私はサラリーマン。
ただのサラリーマンではない。
筋金入りのサラリーマンなのだ。
妙な緊張感が漂う。
名もない絵画が飾られた会議室で役員は無表情で私にこう告げた。
「来期から、子会社へ出向してくれ。」
これまで2年に1回のペースで異動して来た。
その度に想定した範疇での異動であったが、今回は全くノーガードで、正直、驚いた。
動揺していないようにジッと役員の目を見据えたままではあったが、だぶん、顔が引きつっていたんだと思う。
" 左遷 "
そんな言葉が頭をよぎる。
地方の営業部門から全社統括部門へ抜擢され、山ほど失敗もして来たけど
ようやく異動してきた本社でのプレゼンスも高まって来たところで、である。
「はい。わかりました。」
そう、言葉を絞り出すのが精一杯だった。
ラインから外された。
そう感じた。
もちろん、出向先から返り咲いて大きなポジションを任されるケースもある。
ただそれは稀なケースなので、気分は大いに沈み込んだ。
落ち込んだ。
疑問だらけだった。
なぜだ?
なぜなんだ。
どこかで会社の成長を願い、全力で走って来たからこそ、頭が真っ白になり、思考が停止し、相当落ち込んだ。
出世街道を突き進むエリートサラリーマンは別として
こんな気持ちを感じるサラリーマンって結構いるんだろうな。
プツッと、何かの糸が切れた。
*
かくして、あたたかい送迎を受け、子会社へ旅立つことになった。
その行き先は沖縄🌺
かなり落ち込みもしたけど、それを周りの反応が救ってくれた。
取引先や関係者に異動と報告する度に必ずと言っていいほど「なんて羨ましい!!」という反応。
これが何回も続いてくると、あら?意外といいのか?
と思って来たりして(単純ですええ)。
楽しもうかな。せっかくなんで🏄♪
子会社に赴任してからというもの、沖縄の美しい自然、おおらかで優しい人たち、音楽、食、歴史、文化と、私の荒んだココロは癒されることになる。
この期間には、今までにない多くのチャレンジをしてみた。
何しろ今までとは比べ物にならないくらい自分の自由な時間がある。
英会話、アメブロ、三線。
楽しく、とにかく心向くままに行動した。
また、多くの人との出会いがあり、社内外で仲間と呼べる友達ができ、
「本当の自分」に気が付くというとても大切な期間となった。
そして
限りあるこの人生を最高のものにすると、決めた。
仕事は順調に進み、社員からも信頼を得るようになって行った。
そうこうしているうちに、家族や自分の時間を削ってまで、身を粉にして働いていた自分を客観視するようになっていた。
あそこまで働いたのは、何のためだったんだろう。
まさに、社畜じゃんか!
適度な距離感が奏功したのか、
家族とも良好な関係になって行った。
もはや"理不尽さん"はどこか遠いところへ行ってしまい、今は感謝ばかりが我が身を覆うのだ。
あー、ココロから、ありがとう!!
本当にありがとう!
子会社出向でのミッションは、自立により、長年続いていた親会社からの出向サポートを終わらせることだった。
連結決算、管理会計、各種規程や内部統制の整備、上場企業のグループ会社としての文化醸成など。
みなさんの頑張りで、ようやく自立することができ、それら全てを成し遂げることができました(涙)。
みなさん、本当によくがんばってくれました。
ありがとう。
ありがとう。
実は、私は沖縄生まれ。
幼少期、社会人生活とほとんど首都圏で過ごして来たけど、ココロの奥底でいつかは沖縄のために何かしたいと思っていた。
ひょんなことから沖縄の子会社への出向を命じられ、何十年振りに沖縄に帰って来たのでした。
いき込んで来たものの、逆に教えてもらうことの方がはるかに多く、忘れていたものを思い出させてくれた。
明るく、ユーモアたっぷりでありながら知的で、思慮深い。
そして"今"を大切に、楽しく、伸び伸びと生活している。
毎日毎日充実した日々を過ごし、2年かけてミッションは無事達成することができたのでした。
そしてお役目達成につき、本社へ返り咲くことになった。
最終日、多くの社員がデスクに来てくれた。
本当にお世話になりましたー
赤ちゃんができるからいいパパになるんよ
異動するけど、そのマインドで現場を明るくしてね
2年前とは別人のように成長しているよ、大丈夫
自分とのあの約束、果たすんだぞ
みんな大人のくせして、笑いながら泣きながら握手やハグ祭り。
そんな最高の出向は、終わった。
*
久しぶりの本社。
ミッション達成で胸を張って凱旋
と言いたいところだが、異動先が微妙であった。
社長直轄部署というところまでは良かったが、複雑化した全社システムのリプレイスであり、またもや未経験分野への異動。
全力疾走が求めれれる大きな仕事だった。
正直、イヤだな、と思った。
きっと身を粉にして走ればできるかもしれない。
やりたい仕事か?というと、決してそうではなかった。
加えて、異動後3ヶ月様子を見て悟った。
このセクションには愛が無い。
チームに活力が無く、上辺の付き合いに終始している。
社長や上長を気にし過ぎて、忖度してばかりで、伸び伸びとやるべき仕事をしていない。
責任者がそうなのだから仕方がない。
改善を進言しても先送りするばかりで、何とも居心地が悪い。
今回は立て直す気になれない。
静かに思った。
ここはオレの居る場所じゃない。
これまでなら我慢して、自分を押し殺して、サラリーマンとして受け入れ、おとなしく業務に専念するんだろう。
でも、今は違う。
自分の世界観を大切し、最高の人生にすると決めたのだ。
少しユルくてもいい、自分が"今"何を感じ、どうしたいのか?
ココロがスーッと向かう方へ行きたいし、そう生きたいんだ!
そして、あろうことか、新卒入社以来何十年も働いた東証プライム本社管理職を捨てることにした。
*
新しい上長に時間をいただき、またしても名も無い絵画が飾られている無機質な応接室でこう切り出した。
「この度、一身上の都合により、退職させていただきたいと思います。」
つづく