【連載小説】第38話 嵐のあとに

記事
小説

その夜、
美涙たちはいつもの店に集まっていた。

『バークレー』

静かな灯りと、ピアノの音が流れる場所。

ここだけは、
あの店とは違う時間が流れていた。

『もう頭にきちゃう!』
由佳がグラスを置く音が、少しだけ強かった。

『絶対、奈々ママの仕業よ』
まだ怒りが残っている。

『まあまあ』
美涙は、いつもの調子でカクテルを口にした。

『そんなこと、たいした問題じゃないわ』
その言い方が、逆に余裕を感じさせた。

『だってあれ、完全に美涙さんのことじゃない!』

『分かってる人は分かってるわよ』
さらりと返す。

『こんなことでお客さんが離れるようなら、
最初からそこまでってことよ』

その言葉に、
誰も何も言えなくなった。

強い。
美月は、そう思った。

騒がない強さ。
揺れない強さ。
それが、
この世界で生きていく人の姿なのかもしれない。

『今日はもうやめましょ』
『飲みましょうよ』
空気が、少しずつ和らいでいく。

『そうだ、美月ちゃんの歓迎会しようか』
突然、美涙が言った。

『えっ、私ですか?』

『そうよ。今日から仲間なんだから』

その言葉が、
少しだけ胸に残った。
この人たちは、
敵なのか味方なのか。
まだ分からない。

けれど——
ここには、居場所がある気がした。

『いらっしゃい』
カウンターの奥から、
柔らかな声がした。
この店のママだった。

皆から「おかあさん」と呼ばれている人。

『美月ちゃんね』
じっと見つめられる。
『あなた、何か持ってるわね』
突然の言葉に、戸惑う。

『ちょっと名前と生年月日、書いてみて』
言われるままに書くと、
ママはしばらくそれを見つめていた。

『なるほどね……』

ゆっくりと顔を上げる。

『あなた、本当は——
男として生まれるはずだったのよ』
一瞬、意味が分からなかった。

『一生、仕事をする人ね。
人の上に立つ人よ』

静かに言われたその言葉は、
なぜか胸の奥に残った。

『それって……結婚できないってことですか?』
思わず聞いていた。

ママは少しだけ笑った。

『違うわ。ただ——
普通の女の人とは少し違う人生になるってこと』

その言葉の意味を、
この時の美月はまだ知らなかった。

けれど——
この出会いが、
自分の人生を大きく変えることになるとは、
まだ知るはずもなかった。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら