午後6時を過ぎても、萌は現れなかった。
人混みの中で、智史は何度も時計を見た。
遅いな。
その違和感の正体に、まだ気づいていなかった。
『もしもし、こちらは築地警察の安藤と申します。高梨さんですよね。萌さんはお子さんですか?』
いきなりかかってきた電話は詐欺かと切ろうとした時、萌の名前がでたので驚いて返事をした。
『はい、そうですが、、、』
『実は萌さんが銀座で交通事故に合いまして今、中央病院へ運び込まれました』
その冷静な声が遠くから聞こえてきた瞬間、雅子の手から受話器が滑り落ちた。
足の力が抜け、床に膝をつく。
何を言われたのか、理解が追いつかなかった。
『それで萌は?』
そう聞くのがやっとだった。
萌は緊急手術により一命は取り留めたが予断を許さない状況に陥っていた。
時折聞こえる呼吸器の音だけが聞こえる静か病室だった。
智史はどこにいるの?
待ち合わせの場所にいるのにいくら待ってても智史が来ない。
萌は夢の中で智史を待ち焦がれていた。
ふと目を開けると白い天井が見えた。
ここはどこなのか?
体が動かない。
自分の体ではない感覚。
声を出したくても
声も出ない。
遠くから自分の名前を呼ぶ母親の声。
萌は意識が戻ったのも束の間、
やはりそう長く持たないと母親と医師らしき人との会話が耳に入った。
萌は夢と現実の狭間で、
自分の置かれている状況を、なんとなく理解した。
けれど、そのことを誰にも伝えることはできなかった。