【連載小説】第27話 揺れる心

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「萌ちゃん、智史だけど」ともう一度言った。
あの冷静な智史の苛立っているような緊迫した声に萌は緊張した。
「何か用かしら?」
萌は智史のことも信じられなくなっていた。
「萌ちゃん大変なんだ。
拓海が事故っちゃって今、救急車で運ばれて緊急手術してるんだ」
「拓海が?怪我したの?大怪我なの?」
萌は電話を床に落ちたのも気がつかないくらい動揺していた。
「もしもし!もしもし!聞いてる?」
萌は微かに聞こえる智史の声にはっと我に返った。
「どこの病院なの?今から行くわ」
「わかった、六本木の港病院という所だ!一階の待合室で待ってるから」
萌はコートも羽織らず外へ飛び出した。
冬の夜の空気が胸に刺さるようだった。

その病院は救急車のサイレンが遠くで鳴り続け、
待合室には重たい空気が漂っていた。

『ああ、萌ちゃんここだよ』
『それで拓海は?』
萌は恐る恐る聞いた。
『まだ手術中でわかんないだ』
『いったい何があったの?』
『それが六本木の交差点で右折しようとしたら
信号無視のオートバイがいきなり車の前に突っ込んきて
それを避けようとして反対側に飛び出しちゃってそこに運悪く4トントラックに正面衝突さ』
智史はもうそれ以上、声が出せなくなった。
萌も声にならない嗚咽でその場に崩れ落ちた。
『萌ちゃん、ここに座って』
と言うのがやっとのことだった。
あまりにひどい事故で車は原型を留めていなかったと聞いていた。
命があるほうが不思議なくらいの大事故だった。

『あなた、どうしたらいいの、、、』
『もう天に任せるしかないよ』
と拓海の両親は手術室の前でいつ終るともわからない
地獄の時間を耐えていた。
拓海は名家の一人息子だった。
両親にとって、彼は何よりも大切な存在だった。
そしてそれから数時間後
拓海は一命を取り留めたが脊髄を痛めて
車椅子の生活を余儀なくされた。
それでも命が助かっただけでも良かったと
両親は拓海の運の強さに感謝した。
そう、たった一人の跡取り息子を失くすわけにはいかなかった。

『智史さん今日は連絡くれてありがとう』
『俺、余計なことしかたかな?』
『ううん、拓海のことを忘れようと努力したけどどこかでまだ納得してない自分がいたの。
でも今日で元の私に戻れそうよ』
とその時、萌はふと智史を見た。
今までなぜ気づかなかったのか?
優しさの中に精悍さを秘めた横顔。
萌の心の奥のほうに小さな火がついた。
もしかしたら私は恋多き女なのだろうか?
自分でも信じられない思いだった。
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