帰りを待っているかのように、
いつもと変わらない萌の部屋はまるで、
時間だけがそこに置き去りにされたようになっていた。
あれから何年経っただろうか?
最初は何もかも手がつかず、ただただ泣いてばかりの日々だったが
時間が雅子を少しづつ癒してくれた。
それでも、心の奥に残った傷が消えることはなかった。
そんなある日、
思いがけず弟から電話があった。
『姉さん、元気にしてる?』
『珍しいじゃない、何かあったの?』
『それがさ、ちょっと頼みがあって電話したんだ』
その声は少し照れているような嬉しそうな声だった。
『俺の知り合いで銀座で働いてみたいって子がいて姉さんに紹介したいのだけど、どうかな?』
『そんなお願い初めてね、嬉しわ、いつでもいいから合わせてよ』
弟の高坂はそんな頼みをした事がなかったのでほっと胸を撫で下ろした。
『それじゃ、本人と相談してまた連絡するよ』
その電話こそが雅子と美月の運命が、静かに交差する始まりだった。
その名は、
美月。
波瀾万丈の海に飲み込まれそうになりながらも
必死に生きるひとりの女の物語が、
いま、静かに幕を開けようとしていた。