【連載小説】第28話 約束の交差点

記事
小説

その日から萌の頭の中には
智史が住みついてしまったかのように、
何をしていても、ふとした瞬間に思い出してしまう。
会いたくて、仕方がなかった。

『もしもし、智史さん。何してるの?』

『ああ、萌ちゃん。さっき電話で話したばかりだよ。どうしたの?』

『だって気になるんだもん。そんな意地悪言わないで。じゃあ、切るからね』

『冗談だよ。ねえ、今夜、銀座に行こうか。
一緒に行きたいレストランがあるんだ』

『嬉しい!智史と一緒なら、どこでも行きたい』

『それじゃ、夕方六時。四丁目の時計台の前で』

『分かった。とびきりのお洒落していくね』

実は最初、「銀座」と聞いて、ほんの少しだけ戸惑った。
そこは、母親の街だったから。
それでも、、、
智史との約束は、何よりも優先された。

萌は、初めて袖を通すオフホワイトのワンピースに、
ベージュのコートを羽織った。
銀座の街に似合うようにと選んだ、
少しだけ背伸びをした装いだった。

靴を履こうとした、そのとき
ふいに、ベルトが切れた。
一瞬、手が止まる。
けれど深く考えることもなく、
別のベージュの靴に履き替えて、家を出た。

待ち合わせの時間までは、まだ少しある。
萌は、智史へのプレゼントを買おうと
四丁目の交差点へ向かった。

信号が変わる。
一歩、踏み出した、その瞬間
突如、視界を切り裂くように
一台の車が突っ込んできた。
爆音。
ブレーキの軋み。
誰かの叫び声。
すべてが、重なり合って
萌の意識は、途切れた。

遠ざかっていく救急車のサイレン。
智史は、まだ少し早かったかと
腕時計に目を落とす。

午後5時55分。

その時、萌が瀕死の状態で
救急車の中にいることを
彼は、まだ知らない。

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す ココナラコンテンツマーケット ノウハウ記事・テンプレート・デザイン素材はこちら