープン当初から店を支えてきた、
不動のナンバーワン。

その人柄は穏やかで、
自然と人が集まる。
けれど、
優しさは時に、弱さにもなる。
裏切られることも、少なくなかった。

そのふたつが、
静かにぶつかり合っていた。

今日は月に一度のミーティング。

女たちが一堂に会する場所。

『今月の売上ナンバーワンを発表します』
店長の声が響く。
拍手。
数字。
笑顔。

けれどその裏で、
誰が勝ち、誰が負けたのか
誰もが理解していた。

奈々ママの名前は呼ばれなかった。
チーママだから。
それだけの理由で。
その“扱い”に、
どこか張りつめた空気が漂う。

やがて、麗子ママが口を開いた。
『お客様を本気にさせるには、どうしたらいいと思う?』
静まり返る空間。

『答えは簡単よ。
自分も本気になること』

その言葉に、
美月は一瞬だけ引っかかりを感じた。
——本気?

『本気に好きになるって意味じゃないのよ』
『でも、心を込めないと伝わらないの』
美月はその言葉を聞きながら、
なぜか少しだけ怖くなった。

本気になる。
でも、本気になってはいけない。

その曖昧さが、
この世界の正体のような気がした。

『人として尽くすこと。
それが一番大事なの』
優しい言葉だった。
けれどどこか、
逃げ場のない響きがあった。

『今月も、みんなで頑張りましょうね』

最後の言葉は、
どこか力がなかった。

美月は、その声を聞きながら思った。
麗子ママは
もう、疲れているのかもしれない。

華やかに見えるこの場所で、
誰にも見えないまま、
何かを背負い続けているのだと。

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