【連載小説】第21話 光の前夜、影は動く

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萌はもう少女ではなかった。
母が頂点へ駆け上がる間に、
彼女もまた、大人になりかけていた。
だがその家には
温もりより静寂が多かった。

雅子は年収が億を超える銀座でも伝説的な女性へと登りつめ、
この秋に念願のお店をオープンすることとなった。
何処にでもあるようなお店ならばいつでも出来たのだが
夜の銀座のメインストリートといえば並木通りで
そのビルには名の知れた有名店ばかりが入っていた。
雅子は自分の店はそこ以外は考えられなかった。
そしてお店の格を上げるためには
銀座でも屈指のホステス達を集めることが
重要課題だった。
どれだけ売上の数字を持っている女性を集めることができるかが
勝負の分かれ道になる。
それには周到に準備する必要があり
数年の月日を要した。
そしてやっとすべてが揃いオープンとなったのである。

萌はいつの日からか
仕事に夢中になっている母親に対して
憎しみさえも覚えるようになっていた。
同じ家に住みながらすれ違いの日々は、
離れて暮らしているよりも辛く感じるのではないかと思った。

そして事件は突然訪れた。
それはまさに雅子の夢が花開くオープンの前日に起きてしまった。
その日は夕方からスタッフ全員を集めて最終ミーティングの最中のことだった。
『もしもし奥様!大変です!』
『あら恒さん、今ミーティング中なのよ』
『それが奥様の部屋に洗濯物を仕舞おうと入ったら書置きがあったのです』
『書置きってまさか家出とか?ちょっと待って』
と雅子はホールから出て誰も居ない場所を探して話し始めた。
『恒さんその手紙開けていいから読んでちょうだい』
『では読みますよ。
”ママへ。
私はこの家に居ても居なくても同じかなと思うので出て行きます。
ママは私が居ないのも気がつかないかもしれないので
一応手紙書きました。萌”
やはり奥様家出ですよ。すぐ警察へ電話しないと』
『待って』
雅子の声は冷静だった。
『明日オープンなのよ』
その一言で、すべてが決まった。
母より、女王を選んだのだ。

六本木のネオンは眩しかった。
だが萌の影は、やけに長い。
家は出たものの、
行く場所もない。
ゲームセンターの音だけが
孤独をごまかしてくれる。

『あのさ、俺達と遊ばねえ』
と見るからに柄の悪い3人組の男が萌を囲んだ。
『えっ、いいえ』
『いいじゃねえか。こっちに来いよ』
『やめてください。痛い!』
と無理やり萌の手を引っ張った。
萌は怖くて声も出せなかった。
『イヤー』
とその場にしゃがみ込んで抵抗したが
男の力には勝てなくて簡単に抱えられてしまった。
とその時、
『やめろ』
低い声だった。
空気が一瞬止まる。
男達が振り返ると、
そこに立っていたのは一人の青年。
睨みつける目は鋭いが、
萌を見る視線だけが違った。
その瞬間、
萌は初めて息ができた。
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