【連載小説】第37話 宣戦布告

【連載小説】第37話 宣戦布告

記事
小説

『ひとつ、よろしいかしら』

沈黙を破ったのは、奈々ママだった。

その一言で、場の空気が変わる。

『最近、少し気になることがあるの』

静かな口調。

けれど、その声には棘があった。

『このお店は指名制よね。
誰でも指名されれば席につけるし、指名料も入る』

ゆっくりと、言葉を選ぶように話す。

『でも——』

その一瞬の“間”が、妙に長く感じられた。

『一部で、
お客様が特定の子を指名しないように
あることないことを吹き込んでいる、
そんな話が耳に入ってきたの』

ざわつきが、広がる。

『名前は出さないけれど——』

そう言いながら、

奈々ママの視線はまっすぐ、
美涙の方へ向けられていた。

それだけで十分だった。

誰のことを言っているのか。

この場にいる全員が理解した。

空気が、一気に張りつめる。

『みんな静かにしてくれ!』

大塚店長の声が響いた。

『今の話が事実なら、あってはならないことだ。
言動には十分気をつけるように』

そのまま場を収めようとした、その時。

『店長、ひとついいですか』

声を上げたのは、由佳だった。

『その話、証拠はあるんですか?』

場の空気が、さらに重くなる。

由佳は、美涙の一番の理解者だった。

義理と筋を重んじる女。

だからこそ、引かなかった。

『それは……』

さすがの店長も言葉に詰まる。

『私が答えるわ』

奈々ママが口を挟んだ。

『信頼できる人から直接聞いた話よ。
間違いないわ』

『その人って、どなたですか?』

一瞬で、空気が凍りついた。

『あなたに答える義務はないわ』

奈々ママの声は、
ほとんど悲鳴に近かった。

今にも何かが弾けそうな空気。

その時だった。

『もうその辺にしましょう』

麗子ママが、静かに口を開いた。

『事実関係は私たちで確認します。
今日はここまでにしましょう』

その一言で、
無理やり終わりを迎えた。

けれど——

何も終わってはいなかった。

このミーティングの間、

美涙は一度も表情を変えなかった。

それが、かえって不気味だった。

奈々ママの言葉は、
まるで宣戦布告のように店中へ広がった。

夜の世界は、弱肉強食。

一度でも隙を見せれば、
簡単に居場所を失う。

そして——

今日の出来事は、

まだ“始まり”に過ぎなかった。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら