前回の記事([備品・SaaS・資産管理が続かない理由と、潰れない最小設計])では、管理が続かない原因と、削る思想について書きました。
今回から2回に分けて、具体的にどう実装したかを書きます。
前編では、仕組みの土台作りについて。
後編では、運用の仕組み化について。
思いの他、長くなりすぎました…。
前提:この実装が向いている会社
・従業員数10〜50人程度
・バックオフィス担当が1〜2名
・備品・SaaS管理が止まっている、または形骸化している
100人超の会社や、すでに専用システムがある会社向きではありません。
全体の流れ
実装は以下の順番で進めました。
【前編:仕組みの土台作り】
1.現状把握(1週間)
2.管理対象の絞り込み(1日)
3.台帳の再設計(1日)
4.法人カード統制の導入(2ヶ月)
【後編:運用の仕組み化】
5. ワークフローの設定(1日)
6. 退職フローの更新(1日)
合計:約2〜3ヶ月
ステップ1:現状把握(1週間)
なぜこのステップが必要か
「何が問題なのか」が見えていないと、正しい対策が打てません。
多くの会社は「管理が続かない」という課題感だけで、具体的に何がどれだけ漏れているのか、なぜ漏れているのかを把握していません。
まず、現実を数字で見える化することが、全ての出発点です。
やったこと
① 既存の台帳・リストを全部集める
備品台帳(Excel)
SaaS一覧(スプレッドシート)
固定資産台帳(会計ソフト)
② 法人カードの明細を3ヶ月分見る
どんなSaaSが契約されているか
台帳に載っていないものはないか
③ 社員に直接聞く
「今どんなツール使ってますか?」
わかったこと
台帳に載っているもの:60%
台帳に載っていないもの:40%
台帳に載っていない理由:
1.創業期から使っており、報告対象の認識がなかった
2.契約時にどのように扱えばよいか分からず、放置していた
3.トライアルで始めて、そのまま有料化していた
この数字を見て、「台帳を頑張って更新する」という方針では解決しないと確信しました。
ステップ2:管理対象の絞り込み(1日)
なぜこのステップが必要か
全てを管理しようとすると、必ず崩壊します。
管理が続かない最大の原因は「管理対象が多すぎる」こと。だから、まず管理する必要があるものだけに絞り込む必要があります。
ここで重要なのは、「固定資産かどうか」ではなく「リスクがあるかどうか」で判断すること。会計上の管理と、業務上の管理は別物です。
判断基準
1.紛失・盗難のリスクがあるもの(PC、スマホ、タブレット)
2.高額で買い直しが痛いもの(モニター)
3.契約が自動更新されるもの(SaaS)
その結果、管理対象外としたのは、
安価で解直しが出来る:キーボード・マウス・ケーブル類
大きすぎて持ち帰れないもの:デスク・チェア・ロッカー
これを経営陣に共有し、合意を取りました
「什器を管理しなくて大丈夫ですか?」と聞かれましたが、「持ち帰れないのでリスクが低い。また、会計では固定資産として管理できています」と説明して納得してもらいました。
この絞り込みにより、管理対象が半分近くになり、運用の負担が大きく減りました。
ステップ3:台帳の再設計(1日)
なぜこのステップが必要か
台帳の項目が多すぎると、誰も更新しなくなります。
「情報は多い方がいい」と考えがちですが、実際には逆です。項目が多いと「全部埋めないと気持ち悪い」という心理が働き、結果として誰も入力しなくなります。
ここで必要なのは、「必要最低限の情報だけ残す」という割り切りです。
旧台帳の問題点
・項目が12個もあり、誰も更新しない
・購入日・金額は会計ソフトと重複
・型番・メーカーは故障時に調べればいい
新台帳(5項目のみ)
IT資産台帳:管理番号/品目/利用者/配布日/備考
SaaS台帳:サービス名/契約プラン/利用者数/更新月/管理者
購入日・金額は会計ソフトに任せ、型番は必要な時に調べる。
**「完璧な情報」より「更新され続ける情報」**を優先しました。
この台帳なら、1件の入力に30秒もかかりません。
ステップ4:法人カード統制の導入(2ヶ月)
なぜこのステップが必要か
台帳を頑張って更新しても、契約自体が把握できていなければ意味がありません。
ステップ1でわかった通り、SaaSの40%は台帳に載っていませんでした。つまり、「台帳を更新する」という仕組みだけでは、絶対に漏れが生まれるということです。
だから、契約が発生した瞬間に自動的に可視化される仕組みが必要です。それが「法人カード統制」です。
4-1. 法人カードの発行
管理部名義で法人カード発行
4-2. 社内説明会の実施
説明した内容
・今後、SaaS契約は全て法人カードで行う
・個人カードでの立替後の経費精算は不可
・既存契約も順次、法人カードに切り替える
4-3. 社内からの反発と対処
いちいち管理部にカード情報等、確認するのは面倒だ。との声も上がりました。
「これは管理を厳しくするためではなく、契約の全体像を把握し、無駄な支出を防ぐためです。実際、過去に退職者の契約が残っていて、年間3万円無駄にしました。」
実害を示すことで、納得してもらえました。
4-4. 既存契約の切り替え(2ヶ月)
これが一番大変でした。
なぜ大変だったか:
1.各サービスごとに手続きが違う
ある会社は管理画面で変更できる。ある会社はサポートへの連絡が必要。ある会社は書類が必要。
2.契約者の変更に時間がかかる
「本人確認が必要」「退職者なので連絡が取れない」「契約書の再締結が必要」など、想定外の手間が発生。
3.サポートの対応速度がバラバラ
即日対応してくれる会社もあれば、1週間返信が来ない会社もある。
やったこと
・ステップ1で洗い出したSaaSリストを元に、支払方法を法人カードに変更
・各サービスのサポートに連絡
・変更できないものは、契約者を管理部に変更
かかった時間:約2ヶ月
一つのサービスで1週間かかることもありました。
4-5. 法人カード統制の効果
導入後、こうなりました。
契約の発生 = カード明細の発生
つまり、台帳を更新しなくても、契約の全体像が見えるようになりました。
月に1回、カード明細を見るだけで:
・新しい契約が増えたか
・解約されていない契約はないか
・金額が変わった契約はないか
これが一目でわかります。
まとめ:前編で作った土台
やったこと
1.現状把握(台帳・カード明細の確認、社員ヒアリング)
2.管理対象の絞り込み(リスクベースで判断)
3.台帳の再設計(項目を5つに削減)
4.法人カード統制の導入(既存契約の切り替えに2ヶ月)
得られた効果
SaaS契約の把握率:60% → 100%
台帳更新の負担:激減
次回(後編)では、この土台の上に「ワークフロー」と「退職フロー」を組み込み、運用を仕組み化します。